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「つまり、責任を取ろうってことねん~」
事情を話しているうちに、相手の話術に嵌まって必要ではないことまで話してしまった。
町のギルド長であるレティシアは、応接室に通したユルティナを前に、んふふっと嬉しそうに笑う。
ただ書類を提出しにきただけのつもりだったのに、レティシアに見つかって応接室に連れ込まれてしまったのである。
「素敵。主と騎士の恋ねぇ」
「カルロは騎士じゃないわ。契約で護衛になったから、傭兵みたいな――」
「んもうっ、ロマンスの定番は騎士と貴族なのよ。じつは私も、素敵なロマンスを求めているの」
「レティシアさん、御年いくつだっけ」
「今年で八十三歳よ、うふ」
特別若作りというわけでもなく、大体そんなくらいかな、といった見た目のままの年齢である。
依頼斡旋ギルドは国家とは別の組織だが、大陸全体に存在するため、国を跨いで存在する一つの組織なのだ。
ゆえに、いくら小さな町のギルドとはいえ、長になるためにはかなりの経験と才能が必要なのである。
レティシアも、あちこちの依頼斡旋ギルドを点々とし、ここに落ち着いた身だった。
「いいことだわぁ。以前王都で会ったときのあんた、つまんない女だったもの~」
ちなみにユルティナはレティシアと知り合いである。
王都で暮らしていた頃、ちょっとした仕事をギルドへ依頼にいった際に知り合ったのだった。
「貴族はそういうものなの。騒がしくしたり、感情を表に出したり、そういうのは恥なのよ」
それに前世も思い出していなかったし、と心の中で付け足す。
かなり型通りの公爵令嬢として生きてきた自覚があるため、レティシアの言いたいこともわかる気がした。
「だったら、公爵令嬢なんか辞めて正解よん。真実の愛にも目覚めたことだし、これからのあんたの人生きっと輝くわよぉ」
「真実の愛って」
「受け入れることにしたんでしょ? その人のこと。それって愛じゃないの」
ユルティナは口ごもった。
確かに、カルロの気持ちを聞いて尚雇用継続を決めたのだから、受け入れたということになるのかもしれない。
(……いや、なるの? ただ嫌われてなかったみたいだから継続しただけなのに)
うーんと悩むユルティナに、レティシアがくすりと微笑みかけた。
「もし、あんたに心底惚れてるって野郎が、そのカルロってやつじゃなく他の使用人でも、同じだったぁ? ほらん、王都にいた頃は他にも護衛いたでしょ~?」
「……それは」
何人かユルティナの護衛だった男の姿を思い浮かべて、彼らがユルティナに懸想していると仮定する。
彼らに求めているのは仕事に対する誇りであり、忠実さだ。
側仕えならばともかく、護衛にユルティナ個人に対する忠誠心は求めていない。
己の仕事に対して真剣に向き合うことを求めていた。
そんな彼らに邪な、持て余すほどの欲望を向けられたとしたら――。
(問題が起こる前に、解雇するわね)
それは王太子の婚約者だった頃もそうだが、今の方がより間違いが起こりやすい。
ゆえに、傍にはユルティナに無関心な仕事に誠実な者が好ましいのである。
「…………そうね」
くすりと笑った。
(どうして、カルロを解雇しないのか……彼になら、襲われてもいいって思ってるからだわ)
根底でカルロを認めているから、ユルティナの考えも飛躍していたのだ。
冷静になって考えれば、襲われたらどうしようと考えること自体不自然である。危険性があるのならばカルロ本人を排除すればよいだけなのに……。
ユルティナはカルロを思った。
今頃どうして居るだろうかと考えて、無性に会いたくなった。
「若いっていいわねぇ」
「レティシアにも若い頃があったでしょ?」
「あぁんないい身体の男に愛された経験なんてないわよぉ~。それに私は細身の男がタイプなのん」
そうだ。
襲われるにしても、カルロを望んで受け入れるにしても、問題はユルティナの身の安全である。
どうしたら、今後のために――幸せなスローライフを送るためによいだろうか。
(……そうだわ)
ふと、妙案が浮かんだ。
事情を話しているうちに、相手の話術に嵌まって必要ではないことまで話してしまった。
町のギルド長であるレティシアは、応接室に通したユルティナを前に、んふふっと嬉しそうに笑う。
ただ書類を提出しにきただけのつもりだったのに、レティシアに見つかって応接室に連れ込まれてしまったのである。
「素敵。主と騎士の恋ねぇ」
「カルロは騎士じゃないわ。契約で護衛になったから、傭兵みたいな――」
「んもうっ、ロマンスの定番は騎士と貴族なのよ。じつは私も、素敵なロマンスを求めているの」
「レティシアさん、御年いくつだっけ」
「今年で八十三歳よ、うふ」
特別若作りというわけでもなく、大体そんなくらいかな、といった見た目のままの年齢である。
依頼斡旋ギルドは国家とは別の組織だが、大陸全体に存在するため、国を跨いで存在する一つの組織なのだ。
ゆえに、いくら小さな町のギルドとはいえ、長になるためにはかなりの経験と才能が必要なのである。
レティシアも、あちこちの依頼斡旋ギルドを点々とし、ここに落ち着いた身だった。
「いいことだわぁ。以前王都で会ったときのあんた、つまんない女だったもの~」
ちなみにユルティナはレティシアと知り合いである。
王都で暮らしていた頃、ちょっとした仕事をギルドへ依頼にいった際に知り合ったのだった。
「貴族はそういうものなの。騒がしくしたり、感情を表に出したり、そういうのは恥なのよ」
それに前世も思い出していなかったし、と心の中で付け足す。
かなり型通りの公爵令嬢として生きてきた自覚があるため、レティシアの言いたいこともわかる気がした。
「だったら、公爵令嬢なんか辞めて正解よん。真実の愛にも目覚めたことだし、これからのあんたの人生きっと輝くわよぉ」
「真実の愛って」
「受け入れることにしたんでしょ? その人のこと。それって愛じゃないの」
ユルティナは口ごもった。
確かに、カルロの気持ちを聞いて尚雇用継続を決めたのだから、受け入れたということになるのかもしれない。
(……いや、なるの? ただ嫌われてなかったみたいだから継続しただけなのに)
うーんと悩むユルティナに、レティシアがくすりと微笑みかけた。
「もし、あんたに心底惚れてるって野郎が、そのカルロってやつじゃなく他の使用人でも、同じだったぁ? ほらん、王都にいた頃は他にも護衛いたでしょ~?」
「……それは」
何人かユルティナの護衛だった男の姿を思い浮かべて、彼らがユルティナに懸想していると仮定する。
彼らに求めているのは仕事に対する誇りであり、忠実さだ。
側仕えならばともかく、護衛にユルティナ個人に対する忠誠心は求めていない。
己の仕事に対して真剣に向き合うことを求めていた。
そんな彼らに邪な、持て余すほどの欲望を向けられたとしたら――。
(問題が起こる前に、解雇するわね)
それは王太子の婚約者だった頃もそうだが、今の方がより間違いが起こりやすい。
ゆえに、傍にはユルティナに無関心な仕事に誠実な者が好ましいのである。
「…………そうね」
くすりと笑った。
(どうして、カルロを解雇しないのか……彼になら、襲われてもいいって思ってるからだわ)
根底でカルロを認めているから、ユルティナの考えも飛躍していたのだ。
冷静になって考えれば、襲われたらどうしようと考えること自体不自然である。危険性があるのならばカルロ本人を排除すればよいだけなのに……。
ユルティナはカルロを思った。
今頃どうして居るだろうかと考えて、無性に会いたくなった。
「若いっていいわねぇ」
「レティシアにも若い頃があったでしょ?」
「あぁんないい身体の男に愛された経験なんてないわよぉ~。それに私は細身の男がタイプなのん」
そうだ。
襲われるにしても、カルロを望んで受け入れるにしても、問題はユルティナの身の安全である。
どうしたら、今後のために――幸せなスローライフを送るためによいだろうか。
(……そうだわ)
ふと、妙案が浮かんだ。
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