虎に百合の花束を

六花瑛里

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本編

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※他の女性と絡みます。

この話を入れようかどうか悩みましたが、あえて入れることにしました。
いろいろと胸くそ悪く思われる方もいると思いますので、苦手な方はこの話を飛ばしてください。


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  『分かった』という一言と、ひねくれたキャラクターが手を振るスタンプが届いた画面を眺める。

 何とも言い表せない気分に、イライラしながら歩く。
 こんな一言で終わるような関係だったのかと、むしゃくしゃした。

 「大雅先輩、どこ行くの?」

 左腕に纏わりつく存在を思い出して立ち止まり、その存在――美羽ミウを見る。

 大学時代に同じサークルの後輩で、一度だけ関係を持った子だ。それだけの関係。










 「あっ、ああああああ!!イク!イク!」

 ガツガツと美羽の肉襞を剛直で何度も擦る。隘路が収縮するが射精感は感じなくて、それにイラついて止まることなく何度も膣内を抉る。

 「イッてる!イッてるから!!」

 美羽の叫びなど聞こえてないのかタイガはガツガツと抉り、美羽を膝立ちにして下から上に突き抜くように何度も抽挿を繰り返す。膝で立っていられないのか美羽が力なく倒れこむのを冷めた目で見ながら、四つん這いになった彼女の腰を押さえつけてさらに肉襞を擦り抉った。

 「あああああ!壊れる!壊れちゃう!!」

 悲鳴に似たような声がビクビクっと大きく痙攣し力なくベッドに沈む。それでも射精感はなくて、萎えようとしている自身に舌打ちし、美羽の隘路から引き抜くとバスルームに向かった。
 シャワーのハンドルを捻れば、冷たい水が頭を濡らす。火照った体に冷たい水が気持ち良かったが、冷え切った心は何も感じない。

 通常の大きさに戻った自身に被さっているコンドームを外し、中身のないそれを裏返してシャワーのお湯を洗うように当てて、その場に放り投げる。


 昨日の夜に蕩けあうように抱き合った悠莉の事が頭の中から離れない。

 今日は悠莉の誕生日だった。彼女の誕生日だと知ったのは1年前。偶然に彼女のスマホのディスプレイが見えて、そこに友達からの誕生日を祝うメールが届いていた。だから、何となく覚えていた。今年は前もってプレゼントを用意していたが、渡すことが出来ずに車の中に入れっぱなしにしてある。

 渡すのが怖いと思った。悠莉との関係は薄っぺらい。お互いの素性さえ曖昧で誕生日なんて聞いたことも聞かれたこともなかった。それを自覚した瞬間、恐怖が首をもたげた。彼女の個人情報なんてほとんど知らない。初めて彼女の自宅の場所を知ったのは昨日の夜に彼女を自宅まで車で送ったから。

 その関係を壊したくなくて、手放したくなくて、曖昧な関係を2年も続けている。

 他の女を抱く行為は酷く空しくて、あの日、悠莉を知ってからは彼女だけしか抱いていない。
 仕事が忙しくなればなるほど会う日が限られてしまうけど、それでも彼女と会う日を作るために、彼女と楽しむだけのために仕事に勤しんだ。


 昨日の彼女の痴態を思い出すだけ勃起する自身に苦笑しながら、それを上下に扱く。何度も何度も彼女の肌の感触と甘い啼き声に先ほどは感じなかった射精感が襲ってきて、扱くスピードが増していく。彼女の匂いが漂う気がした瞬間に射精した。

 「……リリィ……」

 彼女の名を甘く呼べば、あの熱を持った艶やかな瞳を思い出して、熱くなった自身に苦笑した。




 今日彼女の隣を歩く男を見て、血の気が失せた。

 今日この大切な日を、自分じゃない違う男と、しかも腕を組んで楽し気に歩いている。アレが本命なのか?と数時間前までの幸せな時間が脆く崩れていくのを感じた。
 自分の腕の中で見せたあの顔を、その男にも見せるのかと思うと、腹の奥からドロッとした熱い黒いモノが渦巻いた。ドロドロとして気持ち悪いモノをこれ以上増やしたくなくて、すぐに彼女にメールを送った。そして返ってきたメールを見てから記憶があやふやで……気が付けばベッドの上で他の女の中で腰を振っていた。

 掴み損ねたモノに、手から零れ落ちたモノに、手放してしまった愚かな自分に苛ただしさが膨らんでいく。

 あえて名を付けなかった感情に息苦しさを感じる。
 いつの間にか適温になったシャワーで手早く体の汗を流し、捨てたコンドームを拾いバスルームを出て、バスタオルで体を拭いた。着替えるために部屋に戻ればベッドに横たわっている女が動いた。

 「大雅先輩、凄い良かったです」

 美羽の潤んだ瞳が身体に纏わりついてきて、気持ち悪いと思ってしまい、この女にも悪いことをしたなと心の中で謝罪する。

 一番は悠莉に対する罪悪感の大きさに何とも言えず、自分の呆れた行いに嘆息した。

 脱ぎ捨てた服を拾って着替えていると、

 「満足しました?」

 シーツを体に巻き付けて美羽が赤らんだ顔でこちらをジッと見た。

 「おまえが満足したんだろ?」
 「はい、気持ち良かったです。また――」
 「次はねぇよ」

 シャツのボタンを留めながら美羽を見た。

 大学時代、美羽はサークル内でアイドルだった。男どもにチヤホヤされ、その男どもを食い散らかしていく。最初に食ったのは大雅だったが、2度目が無いと分かると大雅への当てつけのように食い散らかしていった。それを何も感じずに傍観しながら、美羽に嫉妬する他の女達を宥めていた。自分を特別扱いをする男達と自分に無関心の大雅。それは美羽のプライドを逆なでしたらしいが、サークルよりゼミの方が面白かったので、サークルからは足が遠のいた。そのうち就活が始まり、その後サークル内がどうなったのかは分からない。風の噂では、大雅が来なくなってから美羽は、別のサークルに移ったらしい。そこでもまた食い散らかしまくったらしいけど。

 「気を付けて帰れよ」
 「ちょっ、先輩!待って!」

 着替え終わり、忘れ物が無いか確認して部屋を出た。一番大事なコンドームはティッシュに包んでシャツの胸ポケットに入れた。帰る途中にあるコンビニに立ち寄った時にでもゴミ箱に捨てようと思う。


 らしくもない、と大雅は自嘲した。
 悠莉の前では大雅は借りてきた猫だった。甘やかしてくれる年下の彼女の膝の上が気持ち良くて、彼女の撫でる手が心地よくて、その手を失うのが怖くて、考えないようにしていた。

 初めて会った日から手放す気はなかったんだと思う。



 悠莉は処女だった。

 本来なら処女はお断りだ。処女なんて相手にしたこともなかったが、悪友から一夜の相手として処女を相手にした話を聞くだけで、その後が面倒くさいってのが分かった。一度だけの関係なのに継続を期待される。こちらは一夜の関係を楽しんでいるのに、水を差されて酷く後味が悪い。そんな男だと分かって近づいてくるのに、最終的に男を乗りこなそうとする魂胆が見え見えな女は避けていた。

 悠莉は端からそれを知っていて、処女だと明言した。それで大雅が怯むと思っていたんだろう。実際それを聞いて大雅は怯んだ。その怯んだ隙にとんずらしようとした彼女を追わなければと思って、自然と体が動いた時には苦笑した。


 あの時、別れのメッセージを送るのではなくて、相手の男から連れ去れば良かったと心の底から悔やんだ。






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