上 下
3 / 12
1ゲーム目

3ターン目 戦士VSドラゴン

しおりを挟む
 お互いにデッキを出す。今度は女の子が何かに気付いた顔をする。

「ここ半年くらいの間にレギュレーションに変化はあった?」

 レギュレーションとは強すぎると判断されたカードを使えなくしたり、使える枚数を抑えるルールだ。クロマジのレギュレーション変更には決まった時期はなく、結構唐突に発表される。

「≪呪いの都 アスバーン≫が禁止、≪剣征嵐王けんせいらんおう オルドラ≫が制限になりました」

 禁止はデッキに一枚も入れられないカード、制限は一枚だけ入れられるカードのことだ。基本は最大三枚入れられるが、その数を抑える事で引ける確率を落としてバランスを取る。

「じゃあ私のデッキは大丈夫そうね。オルドラはそろそろ使えるようになると思ってたわ。けれどアスバーンは何があったの? 」
「私に勝ったら教えてあげます」
「随分強気ね。じゃあやりましょう。そうそう、LPがゼロになったら死ぬからとどめはなしね」

 サラッと衝撃の内容を告げられた気がする。聞かされずにバトルしてたらどちらかが死んでたってことじゃないか。

「サレンダー(降参)なら死なない?」
「TCGルールも元の世界の人間とバトルもしたことないから確信を持って言えないけど、こっちの世界の人間や動物が逃げだしたことは何度もあるし多分大丈夫よ。それに勝てば絶対死なないわ」

 とことんライバルキャラ的性格してるな。まあいいでしょう。弱肉強食の世界を生き抜いて可愛い女の子たちとスローライフを送ってやる。こんなところで死ぬわけにはいくまい。

「先攻後攻はじゃんけんでいい?」

 彼女はデッキをセットしながら言う。私もデッキをセットして無言で頷く。
 私はグー、女の子はパー。彼女は当然のように先攻を選択する。カードゲームに限らず世の中のゲームは先攻有利のものが多いと聞いたことがあるが、クロマジもその例に漏れない。
 お互いにデッキの上から五枚ドローする。そしてターンプレイヤーの彼女は開始時にさらに一枚ドロー。

「ドロー、≪鋼鱗こうりんのドラゴン≫を召喚するわ。ターンエンド」

 彼女の前にライオンくらいのサイズの銀色のドラゴンが現れる。ドラゴンというが翼が退化したという設定でコモドオオトカゲのようなのだ。
 先攻有利のゲームに間違いはないが、後攻には初見の相手の種類が分かるというメリットがある。≪鋼鱗のドラゴン≫はアタックできないが、相手のアタックを引きつけることができる。APも3ある盾役として優秀なキャラクターだ。
 時間を稼ぐカードとドラゴン。まず警戒すべきはドラゴンコントロール。通称ドラコンと呼ばれるデッキで盾役のキャラクターやマジックで時間を稼ぎ、召喚条件のある大型ドラゴンを呼び出すものだ。以前、最強デッキ(いわゆる環境デッキ)の一角だったこともある。

「ドロー、MPを2消費して≪強敵襲来≫を発動。相手にAP3以上のキャラクターがいる時、デッキからAP2以下の戦士キャラクターを召喚する。≪雷霆の戦士 ナーデア≫をクイック召喚!」

 MPとはLPと違い毎ターン3になるように回復するもので、一部のカードの効果を発動するのに必要になる。強い効果程必要な数値は高くなる。消費が4以上のカードもあり、それらを使うには他のカードの効果で増やさなければならない。
 クイック召喚は通常の召喚以外でキャラクターを召喚することである。これにより1ターンにキャラクターを複数体並べることも可能だ。

「≪見習い戦士 ハルル≫を召喚」

 ナーデアの横に短剣を持った子どもが現れる。中世的な見た目かつ公式が性別が特定できる設定を公開していないせいで、二次創作が特別多い。

「ハルルの効果発動」

 ハルルのカードを相手に向けるように百八十度回転させる。

「このカードを待機状態にすることでこのターン中、自分の戦士キャラクターのAPを2アップする」

 ハルルが短剣をしまって代わりに旗を取り出す。それを振るとナーデアのAPが4になった。召喚したターンは攻撃できないキャラクターが多いが、ナーデアはアタック可能だ。ハルルは待機状態で攻撃できないが元々このターンは攻撃できない。デメリットを踏み倒す単純明快なコンボだ。

「ナーデアで≪鋼鱗のドラゴン≫にアタック」

 ナーデアがドラゴンを一刀両断する。野生の獣とは違い血などは出ずに消えてしまった。その時女の子の口角が僅かに上がった。

「MP2消費してクイックマジック≪ドラゴニック・リザレクション≫を発動! 墓場から≪鋼鱗のドラゴン≫を蘇生する」

 二体のキャラクターを使って処理した壁がまた出てしまった。速攻で相手を倒すことを目指す戦士ビートとドラコンでは長引けばこっちが不利だ。現時点での手札の消費はお互いに二枚。
 先程の攻防で相手は戦士ビートだと確信しただろうが、こちらはまだドラコンだと断定はできない状況であり、その点でもアドバンテージを取られている。

「アイテム≪救援の旗≫を使用してターンエンド」
「ドロー、MPを3まで回復。……そろそろ気づいた?」

 手札を眺めながらボソッと口にした。けれど、その一言がどういう意味かよく分からない。それをそのまま表情に出しながら首を傾げる。

「そう。じゃあこれでどう? マジック≪ブレイク≫を発動。≪救援の旗≫を破壊。MPを3消費してマジック≪竜の覇気≫を発動。次のターン開始時のMPを5にする。さらに一枚ドロー。≪鋼鱗のドラゴン≫を召喚してターンエンド」

 ≪鋼鱗のドラゴン≫二体目。≪竜の覇気≫でのMP補充。もう大型キャラクターの準備が整っているということだ。

「もしかして、青宮栞あおみやしおり……? 全国大会二連覇の?」
「そうよ。やっと気づいたわね"ノキュ"さん」

 何故彼女のような有名人が私のプレイネームを?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

エルハイミ‐おっさんが異世界転生して美少女に!?‐

さいとう みさき
ファンタジー
おっさん海外出張中にテロで死亡。 無事こちらの世界に転生(おいっ!)。でも女の子。しかも王家ゆかりの伯爵家!? 色々考えたけど「男とくっつけられるの嫌じゃぁっ!!」って事で頑張ってみましょう! 運命の美少女と出会いながら、ちょっとHなキャッキャうふふっ♡ して絶賛いろいろと(なところも)成長中! 「ごきげんよう皆さん、私がエルハイミですわ!」 おっさんが異世界転生して美少女になっちゃうお話です。 

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

【百合】転生聖女にやたら懐かれて苦労している悪役令嬢ですがそのことを知らない婚約者に「聖女様を虐めている」と糾弾されました、死刑だそうです

砂礫レキ
恋愛
「リリーナ・ノワール公爵令嬢、聖女サクラの命を狙った咎でお前を死刑に処す!」 魔法学校の卒業パーティーの場。 リリーナの婚約者であるリアム王子は桃色の髪の少女を抱き寄せ叫んだ。 彼が腕に抱いているのはサクラという平民上がりの男爵令嬢だ。 入学早々公爵令嬢であるリリーナを悪役令嬢呼ばわりして有名になった人物である。 転生ヒロインを名乗り非常識な行動をしでかす為学校内の嫌われ者だったサクラ。 だが今年になり見事難関聖女試験に合格して周囲からの評価は一変した。 ちなみに試験勉強を手助けしていたのはリリーナである。 サクラとリリーナは奇妙な友人関係にあったのだ。 そのことを知らないリアム王子は大勢の生徒と捕えた聖女の前で捏造したリリーナの罪を晒し上げる。 それが自分たちの破滅に繋がることを、そして誰が黒幕であるかすら知らずに。 

TS転生したけど、今度こそ女の子にモテたい

マグローK
ファンタジー
秋元楓は努力が報われないタイプの少年だった。 何をやっても中の上程度の実力しかつかず、一番を取ったことは一度もなかった。 ある日、好きになった子に意を決して告白するもフラれてしまう。 傷心の中、傷を癒すため、気づくと川辺でゴミ拾いのボランティアをしていた。 しかし、少しは傷が癒えたものの、川で溺れていた子供を助けた後に、自らが溺れて死んでしまう。 夢のような感覚をさまよった後、目を覚ますと彼は女の子になっていた。 女の子になってしまった楓だが、女の子にモテることはできるのか。 カクヨム、小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...