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1ターン目 クロスオーバー・マジック!
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私は死んだようだ。流行りの異世界転生というやつだろう。一面真っ白の何もない空間が広がる。目の前には髭と眉で髪も口も隠れた仙人といった風貌の老人がいた。どうして美人な女神じゃないんだ。そう思うと老人はこちらの心を読んだかのように銀髪の美人女性に変化した。
「こういう方がええのか? 老人の方が威厳があっていいかと思ってたんじゃが」
「えーと、そのまま年齢を下げられます? 10歳くらいに」
「それくらいお安い御用じゃ」
銀髪ロリババアだ。素晴らしい。
ロリ神様は咳払いする。
「そろそろ話を聞いてくれるかの?」
「はい」
「黒川雪乃十六歳、女性、死因は胸を刺されたことによる失血死。間違いないか?」
「はい」
そういえばそうだったと胸を触る。穴も痛みもない。
「それは魂だけの姿じゃ。元の世界の傷つけられた体はとっくに骨だけになっておるよ」
エグいことをサラッと言うロリ神様だこと。
「気を遣っても仕方がないからの。それにお主も異世界に行かせるなら早くしろと思っとるじゃろ?」
ご名答。もう口を開く必要ないんじゃないかな。
「今はそれでいいが、これからする質問には口で答えてもらうぞ」
「はい」
「良い返事じゃ。では異世界転生に当たっていくつか質問をする。異世界に転生したいか?」
「はい」
正直しなかったらという選択がとても気になる。この魂は輪廻転生して元の世界で生まれてくる何かになるのだろうか。しかし、これは心に留めた。
「うむ。次に転生する世界についてじゃ。何か希望はあるか?」
「カードゲームが、『クロスオーバー・マジック!』がある世界がいいです!」
『クロスオーバー・マジック!』、略称クロマジもしくはクロオマ。私の世界で流行っていたトレーディングカードゲームだ。
「ふむ。では世界観はどうじゃ?」
クロマジが何か聞かないんだ。流石神様。
「クロマジがあって、電子機器があって、時々狩猟とか農業とかして、それなりに稼ぎのある感じで可愛い女の子たちとスローライフがしたいです」
「……次じゃ。スキルの希望はあるか?」
ロリ神様は一瞬呆れたような顔をした。だが私は妥協しない。
「無敵がいいです」
「もう少し具体的に頼むぞ」
「どんな攻撃でも絶対に傷がつかない体、どんな敵でも一撃で倒せる腕力、どんな女の子でも絶対に落とせる魅力、どんな質問にも答えてくれるナビキャラ、どんなモンスターでも召喚できる魔法……」
まだまだあったのにロリ神様は遮った。
「待て待て、後半は無敵関係ないじゃろ。それにしても欲に忠実じゃな。まあ全部希望に沿うとは思わんでくれ」
そう言ってロリ神様は姿を消した。希望が多すぎただろうか。誰だってあれくらい望むと思うのだが。
そう思ったのも束の間、突然真っ白な空間に映像が現れる。思わず後ろを向いてプロジェクター探すがそんなものはなかった。
『あなたの転生先です』
そう書かれていて下には地図がある。縮尺も分かったもんじゃないからその大陸にどれくらい距離があるのかわからない。海、山、湖くらいはわかるが、あとは大まかに国名が書いてあるだけで国境等は判別できない。
右下に『次へ』という表示があった。これ以上地図を眺めても得られるものはなさそうなので押す。
『あなたのステータスです。称号:クロマジプレイヤー。スキル:クロマジのカードが使用できる』
異世界に飛ばされる前に詳細を確認させてくれるなんてとても親切だなと思った。それは大間違いだった。
確かにクロマジがある世界がいいと言った。召喚魔法も欲しいと言ったがそんなまとめ方がある? それに使用できるとはどういう意味なのか。肌身離さず持っていたウェストポーチからデッキケースを取り出す。カードを引いてみたが何も起きない。まだスキルが適用されていないのだろう。まさか本当にカードを持ち込めるだけだったならそれでもいいけれど、対戦相手くらい用意しておいてほしい。最悪デッキは複数所持してるから異世界人にゲームを覚えさせる?
飛ばされた後に考えよう。『次へ』を押す。
『では、健闘を祈ります』
「え? 説明終わり?」
突然の前からの強風に思わず目を閉じる。目を開けると辺りには木々しかない。
さて、何からすべきだろう。よくあるのは……
「助けてー!」
ほら来た。モンスターや盗賊に襲われている一般人を助けるイベントだ。中学生くらいの女の子とは幸先がいい。女の子は私に気づいた。
「ミドルボアだよ! 逃げて!」
名前の通りのイノシシだ。大きさは大型犬くらいだろうか。まあ元の世界で追いかけられたら全速力で逃げるだろう。だがこれは恐らくチュートリアル。スローライフにも自衛のための戦いは必要だ。
女の子が転んだ。このままだとすぐに追いつかれてしまう。女の子の方へ向かった。
「ここは私が食い止めるから逃げて」
「でも……」
「早く!」
大声を出すと女の子は立ち上がってまた全速力で走っていった。
「スキル発動!」
何故かそれまで触ったこともないスキルの使い方がわかる。
デッキが私の前に浮かぶ。そして自動的に上から三枚のカードが表向きになる。ちなみにクロマジの初期手札は五枚だがもういちいち突っ込まない。
「≪雷霆の戦士 ナーデア≫を召喚!」
銀の鎧を着込んだ女性が現れる。ナーデアはこちらを振り返り自信たっぷりですという様子で口角を上げる。やはりイケメン美人だ。
ナーデアのカードを百八十度回転させる。アタック宣言の時の行動だ。
「ナーデアでアタック!」
ナーデアはミドルボアに斬りかかる。ミドルボアは脳天から体まで真っ二つになった。その切り口からは血が噴き出していて生々しい。
戦いが終わった瞬間ナーデアは消えてしまった。浮かんでいたデッキもポーチの中に戻っていった。
「大丈夫か!」
先程の女の子が槍を持った男二人を連れて戻って来た。男も存在するようだ。
お約束なら多分この後チヤホヤされると思う。
「君、ミドルボアを倒したのか!?」
男の片方がそう言った。
「ええ、まあ」
「すごいな! 俺たち二人でなんとかって感じなのに」
一般人男性二人で倒せるというのは強さの基準としてはどれくらいなのだろうか。そう考えていると
「ボアはどうするんだ?」
と男に聞かれた。正直そのまま立ち去るつもりだった。ロリ神様には『狩猟とかして』とか言ったけど、普通の高校生にイノシシの解体技術はない。
「もし必要であればどうぞ」
「そいつはありがたい!」
女の子が声をかけてきた。
「あの、うちで一緒に食事しませんか?」
「そいつはいい! 新鮮な肉を振舞うぜ!」
ジビエ料理って食べたことないな。臭いって聞くけど食べられるかな。
「じゃあお邪魔します」
「やった! 私リーナ、よろしくね」
「俺はリーナの兄のコウ、こっちは双子の弟のトウ」
「……よろしく」
これまで一回も喋っていないトウが小さく呟くように挨拶をした。わかるよ。私も異世界転生でイキってなかったらそんな感じだったと思う。
「ユキノです」
「ユキノさんはどうやってミドルボアを倒したの?」
「それは……」
スキルの説明をしようとしてデッキを取り出してあることに気づいた。
「スリーブがない!?」
クロマジ公式キャラクタースリーブ、その上につけた透明なスリーブのどちらもなくなっている。スリーブがないとカードが傷むじゃないか。
「どうしたの?」
「あ、いや何でもないよ」
焦りを落ち着けたところで、トウと一緒にミドルボアを持ちあげていたコウが声をかけてくる。
「リーナ、俺たちでミドルボアを持っていくから他の荷物を持ってくれ」
「はーい」
リーナは地面に置いてあった槍やカバンを取りに行く。私も半分持つと申し出た。
「これくらい大丈夫だよ。それにお客さんに持たせるわけにはいかないよ」
強い無力感を抱いているのだろう。何かしなければという意思を感じた。ならばこれ以上言って彼女の仕事を奪うわけにはいかない。
「じゃあ歩きながらさっきの説明するね」
私の異世界転生、出だしは順調そうだ。しかし、さっきの戦いはよくある召喚魔法でしかなくない? カードゲーム要素なくない?
「こういう方がええのか? 老人の方が威厳があっていいかと思ってたんじゃが」
「えーと、そのまま年齢を下げられます? 10歳くらいに」
「それくらいお安い御用じゃ」
銀髪ロリババアだ。素晴らしい。
ロリ神様は咳払いする。
「そろそろ話を聞いてくれるかの?」
「はい」
「黒川雪乃十六歳、女性、死因は胸を刺されたことによる失血死。間違いないか?」
「はい」
そういえばそうだったと胸を触る。穴も痛みもない。
「それは魂だけの姿じゃ。元の世界の傷つけられた体はとっくに骨だけになっておるよ」
エグいことをサラッと言うロリ神様だこと。
「気を遣っても仕方がないからの。それにお主も異世界に行かせるなら早くしろと思っとるじゃろ?」
ご名答。もう口を開く必要ないんじゃないかな。
「今はそれでいいが、これからする質問には口で答えてもらうぞ」
「はい」
「良い返事じゃ。では異世界転生に当たっていくつか質問をする。異世界に転生したいか?」
「はい」
正直しなかったらという選択がとても気になる。この魂は輪廻転生して元の世界で生まれてくる何かになるのだろうか。しかし、これは心に留めた。
「うむ。次に転生する世界についてじゃ。何か希望はあるか?」
「カードゲームが、『クロスオーバー・マジック!』がある世界がいいです!」
『クロスオーバー・マジック!』、略称クロマジもしくはクロオマ。私の世界で流行っていたトレーディングカードゲームだ。
「ふむ。では世界観はどうじゃ?」
クロマジが何か聞かないんだ。流石神様。
「クロマジがあって、電子機器があって、時々狩猟とか農業とかして、それなりに稼ぎのある感じで可愛い女の子たちとスローライフがしたいです」
「……次じゃ。スキルの希望はあるか?」
ロリ神様は一瞬呆れたような顔をした。だが私は妥協しない。
「無敵がいいです」
「もう少し具体的に頼むぞ」
「どんな攻撃でも絶対に傷がつかない体、どんな敵でも一撃で倒せる腕力、どんな女の子でも絶対に落とせる魅力、どんな質問にも答えてくれるナビキャラ、どんなモンスターでも召喚できる魔法……」
まだまだあったのにロリ神様は遮った。
「待て待て、後半は無敵関係ないじゃろ。それにしても欲に忠実じゃな。まあ全部希望に沿うとは思わんでくれ」
そう言ってロリ神様は姿を消した。希望が多すぎただろうか。誰だってあれくらい望むと思うのだが。
そう思ったのも束の間、突然真っ白な空間に映像が現れる。思わず後ろを向いてプロジェクター探すがそんなものはなかった。
『あなたの転生先です』
そう書かれていて下には地図がある。縮尺も分かったもんじゃないからその大陸にどれくらい距離があるのかわからない。海、山、湖くらいはわかるが、あとは大まかに国名が書いてあるだけで国境等は判別できない。
右下に『次へ』という表示があった。これ以上地図を眺めても得られるものはなさそうなので押す。
『あなたのステータスです。称号:クロマジプレイヤー。スキル:クロマジのカードが使用できる』
異世界に飛ばされる前に詳細を確認させてくれるなんてとても親切だなと思った。それは大間違いだった。
確かにクロマジがある世界がいいと言った。召喚魔法も欲しいと言ったがそんなまとめ方がある? それに使用できるとはどういう意味なのか。肌身離さず持っていたウェストポーチからデッキケースを取り出す。カードを引いてみたが何も起きない。まだスキルが適用されていないのだろう。まさか本当にカードを持ち込めるだけだったならそれでもいいけれど、対戦相手くらい用意しておいてほしい。最悪デッキは複数所持してるから異世界人にゲームを覚えさせる?
飛ばされた後に考えよう。『次へ』を押す。
『では、健闘を祈ります』
「え? 説明終わり?」
突然の前からの強風に思わず目を閉じる。目を開けると辺りには木々しかない。
さて、何からすべきだろう。よくあるのは……
「助けてー!」
ほら来た。モンスターや盗賊に襲われている一般人を助けるイベントだ。中学生くらいの女の子とは幸先がいい。女の子は私に気づいた。
「ミドルボアだよ! 逃げて!」
名前の通りのイノシシだ。大きさは大型犬くらいだろうか。まあ元の世界で追いかけられたら全速力で逃げるだろう。だがこれは恐らくチュートリアル。スローライフにも自衛のための戦いは必要だ。
女の子が転んだ。このままだとすぐに追いつかれてしまう。女の子の方へ向かった。
「ここは私が食い止めるから逃げて」
「でも……」
「早く!」
大声を出すと女の子は立ち上がってまた全速力で走っていった。
「スキル発動!」
何故かそれまで触ったこともないスキルの使い方がわかる。
デッキが私の前に浮かぶ。そして自動的に上から三枚のカードが表向きになる。ちなみにクロマジの初期手札は五枚だがもういちいち突っ込まない。
「≪雷霆の戦士 ナーデア≫を召喚!」
銀の鎧を着込んだ女性が現れる。ナーデアはこちらを振り返り自信たっぷりですという様子で口角を上げる。やはりイケメン美人だ。
ナーデアのカードを百八十度回転させる。アタック宣言の時の行動だ。
「ナーデアでアタック!」
ナーデアはミドルボアに斬りかかる。ミドルボアは脳天から体まで真っ二つになった。その切り口からは血が噴き出していて生々しい。
戦いが終わった瞬間ナーデアは消えてしまった。浮かんでいたデッキもポーチの中に戻っていった。
「大丈夫か!」
先程の女の子が槍を持った男二人を連れて戻って来た。男も存在するようだ。
お約束なら多分この後チヤホヤされると思う。
「君、ミドルボアを倒したのか!?」
男の片方がそう言った。
「ええ、まあ」
「すごいな! 俺たち二人でなんとかって感じなのに」
一般人男性二人で倒せるというのは強さの基準としてはどれくらいなのだろうか。そう考えていると
「ボアはどうするんだ?」
と男に聞かれた。正直そのまま立ち去るつもりだった。ロリ神様には『狩猟とかして』とか言ったけど、普通の高校生にイノシシの解体技術はない。
「もし必要であればどうぞ」
「そいつはありがたい!」
女の子が声をかけてきた。
「あの、うちで一緒に食事しませんか?」
「そいつはいい! 新鮮な肉を振舞うぜ!」
ジビエ料理って食べたことないな。臭いって聞くけど食べられるかな。
「じゃあお邪魔します」
「やった! 私リーナ、よろしくね」
「俺はリーナの兄のコウ、こっちは双子の弟のトウ」
「……よろしく」
これまで一回も喋っていないトウが小さく呟くように挨拶をした。わかるよ。私も異世界転生でイキってなかったらそんな感じだったと思う。
「ユキノです」
「ユキノさんはどうやってミドルボアを倒したの?」
「それは……」
スキルの説明をしようとしてデッキを取り出してあることに気づいた。
「スリーブがない!?」
クロマジ公式キャラクタースリーブ、その上につけた透明なスリーブのどちらもなくなっている。スリーブがないとカードが傷むじゃないか。
「どうしたの?」
「あ、いや何でもないよ」
焦りを落ち着けたところで、トウと一緒にミドルボアを持ちあげていたコウが声をかけてくる。
「リーナ、俺たちでミドルボアを持っていくから他の荷物を持ってくれ」
「はーい」
リーナは地面に置いてあった槍やカバンを取りに行く。私も半分持つと申し出た。
「これくらい大丈夫だよ。それにお客さんに持たせるわけにはいかないよ」
強い無力感を抱いているのだろう。何かしなければという意思を感じた。ならばこれ以上言って彼女の仕事を奪うわけにはいかない。
「じゃあ歩きながらさっきの説明するね」
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