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奏と響子

奏と響子の場合 3

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「 すごーい!  CDショップみたい!」
「はは……、これしか趣味がないだけだよ」

  奏は響子の家に来ていた。女性教諭が一人暮らしするアパートはいわゆる1Kで、その部屋を囲むように本棚が置かれている。八割がCDやDVDで、残りは音楽関係の本だ。

「先生、ジャズも聴くんだ」
「少しだけね。昔友人に貰ったんだよ」

  その言葉を発するときの響子の顔は物憂げな雰囲気を放っていた。奏はそれを察していないふりをして、話題を切り替えた。

「楽器は持ってないの?  あれ、やらないんだっけ?」
「持ってないわけじゃないよ。ピアノはこの部屋には置けないし、ギターは壊れたけど新しいのを買ってないだけ」
「ギターならいつでも貸したげるよ」
「ありがと。でも私は、奏が作った曲を聴きたいな」
「それで良いならいくらでもやるから待ってて」
「楽しみにしてる」

  奏はまた立ち上がって音楽の本を物色し始める。

「好きなの貸してあげるから、気になるのあったら言ってね」
「先生、これ全部借りたいかも」
「嘘でしょ」
「ホントだよ。だってこれ全部先生のおすすめってことでしょ?」

  響子の知る限り、奏は自分の前でだけこんなことを言う。むしろ、学校ではほとんど誰とも喋っていないのだろう。同世代の人間とも交流を図ってほしい。そう思っているが、以前部活に入ることを勧めたときに喧嘩したこともあり言い出せずにいた。加えて、教師が生徒を家に招き入れるということにも罪悪感が無いわけではない。
  だが、たとえ自分の前でだけでも、奏が笑顔でいられるならその場所を壊したくないという気持ちもある。

「……んせ、先生!」
「え!?」
「大丈夫?  ぼーっとしてたけど」
「ああ、大丈夫。ちょっと考え事してただけ」
「彼氏を家に入れたときにそんなことしちゃダメだよ」
「……」
「ごめん!  嘘だよ、嘘!」
「別に怒ってないよ。さ、借りたいの決まったならもう帰りな」

  家に着いた時は午後二時くらいだったが、すでに外は赤黒く染まっている。時計は六時を示していた。奏は素直に帰る支度をし始める。

「じゃあ、これ借りていきます」
「うん、返すのはゆっくりでいいからね」
「先生、お邪魔しました~!」

  結局、奏は話をしてはくれなかった。響子も聞き出すことが出来なかった。
  教師として、同じ趣味を持つ友人として、彼女に何をしてあげられるのか、どこまで踏み込んでいいのか響子はまだ答えを出せないでいた。
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