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第2章
18話
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セレスタはベッドに横になって仮眠を取っていた。ノック音が聞こえ目が覚める。
「お食事のご用意が出来ました。案内させて頂きます」
扉を開けるとメイドが二人いた。メイドとは言ってもただ者ではなさそうだ。街中にいた魔術師より強い魔力を有している。
廊下を少し進んだところで十字路があった。十字路の中央に立つよう指示される。
「申し訳ございませんが、少しの間視界を閉じさせて頂きます」
メイドの一人がセレスタの眼を布で塞ぐ。
「そのまま動かずに少々お待ち下さい」
周囲の魔力が強くなる。何らかの術式を構築しているのだろう。
目隠しが外されると部屋にいた。先程休憩させてもらった部屋より狭い。四人掛けのテーブルがポツンと置かれており、壁際にはいくつか棚があるだけ。窓はない。地下なのだろうか。そして、セレスタが最も気になったのが部屋中を覆う結界だ。結界といっても皇国の結界とは質が違った。あちらは闇の魔力を遠ざけるものだが、こちらは魔力全般の放出を押さえつけるもののようだ。
すると、テーブルを挟んだ向こう側に十一、二歳くらいの少女がどこからか現れた。後ろにはこちらと同じようにメイドが二人控えている。
「セレスタ・ラウだな」
少女が強い口調で言い放つ。先程より声が幼いが、同じ魔力を感じた。
「はい」
「私がウェネステル皇国第八十五代教皇ベアトリーナ・エルネデ・ラステティルだ。さあ、座ってくれ。今食事を用意させる」
双方のメイド一人がテーブルに近づき椅子を引いてくれる。着席するとメイドたちは退室し、コックコートの男がどこからか出現した。
「お待たせ致しました」
パスタ、肉料理、魚料理、サラダ、パンがテーブルに置かれ、取り皿と銀食器がそれぞれに配られた。
コース形式で一人一皿料理が来るイメージだったが、同じ皿から料理を取ることで毒を盛っていないという意思表示を察することができる。
コックが料理について説明してくれたが、素材や調味料に聞き覚えがないものも多く、よく分からない。説明を終えて満足気なコックが一礼して部屋から消える。
「では頂こうか」
教皇は両手を組んで目を閉じた。セレスタもそれに倣う。
「口に合うか?」
「はい」
お世辞ではない。こんな上品な料理が世の中にあるのだろうかと思った。
「率直に話そう。お主を皇国聖騎士団に迎え入れたい。」
「……え?」
予想外のスカウトに間抜けな声が出て食器を持つ手が止まる。
「この国では"光"の魔術師は須く英雄か名君だ。相応の報酬は出す。それとも生まれ故郷に思い入れがあるのか?」
「……はい」
「無理強いする気はないし、ゆっくり考えてもらえばいい」
教皇は水を飲み、少し柔らかい表情になって話題を変えた。セレスタは対面している相手が少女ということを忘れていた。
「"光"について話をしよう。"光"を持つ他人に会うのは初めてか?」
「はい。そもそも自分がそういう存在だと知ったのが最近なので」
「なるほど。それで"光"について調べに来たというところか」
「その通りです。それらしい情報は見つけられませんでしたが」
「魔研が何百年もかけて調べているが、残念ながらよく分かっていないのだ」
『魔研』とは世界魔術研究機構のことである。その名の通り、魔術や魔力に関する研究を行っている組織である。世界中に支部があり、皇国にも存在するようだ。
分かっているのは、『遺伝性ではない』、『特殊な魔術を使用できる』ということくらいだそうだ。
「『特殊な魔術』とはどういうものですか?」
「そのままの意味だ。普通の魔術では成し得ない技が使用できる。過去には時間操作や空間移動が使用できるものも存在したそうだ」
「私にはそのような技はありませんが……」
「悲観することはない。これから習得するのかもしれないし、出来なかったとしてもその魔力量だけで十分な才だ」
教皇が肉を口に運ぶ。その所作は上品だが年齢相応の背伸びしている感じがあった。
「皇国騎士団に入り聖騎士長にでもなれば城内や魔研の支部にも出入りし放題だぞ」
いたずらっぽく笑う顔は可愛らしかった。身を隠しているのは、暗殺や裏切りを恐れてではなく、舐められないようにではないかとも思えてきた。
「もう一つ聞いてもいいですか?」
「何でも聞くといい」
「吸血鬼狩りについてです」
「二日後だ。気になるなら同行を許可しよう。実際に見たほうがあれこれ説明するより分かりやすいだろう」
教皇はテーブルを指で軽く叩いて音を鳴らした。メイドが彼女の背後に現れた。
「お呼びでしょうか」
「聖騎士長を玉座の前に待たせておけ」
「かしこまりました」
セレスタは考えていた。これに同行すれば吸血鬼と対峙することになる。自身が吸血鬼であることが発覚する可能性も増す。しかし、内情を探るには絶好の機会だ。王たちに連絡を取り判断を仰ぐべき案件だが、連絡用の玉はリュシールが持っている。やはり不用意に離れるべきではなかったのだ。
「難しい顔をしているな。怖いか? 安心しろ、お主に危険は及ばぬようきつく言っておく」
「いえ、自分の身くらいは自分で守れます」
「頼もしいな」
今の返事は同行すると承諾したようなものではないか。不用意な発言を悔やむ。
「お食事のご用意が出来ました。案内させて頂きます」
扉を開けるとメイドが二人いた。メイドとは言ってもただ者ではなさそうだ。街中にいた魔術師より強い魔力を有している。
廊下を少し進んだところで十字路があった。十字路の中央に立つよう指示される。
「申し訳ございませんが、少しの間視界を閉じさせて頂きます」
メイドの一人がセレスタの眼を布で塞ぐ。
「そのまま動かずに少々お待ち下さい」
周囲の魔力が強くなる。何らかの術式を構築しているのだろう。
目隠しが外されると部屋にいた。先程休憩させてもらった部屋より狭い。四人掛けのテーブルがポツンと置かれており、壁際にはいくつか棚があるだけ。窓はない。地下なのだろうか。そして、セレスタが最も気になったのが部屋中を覆う結界だ。結界といっても皇国の結界とは質が違った。あちらは闇の魔力を遠ざけるものだが、こちらは魔力全般の放出を押さえつけるもののようだ。
すると、テーブルを挟んだ向こう側に十一、二歳くらいの少女がどこからか現れた。後ろにはこちらと同じようにメイドが二人控えている。
「セレスタ・ラウだな」
少女が強い口調で言い放つ。先程より声が幼いが、同じ魔力を感じた。
「はい」
「私がウェネステル皇国第八十五代教皇ベアトリーナ・エルネデ・ラステティルだ。さあ、座ってくれ。今食事を用意させる」
双方のメイド一人がテーブルに近づき椅子を引いてくれる。着席するとメイドたちは退室し、コックコートの男がどこからか出現した。
「お待たせ致しました」
パスタ、肉料理、魚料理、サラダ、パンがテーブルに置かれ、取り皿と銀食器がそれぞれに配られた。
コース形式で一人一皿料理が来るイメージだったが、同じ皿から料理を取ることで毒を盛っていないという意思表示を察することができる。
コックが料理について説明してくれたが、素材や調味料に聞き覚えがないものも多く、よく分からない。説明を終えて満足気なコックが一礼して部屋から消える。
「では頂こうか」
教皇は両手を組んで目を閉じた。セレスタもそれに倣う。
「口に合うか?」
「はい」
お世辞ではない。こんな上品な料理が世の中にあるのだろうかと思った。
「率直に話そう。お主を皇国聖騎士団に迎え入れたい。」
「……え?」
予想外のスカウトに間抜けな声が出て食器を持つ手が止まる。
「この国では"光"の魔術師は須く英雄か名君だ。相応の報酬は出す。それとも生まれ故郷に思い入れがあるのか?」
「……はい」
「無理強いする気はないし、ゆっくり考えてもらえばいい」
教皇は水を飲み、少し柔らかい表情になって話題を変えた。セレスタは対面している相手が少女ということを忘れていた。
「"光"について話をしよう。"光"を持つ他人に会うのは初めてか?」
「はい。そもそも自分がそういう存在だと知ったのが最近なので」
「なるほど。それで"光"について調べに来たというところか」
「その通りです。それらしい情報は見つけられませんでしたが」
「魔研が何百年もかけて調べているが、残念ながらよく分かっていないのだ」
『魔研』とは世界魔術研究機構のことである。その名の通り、魔術や魔力に関する研究を行っている組織である。世界中に支部があり、皇国にも存在するようだ。
分かっているのは、『遺伝性ではない』、『特殊な魔術を使用できる』ということくらいだそうだ。
「『特殊な魔術』とはどういうものですか?」
「そのままの意味だ。普通の魔術では成し得ない技が使用できる。過去には時間操作や空間移動が使用できるものも存在したそうだ」
「私にはそのような技はありませんが……」
「悲観することはない。これから習得するのかもしれないし、出来なかったとしてもその魔力量だけで十分な才だ」
教皇が肉を口に運ぶ。その所作は上品だが年齢相応の背伸びしている感じがあった。
「皇国騎士団に入り聖騎士長にでもなれば城内や魔研の支部にも出入りし放題だぞ」
いたずらっぽく笑う顔は可愛らしかった。身を隠しているのは、暗殺や裏切りを恐れてではなく、舐められないようにではないかとも思えてきた。
「もう一つ聞いてもいいですか?」
「何でも聞くといい」
「吸血鬼狩りについてです」
「二日後だ。気になるなら同行を許可しよう。実際に見たほうがあれこれ説明するより分かりやすいだろう」
教皇はテーブルを指で軽く叩いて音を鳴らした。メイドが彼女の背後に現れた。
「お呼びでしょうか」
「聖騎士長を玉座の前に待たせておけ」
「かしこまりました」
セレスタは考えていた。これに同行すれば吸血鬼と対峙することになる。自身が吸血鬼であることが発覚する可能性も増す。しかし、内情を探るには絶好の機会だ。王たちに連絡を取り判断を仰ぐべき案件だが、連絡用の玉はリュシールが持っている。やはり不用意に離れるべきではなかったのだ。
「難しい顔をしているな。怖いか? 安心しろ、お主に危険は及ばぬようきつく言っておく」
「いえ、自分の身くらいは自分で守れます」
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