菜の花散華

本編

第3話 笑顔の裏側

どれぐらいの時間泣いていたのか日月は覚えていない。


 意識がボンヤリと浮上し、置かれている贈り物達を取り落さないように掻き分けて見始めた。
メッセージカードがそのまま付いている箱もあり、古い物は幼少期に日月がプレゼントしていた物まで、ご丁寧に開封されないまま保管されていた。
プレゼントを元の位置に戻し、開けた箱を再びラッピングし直し、敷布を掛け、震える足を叱咤して地下の部屋を出る。
 外は既に真っ暗になり、時計を見ると夜の八時を既に廻っていた。その日はシャワーを浴びて、食事を摂ることもなく眠りについた。




 暁に女性関係がまったくないだなんて日月は思ったことはない。
 婚約者は六歳も年下で、身体も弱い。健全な青少年ならば婚約者という存在がいても、女性と付き合った経験はないほうがおかしい。
それを許容出来なければ、歳の離れた婚約関係など結べない。
だが、暁があまりにも人間関係が淡泊で、絵にしか興味のない姿しか見てきたことがなかったから、勝手に安心していたのだ。
 使用人達がいない日数、日月はただただ考え込んでいた。




 使用人達が仕事に復帰してからも日月はそれまでと変わることなく、あの地下の部屋には気付いていない振りをし続けた。暁のことも。
けれどその一方で行動もしていた。


 結婚を控えている友香に付いていく形で、何気なさを装い、悠生の仕事部屋に入り、大事な物が仕舞われている場所に検討をつけ、後日再び友香と訪れた際、養父母と悠生と友香が四人になるように仕向け、悪いとは思いつつも、悠生の仕事部屋に入り、机の中の鍵のかけられた引き出しを事前に拝借しておいた鍵を使って開け、定期的に送られてきているような女性の写真付きの書類を取り出し、携帯で写真を撮り、再び引き出しの中に戻して鍵を掛け直した。


 暁と交際しているモデルの女性は、森島もりしま妃奈というとても華やかでとても美しい人だった。
 本人を調べた際の写真等々を見て、

 「これは敵うわけがないや」

と諦めてしまうほど。


 高校の同級生で、暁の絵のモデルを務めたことから交際が発展したらしい。
 養父母と友香、日月だけが妃奈の存在を知らされずにいた。
 悠生の采配なのだろう。
 悠生は兄である暁を家族と認識しつつも、何故か暁の言動にため息を吐くことが多かったことを思い出す。兄弟故の何かがあるのだろうと考えていたが、その時になってようやく、悠生が暁の言動に眉間の皺を揉んでいた理由に思い至った。



 日月とは会えなくとも何もせず、妃奈とは忙しくとも時間を作り頻繁に会っている。
 暁に贈り物を贈ることを止めはしなかったが、使用人達が出払っている日にコッソリと地下の部屋に行っては、受け取られていないプレゼントが増えていることを直に確認してしまうだけであった。



 自分はどうして暁の妻になったのだろう・・・。


その言葉が何時でも浮かんでは消えていく毎日。