猫と話をさせてくれ

ねぎ(ポン酢)

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第二話

猫と呪いとハンバーグ①

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 俺は蹲って、手で顔を覆っていた。


「何か、ごめん。」

「別にいいけどよ。とりあえず、何か買ってきて飲めよ。脱水症状でここに倒れられても、俺は何も出来ないぞ?」

「いや、手ぶらで出てきたから、金持ってない。」



 明け方、猫の空き地で散々泣きわめいた俺は、明るくなって、人々の生活音が聞こえ始めても、まだそこにいた。

あの後、俺はとめどもなく出てくる脈絡のない話を、延々と猫に話した。


仕事が始まらなくて不安なこと。

これからの生活のこと。

お金のこと。

見えない病気のこと。

病気のせいで、みんながおかしいこと。

将来のこと。


本当に脈絡なんかなかった。

話はあっちに飛んだり、こっちに飛んだり。
聞いてる猫は、多分、訳がわからなかったと思う。


でも猫は、時より相づちをいれながら、ただ聞いてくれた。

いつもの憎まれ口は、入れてこなかった。


そうやって、身体中に飽和していたたくさんのものは吐き出されて、吐き出しきった俺は、物凄い自責の念に襲われた。

たった3日前にあった相手に、こんな訳のわからん話を延々とされて、猫に申し訳なかった。


「あ~待ってろ。仕方ねぇな~。」


猫はそう言うと立ち上がり、草むらの一部を浅く掘り返した。


「おい、これで足りるか?」


そう言われてのそのそ動いて、猫の足元を覗き込むと、いくらかの小銭が落ちていた。


「何これ?」

「たまに落ちてるだろ?拾った。」

「猫貯金?」

「猫貯金。」



猫に小判とか言うけど、この口の悪い猫には、小判の価値がわかるようだった。

何の為に蓄えていたのかは解らないけれど。


「いやでも悪いし。」

「ここで倒れられる方が迷惑だ。」

「う~ん。」


とは言え、確かに身体中の水分が足りなくて、ちょっとツラい。

俺はお言葉に甘えて、200円借りる事にした。



「十一で貸してやる。」



泥まみれの硬貨を拾うと、猫がニヤニヤ笑ってそう言った。



「…お前さ、前から思ってたんだけど、どこでそんな言葉、覚えたの?」

「馬鹿だな。猫又が何年生きてると思ってんだ?」

「知らねぇよ。」

「そんなことも知らねぇのかよ!?」



猫は心底びっくりしたようで、まったく最近の若い人間は…とかぶつくさ言っていた。


「まぁいい。とにかく、それで何か飲んで、家に帰れや。」

「うん。ありがとう。」

「そんで飯食って、ちゃんと風呂入れ!流石にマジで臭いぞお前!」

「うん、ごめん。」

「いいか!昔の人間の男は、命を絶つときは身綺麗にしたもんだぞ!!」

「いつの時代だよ?」

「いつだったかな?」



他愛もない会話。

でもそれが無性に嬉しくて、何か泣けてきた。

また泣き出したら何言われるかわからなかったし、何か気恥ずかしくて、俺は立ち上がって背を向けた。


「いいか、どっかに座って飲めよ!飲んだ後、すぐ動くなよ!」

「わ、わかっ…わかって、るから。」


猫はぶっきらぼうだけど、優しい。

猫の口が悪いのは、それを悟らせない為なのかな、と少し思った。
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