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第1章「はじまりのうた」

アルバの森のネストルさん

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この恐ろしいモンスター顔の(いや実際モンスターなんだけど)巨大なもふもふ生物は、名前をネストルさんと言うらしい。
普通、ナートゥには名前がないものなのだが、ネストルさんはここいら一帯の主であり、かつてはスーダー達と暮らしていた事もあったので、名前があるのだそうだ。
ふふふ、自分でも何を言っているのやらって感じだ。

ネストルさんは訳がわからない俺に、この世界の事を教えてくれた。

話に出てくる単語の説明をすると、「ナートゥ」というのは、自然の中に生きる者の総称らしい。
これに対し、集まって都市形成をして暮らしている者たちが「スーダー」、二つの中間みたいな生活をするものを「ルース」と呼ぶのだそうだ。

それから「クエル」と「ルアッハ」。
クエルは俺達の世界で言う生物って言えば良いのかな??
人間や動物なんかみたいなものを総称してそう呼ぶ。
ルアッハはいわゆる精霊的なものだ。
だから肉体の無いものも存在する。
ルアッハはその強さによって段階があり、「アム」がいわゆる初級階級で、次が「ミテ」「メソ」と続き、土地を管理する様ないわゆるラスボスタイプが「マクモ」だ。
クエルとルアッハの大きな差は食べる事だ。
クエルは生物なので、普通に定期的に食べる事で生きる。
だがルアッハは変な話、食べなくても生きれる。
いや、全く食べないと言う訳ではなく、取り込み方がたくさんあるし、その身に蓄えがあればしばらく食べなくても平気だし、個体の好き嫌いを除けば何でも食べれるから問題ない。
ルアッハは食事としての食の他、「吸収」「同化」ができる。
吸収は取り込むものの成分を取り込むと言うもの。
だからその辺の草木どころか岩だって土だって吸収して成分として役立てる事ができる。
「同化」は主に戦闘した時などに使うもので、倒した相手を自分と同化させ、相手の持っていた機能を自分のものにする。
これによってルアッハは成長し強さを増して、階級みたいなのを上げるのだ。

つまりネストルさんのこの姿も、元々あった部分に戦ったりして同化させたものが足されに足された結果なのだ。
ちなみにもふもふなのは生まれつきらしいので、これがベースだから今後何かを取り込んだとしてもこのふわふわな幸せな毛並みが失われる事は基本的にはないみたいだ。良かった。

話を元に戻そう。
この世界には大きく分けるとクエルとルアッハがいるのだが、特に棲み分けなどはされておらず、都市を築いたりする知性や社会性を持つものを「オープ」、野生的な本能で生きるものを「フィス」と呼ぶのだそうだ。

だからネストルさんを言い表すと、この辺りを治める「マクモ」の「ルアッハ」で、森に住まう「ナートゥ」だが、深い知性のある「オープ」と言うことになる。

それから世界の説明だ。

まず空。
上に見えるエメラルドグリーンのものがそうなのだが、なんとあれはやはり水なのだ。
この世界は空に水があるのだ。
なんだそりゃと言った感じだが、世界の作りそのものが違うので仕方がない。

この世界は中心にアミナスと呼ばれる太陽みたいなものがある。
それは光の強さを変えていて、アミナスが強く光っている時が昼、弱まっている時が夜となっている。
早い話が一つで月と太陽の役割をしているのがアミナスだ。

そしてアミナスの周りには天水が広がっている。
それが見上げて見えている空になる。
空に水があるなんてと驚いたら、ならどうやって雨が降るのかと聞かれた。
なるほど、空が水だから水が降ってくる。
なんとも納得しやすい話だ。
俺が俺の世界では水蒸気が雲になり、雲から雨が降ると話したら、ネストルさんは理解できないみたいで目を丸くしてフリーズしていた。

ちなみにこの世界では、生命は天水の中で初めて誕生し、世界が広がるにつれて水気層を経て地上へと降りてきた事になっているんだそうだ。
世界は違えど、俺の世界もここも初の生命体は水の中で生まれるもんなんだなぁと思って驚いた。

で、空の話だが、天水はだんだん薄まっていって、半ば気体のようになって地上に繋がる。
この完全な水ではない部分を水気層と呼び、細かくは天水に近い順に、重水気層、水気層、気層と言われる。
そして大地の層があり、その上にクエルやルアッハが暮らしている。
つまりアミナスを中心に、世界は輪のように広がっている。
だから上を見上げているつもりでいるが、元の世界の様に外側を見上げているんじゃない、世界の中心を見上げている状態なのだ。
そしてこの世界はアミナスを中心に膨張していっている。

世界の膨張のことはひとまずおいておいて、大気の話に戻そう。
天水から重水気層、水気層、気層となっているここの大気は、ある意味水の中に近い。
地上部は気層と呼ばれるが、地球の気体なんかとは全然違う。
地球の大気に比べれば、気体の半分は水みたいなものなのだ。
だからこの世界に来た時、俺はある意味溺れていたのだ。
水って感じの水ではないからわからなかったが、ネストルさんの話では俺の肺の半分ぐらいは水が溜まっていたらしい。
そりゃあれだけ苦しいはずだよ。
溺れて肺に水が入った状態だったんだから。
俺はあの時、呼吸をすればするほど水も肺に取り込んでいた。
陸で溺れるとは言うけれど、呼吸をしただけでそうなるなんて、異世界って怖い。

ちなみにこの世界にはちゃんと酸素もある。
だが何しろ水が多い、多すぎる。
水の構造はどうやら同じみたいなので害はないが、多すぎるので陸に居ながら溺れてしまうのだ。
どうやってそんな大量の水が気体として存在していられるのかわからないが、まぁ異世界に元の世界の法則は成り立たない訳だからそこは流そう。

ただ水が異様に大気中にある事を除けば、俺が一度に吸う空気の中に含まれる酸素量は生存可能に適した範囲内で、むしろ少し多いんじゃないかとネストルさんは言った。
この世界では酸素を活用するクエルは全体の半分ぐらいだから、もしかすると使用されている量が少ないからなのかもしれないと言われた。

残りの半分は呼吸をしないのか、もしくは酸素以外に何を呼吸で得ているのかと聞いたら、「生素」を取り入れているとの事だった。
「生素」が何なのかと聞いたら、色々説明されたのだが元の世界には存在しない構造の物質っぽくてどうにも頭に入らない。
そしてこの生素が大気中にある事で、俺の体は動かなかったらしい。

何しろ元の世界にはないものだ。
酸素がはじめ生命体にとって毒だったのと同じように、それは俺にとって異物であって毒だった。
即効性の毒ではないが、体内に入り込んで各所の神経伝達などに悪影響を与えた。

それでネストルさんが、ひとまず俺の体に生素に対する耐性をつけてくれた。
無駄に生素を体内に取り込まないようにし、入っても異物として過剰反応しないよう調整し、生素と結合しやすいものは本来結合すべきものと優先的に結合するよう順位付けをした。
排除ではなくあっても害がない程度にしたのは、その中で暮らすのに、元々あるものをないものとして完全に弾くのは不自然な事で適応能力を落とす事になり、長い目で考えて俺の為にならないからだと言われた。

何か、多くを理解した上でそういう対応にとどめた事に、世の真理を見た気がした。
ネストルさんは物凄く色々な事に精通していて、そして深く物事を理解した上で俺に対応してくれたのだ。
いきなりこんな生存に適さない異世界に落っこちてしまったけれど、ネストルさんに出会って拾ってもらえた俺はとても幸運だ。

「でも……そうすると俺、もしも元の世界に帰ったら、呼吸とかできなくなってるんじゃないですかね??」

ふとそんな事を思い、もふもふの中に埋もれながらネストルさんに聞いた。
ネストルさんは俺が生存に適さない環境に落っこちた上、適応できるように作り変えたせいで未だに弱っていると思って気遣ってくれている。
俺としては結構もう元気なのだが、もふもふが気持ちよすぎるので堪能させてもらっていた。
今までさんざん仕事に追われる日々を過ごしてきたのだから、きっとこれは俺へのご褒美なのだ。
ネストルさんは俺の質問にうむ、と考えながら答えてくれる。

「……恐らくそうであろうな。生存できないほど変えたつもりはないが、こちらに合わせて変えた分、元のドルムでは生きにくくはなっているだろう。」

やっぱりそうか。
わかってはいたが、少しショックだ。
本来ならあのまま溺れて死ぬはずで元の世界には帰れない訳だから、そこを心配するのは命あっての贅沢なのだけどもね。
ふうっとため息をついた俺の顔を、ちょっと心配そうにネストルさんが覗き込んでくる。

「……そうか。やはり帰りたいものだよな。死なしてしまわぬ事しか考えておらず、その様に対処して悪かったな。」

「いえ、いいんですよ。ネストルさんが変えてくれなければあのままこの世界で死んでいたんですから、帰る事を考えるなんて贅沢な話です。」

「そうか………。」

そう返事をしたものの、ネストルさんはうむ、と顔を顰めた。
恐ろしいモンスター顔なのに、その性格をこんなに近くで感じているせいか、何だかとても可愛く思える。

「気にしないでくださいって、ネストルさん。それに、俺が死んだら食べてくれるんでしょ??俺の成分を吸収して解析する為に?」

「まぁ……そのつもりで生かしたのだが……。」

「俺ね、安心してるんです。こんな知らない、自分の知識や常識が通用しない世界に来てしまったけど、何があっても、最期はネストルさんが食べてくれるんだなってわかってて。」

「…………………。」

「元の世界では生きてるのが不安だった。毎日、仕事に追われ、時間に追われ、だからってお金もない。気持ちにも時間にも生活にも余裕がないまま、毎日が回っていく。何の為に生きてるんだろうって。でもそのサイクルから外れたら生活できない。そのサイクルだって、気を抜いたらはじき出されてしまう。何の為に生きているかわからないのに、必死にそれを繰り返していないと生きていられない。焦りと不安がいつもあった。この先、どうなるのかもわからない。生きる事を楽しいと思えないけど、それを繰り返すことしかできなくて。ただ不安だからそのサイクルを回す事に必死に縋りついてた。……だから、この世界に落っこちて、いつか俺はここで死んでネストルさんが食べてくれるんだってわかったら、気持ちが楽になったんです。」

「……帰りたくはないのか?」

「ん~??どうでしょう??帰りたい気持ちがないと言ったら嘘になりますけど、是が否にも帰りたいのかと聞かれると…うん、あんまり帰りたくもないのかも。だいたい帰る方法とかあるんですか??」

「……わからない。だが恐らくないだろうし、あっても膨大なエネルギーが必要になるだろう。」

「ですよね。俺、そこまで情熱的に帰りたいとは思えないし、むしろネストルさんが死んだら食べてくれるって方が安心するんで。」

「おかしな奴だな?」

「そうですね。自分でも何で食べられるって言われて安心したのかわからないですけど。」

俺は笑った。
笑ったら何だか腹が減ってきた。
意識した途端、グググ~っと腹の虫が鳴いた。
驚いたネストルさんがグリンと顔を向けてくる。

「何だ?!その音は?!」

「え?!腹が鳴った音ですけど??」

「腹が鳴る?!どうやって?!どういう構造だ?!それともどこか悪いのか?!」

「い、いえ!健康な証です!!腸が運動する音で!!いつも鳴る訳ではないですし、意識して出した訳でもないんですが…これはその……つまり腹が減ったと言う感じなんですけど……。」

「………腹が減った?つまり何か食したいと言うことだな?!」

「そうですね~。」

「これはいかん!!」

「え??」

「我としたことが迂闊だった!クエルはルアッハと異なり、食べないとすぐに死んでしまう!!」

「いや!!すぐにどうこうなる訳ではないですよ!!ネストルさん!!」

どういう事だろう?!
この世界の生き物は、そんなにすぐにエネルギー切れを起こすのか?!
それともネストルさんが大げさなのか?!

突然立ち上がったネストルさん。
俺はもふもふのお腹周りから落っことされて、ドスンと地面にぶつかった。

「痛たたた……。」

俺はひねりながら体を起こした。
そして初めて、ネストルさんの全身を見上げることになった。

………デカイ。

いやもう、ゲームで巨大なモンスターを倒したりというのがあるが、これだけ大きさに差かあったら、まずその身一つで戦おうなんて普通思わない。
これと戦うんなら戦車がいるだろ、戦車が。

だがそれよりも……。

マクモ。
その土地を統べる者。

ルアッハであるネストルさんは精霊だ。
きっとこの世界で言う神様ってのはこういうものだ。

巨大で、雄々しくて、醜くて、美しい。


「……どうした?!やはり腹が減って動けぬのか?!」

「いえ……ネストルさんがあんまりにも綺麗だったので驚いて……。」

「……綺麗??………我がか……??」

「はい……。」


そう言われ、ネストルさんは何故かカチンコチンに固まってしまった。
え??そんなに変な事を言っただろうか??
俺はしばらく、フリーズするネストルさんを見上げていたのだった。
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