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第二話 知り合いの暫定サイコキラー
扱い方を心得た警部補
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ほんのりと日暮れの気配を覗かせる夕塚市の街並み。
宮間は独り寂しげに公園のブランコに座っていた。
先ほどから前後に揺れているが、欠片も楽しそうではない。
惰性でなんとなく乗っている感じである。
軋むブランコの音が虚しさを助長していた。
そんな風にしばらく無気力に時間を過ごしていた宮間だったが、ふとスマートフォンを取り出してどこかへ連絡をする。
数度のコールを経て相手が応答した。
『何か用か』
電話の相手は花木警部補だった。
宮間は足を揺らしながら苦笑する。
「いやー、それがそこそこ一大事なんですよね」
宮間はこれまでの経緯を話す。
殺人者を発見した黒羽と七篠が走って追跡を始めたこと。
宮間自身も続けて追いかけたものの、結局はぐれてしまったこと。
それらをあっさりと白状した。
花木、神妙な口調で宮間に問いかける。
『事情は分かった。それでお前は今、何をしているんだ』
「走るのも疲れたので、二人とはぐれた公園で休憩もとい待機してますね。ついでに花木さんに連絡しておこうと思った次第です」
『ついでに緊急の連絡をするお前の神経が知れんな』
これにはさすがの花木は呆れ果てる。
宮間との付き合いはそこそこ長いのだが、彼の怠惰さは未だ底が見えない。
この男はどのような場面でも隙あらばサボろうとするのだ。
おまけに叱責したところで大して響かない。
生返事で受け流すばかりである。
なので、花木は思考を切り替えて新たな指示を出すことにした。
『とにかく、黒羽根に連絡を取って迂闊な行動を避けるように伝えろ。お前は二人の現在地を訊いて後を追うんだ』
宮間は苦い顔をする。
「なかなか面倒臭そうですね。そもそも黒羽ちゃんの見つけた殺人者って、今回のホシじゃないかもしれないんですよ? むしろその可能性の方が高いでしょうし」
「そんなことは関係ない。とにかく黒羽と七篠を野放しにするな。あの二人は、お前が監視するんだ」
「えー。もうちょっと休んでからでいいですか」
「…………」
暫し絶句する花木。
少なくない間を置いて、彼は絞り出すように告げる。
「――事を上手く収めたら特別に三日分の有休をやろう」
「仕方ないですね、お任せくださいな」
途端に態度を変えた宮間は通話を切ると、妙にきびきびとした動きで公園を出る。
有給休暇の魅力は抗えなかったらしい。
目先のサボれる時間も大事だが、堂々と貰える休みはさらに貴重なのだ。
お叱りの連絡が来ない分、後者の方が良いに決まっている。
心なしか、宮間の死んだ目にやる気が湧いていた。
「まったく、世話のかかる相棒だね」
黒羽に連絡を試みながら、宮間は苦笑気味にぼやく。
宮間は独り寂しげに公園のブランコに座っていた。
先ほどから前後に揺れているが、欠片も楽しそうではない。
惰性でなんとなく乗っている感じである。
軋むブランコの音が虚しさを助長していた。
そんな風にしばらく無気力に時間を過ごしていた宮間だったが、ふとスマートフォンを取り出してどこかへ連絡をする。
数度のコールを経て相手が応答した。
『何か用か』
電話の相手は花木警部補だった。
宮間は足を揺らしながら苦笑する。
「いやー、それがそこそこ一大事なんですよね」
宮間はこれまでの経緯を話す。
殺人者を発見した黒羽と七篠が走って追跡を始めたこと。
宮間自身も続けて追いかけたものの、結局はぐれてしまったこと。
それらをあっさりと白状した。
花木、神妙な口調で宮間に問いかける。
『事情は分かった。それでお前は今、何をしているんだ』
「走るのも疲れたので、二人とはぐれた公園で休憩もとい待機してますね。ついでに花木さんに連絡しておこうと思った次第です」
『ついでに緊急の連絡をするお前の神経が知れんな』
これにはさすがの花木は呆れ果てる。
宮間との付き合いはそこそこ長いのだが、彼の怠惰さは未だ底が見えない。
この男はどのような場面でも隙あらばサボろうとするのだ。
おまけに叱責したところで大して響かない。
生返事で受け流すばかりである。
なので、花木は思考を切り替えて新たな指示を出すことにした。
『とにかく、黒羽根に連絡を取って迂闊な行動を避けるように伝えろ。お前は二人の現在地を訊いて後を追うんだ』
宮間は苦い顔をする。
「なかなか面倒臭そうですね。そもそも黒羽ちゃんの見つけた殺人者って、今回のホシじゃないかもしれないんですよ? むしろその可能性の方が高いでしょうし」
「そんなことは関係ない。とにかく黒羽と七篠を野放しにするな。あの二人は、お前が監視するんだ」
「えー。もうちょっと休んでからでいいですか」
「…………」
暫し絶句する花木。
少なくない間を置いて、彼は絞り出すように告げる。
「――事を上手く収めたら特別に三日分の有休をやろう」
「仕方ないですね、お任せくださいな」
途端に態度を変えた宮間は通話を切ると、妙にきびきびとした動きで公園を出る。
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お叱りの連絡が来ない分、後者の方が良いに決まっている。
心なしか、宮間の死んだ目にやる気が湧いていた。
「まったく、世話のかかる相棒だね」
黒羽に連絡を試みながら、宮間は苦笑気味にぼやく。
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