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第二話 知り合いの暫定サイコキラー

急展開

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 住宅街の中にひっそりと設けられた児童公園。

 宮間は缶コーヒーを片手にベンチに腰かけていた。
 その背中は哀愁が漂わせている。
 ついでに気だるさや疲れも訴えていた。

 宮間は近くの木にもたれかかった黒羽に声をかける。

「もうさ、止めにしない? こんな不毛なことを繰り返しても、誰も救われないよ……」

 黒羽は顔を僅かに険しくする。
 かなり鬱陶しがっていた。

「悲劇の主人公みたいな雰囲気で弱音を吐かないでください。ただの聞き込み捜査じゃないですか」

 黒羽の言う通り、現在の彼らは殺人事件の現場周辺にて聞き込み調査中だった。
 ちなみにファミレスを出てまだ一時間ほどしか経っていない。

 宮間は途中のコンビニで買った電子バタコをくわえる。

「だってさ、有力な目撃証言が一つもないんだよ? やる気だってなくなるもんさ」

「宮間さんのやる気は元からゼロでしたよね」

「ひゅー、黒羽ちゃんったら辛辣ぅ」

 宮間は棒読みで怯えたフリをする。
 半ば馬鹿にしたような口調だ。

 案の定、黒羽は視線の圧を強めた。
 射殺さんばかりの鋭さを内包している。

 慌てた宮間は、この場にいるもう一人に話を振った。

「まこっちゃんは何かいい案とかある?」

 滑り台で遊んでいた七篠は、一旦動きを止めて思案する。

「難しいですねェ……あっ」

 そこで七篠は手を打った。
 何かを閃いたらしい。
 七篠は万歳をしながら歌うように提案する。

「事件解決に繋がるかは分かりませんが、僕に遺体を見せていただければ情報は増えること間違いなしです!」

「どういうことかな?」

 七篠は誇らしそうに胸を張る。

「僕、こう見えて色々なことに携わってきたので、検死の知識もあるんです。警察にもプロの方がいると思いますが、それでもお手伝いできるかなぁと」

「へぇ、そんな特技があったんだ。すごいね」

「それほどでもないですよー」

 和やかに笑い合う宮間と七篠。
 一方、黒羽だけはその隣で表情を凍らせる。

 七篠は大量殺人者である。
 本当に検死の知識を持っているのあれば、それは誰よりも人間を殺してきたからだろう。

 殺人鬼を野放しにせざるを得ない状況に苛立つ黒羽は、ふと公園の外に目を向ける。

 一人の歩行者がいる。
 茶髪のショートカットが印象的な若い女だ。

 そこまで認識した途端、彼女の紫色の瞳が深く鮮やかな色を灯した。
 黒羽は弾かれたように駆け出す。

 驚いた宮間はすぐさま呼び止めようとする。

「ちょっと、黒羽ちゃん?」

 黒羽は振り返らずに告げた。

「視えました。追跡します」

「わーい、なんだかよく分かりませんが、僕も付いていきますー!」

 軽やかに滑り台から降りた七篠も、黒羽の跡を追って走り出す。
 まるでお祭りにでも参加するかのようなテンションだ。

 取り残された宮間は、頭を掻きながら電子タバコを仕舞う。

「まったく、こちとらアラサーなんだから……もうちょい労わってほしいもんだね」

 宮間は重い腰を持ち上げながら愚痴るのであった。
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