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第88話 仮説を聞いてみた
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職員は拍手をしながら立ち上がる。
それから俺の肩を叩いて言った。
「いやはや、まさか閃いてすぐに成功するとは……器用すぎて気持ち悪いっす」
「悪口を言うな」
「だってそうじゃないっすか。複数の属性を併用する術は存在しますが、ここまで円滑に使えるものじゃないっす。少なくとも年単位の修行が必須ですよ」
職員の指摘はもっともだ。
俺も魔術の勉強をしたのでよく知っている。
属性の同時発動はとても難しい。
どこまで適性があるかも関わってくるため、術の体系化すらまともにできていない状態なのだ。
基本的にどの書物でも、一つの属性を運用する方法しか記されていなかった。
俺が同時発動を成功させられたの偶然に過ぎない。
呼吸を整えながら己の両手を見る。
直前までの感覚はしっかりと残っていた。
その気になれば、何度でも同時発動が可能だろう。
俺はほぼ完璧に習得したのだ。
湧いてきた事実を前に思わず呟く。
「もしかすると、俺には魔術の才能が……」
「それは違いますね。あなたの場合、極限状態で少しばかり集中力が上がっただけです。逆境で奮い立てるのは才能でしょうが、魔術とは無関係っすね」
職員がばっさりと否定する。
もう少し夢を見せてくれてもいいのだが、なかなかに冷徹である。
まあ、彼女の言う通りなのは間違いない。
人間は死ぬ気になれば成長できるのだ。
才能なんて関係なかった。
気付かれない程度に肩を落としたつもりが、それを察した職員が肩を掴んで励ましてくる。
「でも、二属性の併用は本当にすごいっすよ。聖騎士が使えるのは光属性だけらしいので大きな強みっす。残りの時間はこの点を主軸に鍛練を進めるべきっすね」
「これを俺に気付かせようとしていたのか」
「そこまで正確な予測はしていませんでした。ですが限界まで追い詰めることで、あなたは何らかの対抗策を見い出せると確信してました」
「やけに信頼してくれているんだな」
「我々の仲っすから」
職員はとびきりの笑顔を披露する。
どうにも胡散臭さが抜けないのは本人の性格のせいだろう。
その姿に呆れていると、ふと職員の視線が下がる。
彼女は俺の携帯する黒い刃の短剣を指差した。
「その武器、迷宮で手に入れたんでしたっけ」
「ああ、謎の声に託された。おかげで死霊術師を倒すことができた」
俺が答えると、職員がふと何かを考え込む。
彼女は真面目な表情で推測を述べた。
「その声はきっと迷宮の主でしょう」
「迷宮の主?」
「正体は不明ですが、迷宮には全体を統括する自我があるとされています。極秘ですが、ギルドにも何度か証言が持ち込まれているんですよ。あなたが対話したのも、迷宮の主だったのだと思います」
迷宮の自我なんて初耳である。
しかし、あの謎の声を表現するのに適した表現とも思った。
少なくとも敵ではないのは確かであり、結果的に命を救われたのは事実だ。
「きっと死霊術師が邪魔だったんでしょうね。だからあなたの手に短剣が渡すように仕組んだんだと思いますよ。そこから実際に勝利できるかは賭けだったはずですが」
「なぜ俺が選ばれたのか分からない。もっと適任がいただろう」
「特別な存在ではないところが、逆に気に入られたのかもしれませんね。あなたは変わった存在から好かれやすい性質ですし」
職員の考察にビビが大きく頷いている。
何か共感できるところがあったらしいが、俺にはよく分からなかった。
まあ、色々と釈然としない部分がありつつも、謎の声に関する仮説が聞けたのはよかった。
それから俺の肩を叩いて言った。
「いやはや、まさか閃いてすぐに成功するとは……器用すぎて気持ち悪いっす」
「悪口を言うな」
「だってそうじゃないっすか。複数の属性を併用する術は存在しますが、ここまで円滑に使えるものじゃないっす。少なくとも年単位の修行が必須ですよ」
職員の指摘はもっともだ。
俺も魔術の勉強をしたのでよく知っている。
属性の同時発動はとても難しい。
どこまで適性があるかも関わってくるため、術の体系化すらまともにできていない状態なのだ。
基本的にどの書物でも、一つの属性を運用する方法しか記されていなかった。
俺が同時発動を成功させられたの偶然に過ぎない。
呼吸を整えながら己の両手を見る。
直前までの感覚はしっかりと残っていた。
その気になれば、何度でも同時発動が可能だろう。
俺はほぼ完璧に習得したのだ。
湧いてきた事実を前に思わず呟く。
「もしかすると、俺には魔術の才能が……」
「それは違いますね。あなたの場合、極限状態で少しばかり集中力が上がっただけです。逆境で奮い立てるのは才能でしょうが、魔術とは無関係っすね」
職員がばっさりと否定する。
もう少し夢を見せてくれてもいいのだが、なかなかに冷徹である。
まあ、彼女の言う通りなのは間違いない。
人間は死ぬ気になれば成長できるのだ。
才能なんて関係なかった。
気付かれない程度に肩を落としたつもりが、それを察した職員が肩を掴んで励ましてくる。
「でも、二属性の併用は本当にすごいっすよ。聖騎士が使えるのは光属性だけらしいので大きな強みっす。残りの時間はこの点を主軸に鍛練を進めるべきっすね」
「これを俺に気付かせようとしていたのか」
「そこまで正確な予測はしていませんでした。ですが限界まで追い詰めることで、あなたは何らかの対抗策を見い出せると確信してました」
「やけに信頼してくれているんだな」
「我々の仲っすから」
職員はとびきりの笑顔を披露する。
どうにも胡散臭さが抜けないのは本人の性格のせいだろう。
その姿に呆れていると、ふと職員の視線が下がる。
彼女は俺の携帯する黒い刃の短剣を指差した。
「その武器、迷宮で手に入れたんでしたっけ」
「ああ、謎の声に託された。おかげで死霊術師を倒すことができた」
俺が答えると、職員がふと何かを考え込む。
彼女は真面目な表情で推測を述べた。
「その声はきっと迷宮の主でしょう」
「迷宮の主?」
「正体は不明ですが、迷宮には全体を統括する自我があるとされています。極秘ですが、ギルドにも何度か証言が持ち込まれているんですよ。あなたが対話したのも、迷宮の主だったのだと思います」
迷宮の自我なんて初耳である。
しかし、あの謎の声を表現するのに適した表現とも思った。
少なくとも敵ではないのは確かであり、結果的に命を救われたのは事実だ。
「きっと死霊術師が邪魔だったんでしょうね。だからあなたの手に短剣が渡すように仕組んだんだと思いますよ。そこから実際に勝利できるかは賭けだったはずですが」
「なぜ俺が選ばれたのか分からない。もっと適任がいただろう」
「特別な存在ではないところが、逆に気に入られたのかもしれませんね。あなたは変わった存在から好かれやすい性質ですし」
職員の考察にビビが大きく頷いている。
何か共感できるところがあったらしいが、俺にはよく分からなかった。
まあ、色々と釈然としない部分がありつつも、謎の声に関する仮説が聞けたのはよかった。
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