上 下
48 / 111

第48話 治療術師に会いに行ってみた

しおりを挟む
 二人で街を歩いて移動する。
 目指すは紹介された治療術師の医院だ。
 紹介状には地図も記載されていたので間違えることはない。
 少し話しながら歩いていればすぐに着く距離だった。

 移動中、ビビは何かと俺を気遣ってくれる。
 トロールに受けた傷を心配しているのだろう。
 応急処置は済んだので割と平気だし、そう伝えたのだがビビの態度は変わらない。
 まあ、派手にぶっ飛ばされたところを目撃したのだし、仕方ないとは思う。
 普通は死にかねない威力だったのは事実なので、大人しく感謝することにした。

(これから傷を治すから、その心配も消えるんだけどな)

 俺はトロールに殴られた脇腹を撫でる。
 鈍い痛みが走るも、表情を変えるほどではない。
 治療術師の手にかかれば一瞬で片付く程度の傷である。

 そもそも治療術師とは、怪我を治すことを専門とする魔術師のことを指す。
 普通の医者のほぼ上位互換で、大抵の傷は治せるらしい。
 凄腕になってくると、死んだ直後なら蘇生すらさせられるという。
 そこまでの使い手は滅多にいないだろうが、治療術師の実力を知らしめるには十分な逸話だろう。

 ただし利用料金は高い。
 平民が手軽に通える額でないのは間違いなかった。
 だから治療術師の顧客は、高位の冒険者か貴族が大半だと聞いたことがある。
 俺も数えるほどしか利用したことがない。
 よほどの事情がない限りは普通の医者を利用するのが無難だろう。

 ちなみに治療術師は効力の高さから水属性の使い手が多い。
 さらに怪我の種類に応じて他の属性も習得するそうだ。
 基本的にどこでも重宝される存在で、治療術師になった時点で将来は安泰とまで言われている。

 俺も魔術による治療ができるようになったが、魔力量が圧倒的に少ない。
 治療術師として生計を立てるのは不可能だろう。
 ビビの風魔術も、属性的に治療行為との相性が悪い。
 回復手段にするのは難しいので、やはり治療術師になるのは厳しいはずだ。

「ちゃんと治るかな」

「問題ないさ。治療術師は切断された手足も繋げられるらしいからな」

「すごいね」

「まったくだ」

 間もなく地図で記された場所に到着する。
 普段は通らない区画であるそこには、奇妙な建物がそびえ立っていた。
 とにかく高さがある。
 廃屋ばかりの周囲と比べて明らかに目立っていた。
 増築を繰り返したような外観で、何階まであるのか分からない。
 より正確に言うなら、構造が滅茶苦茶なので数えようがないだろう。
 開け放たれた入口はかなり大きく、大型の魔物の搬入でもしているかと疑いたくなる。

(本当にここで合っているのか……?)

 少し不安に思いつつも、俺達は入口を跨いで室内に入った。
 そして、一歩目から立ち止まる。
 砂利が敷かれた地面が広がるその空間は、天井の隙間から日光が差して光源となっていた。

 中央には筋骨隆々の大女が仁王立ちしている。
 巨人族にしては小さいので混血だろう。
 それでも俺達と比べればかなりの差がある。

 大女は血と土で汚れたコートを着ていた。
 厳めしい顔で俺とビビを交互に見ると、ゆっくりと踏み出して近付いてくる。
 全身からは闘気が熱となって発散されていた。
 なんだかこれは不味い展開になる気がする。
 そう思った直後、大女が雄叫びと共に殴りかかってきた。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

単身赴任しているお父さんの家に押し掛けてみた!

小春かぜね
恋愛
主人公の父は会社の諸事情で、短期間で有るはずの単身赴任生活を現在もしている。 休暇を取り僅かだが、本来の住まいに戻った時、単身赴任の父の元に『夏休み、遊びに行く!』と急に言い出す娘。 家族は何故かそれを止めずにその日がやって来てしまう。 短いけど、父と娘と過ごす2人の生活が始まる…… 恋愛小説ですが激しい要素はあまり無く、ほのぼの、まったり系が強いです……

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

無名のレベル1高校生、覚醒して最強無双

絢乃
ファンタジー
無類の強さを誇る高校二年生・ヤスヒコ。 彼の日課は、毎週水曜日にレベル1のダンジョンを攻略すること。 そこで手に入れた魔石を売ることで生活費を立てていた。 ある日、彼の学校にTVの企画でアイドルのレイナが来る。 そこでレイナに一目惚れしたヤスヒコは、なんと生放送中に告白。 だが、レイナは最強の男にしか興味がないと言って断る。 彼女の言う最強とは、誰よりもレベルが高いことを意味していた。 レイナと付き合いたいヤスヒコはレベル上げを開始。 多くの女子と仲良くなりながら、着実にレベルを上げていく。

スポーツクラブに魔王討伐コースがあったのでダイエット目的で入会してみた

堀 和三盆
ファンタジー
 大学入学後。一人暮らしを始めてすぐにゲームにはまってしまい、大学以外は家に引きこもるようになった。そして、あっという間に100キロ超え。もともと少しぽっちゃりはしていたが、ここまでくると動くのもつらい。さすがにこのままじゃまずいと、なけなしの生活費を削ってスポーツクラブに通うことにした。そこで見つけたのが……。 「『魔王討伐コース』……?」  異世界で魔物を倒しながらの運動らしい。最初は弱い魔物から。徐々に強い魔物へとランクを上げていき、最終的に魔王討伐を目指すそうだ。なるほど。あれほどハマったRPGゲームと似たような状況での運動なら、飽きっぽい俺でも続けられるかもしれない。  よし、始めよう! 魔王討伐ダイエット!

アイスさんの転生記 ~貴族になってしまった~

うしのまるやき
ファンタジー
郡元康(こおり、もとやす)は、齢45にしてアマデウス神という創造神の一柱に誘われ、アイスという冒険者に転生した。転生後に猫のマーブル、ウサギのジェミニ、スライムのライムを仲間にして冒険者として活躍していたが、1年もしないうちに再びアマデウス神に迎えられ2度目の転生をすることになった。  今回は、一市民ではなく貴族の息子としての転生となるが、転生の条件としてアイスはマーブル達と一緒に過ごすことを条件に出し、神々にその条件を呑ませることに成功する。  さて、今回のアイスの人生はどのようになっていくのか?  地味にフリーダムな主人公、ちょっとしたモフモフありの転生記。

処理中です...