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第83話 以前までの世界

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 準備を済ませた後、四人で移動を開始する。
 ストレングスは配達用バイクを運転し、道化王子はその後ろに乗る。

 こちらは二人の横を軽トラックで並走する。
 助手席には紙袋姫が据わっていた。
 荷台には大量の銃火器と植物が積んである。
 どちらも可能な限り持ってきた。
 相手は大物なので、惜しまずに使っていくつもりだ。

 夜の道路をバイクと軽トラックが走行する。
 付近にモンスターの気配はない。
 この騒ぎで怯えて逃げたのかもしれない。
 いや、四人の探索で狩りすぎて数が減ったのか。
 ストレングスの担当区域なので、ハイペースで殲滅されたに違いない。
 同情することはない。
 ただ不運なだけである。
 人間もモンスターも死ぬ時はあっけないものだった。

 紙袋姫がカーラジオを起動させる。
 間もなく一昔前の歌謡曲が流れ出した。
 意識して聴いたことはないが、歌詞はなんとなく知っている。
 確かCMかドラマの主題歌として使われていたはずだ。
 紙袋姫の年齢的に世代ではないと思うが、彼女は口ずさみながら楽しんでいる。
 世界が変容する前から音楽好きだったのかもしれない。

 当たり前だが、紙袋姫にも過去がある。
 一度も訊いていないので詳細は不明だが、殺人鬼になる前は平凡な暮らしをしていたのではないか。
 少なくとも現在よりは刺激の少ない毎日だったろう。

 ストレングスや道化王子も同様だ。
 彼らには彼らの日常があった。
 突如としてそれらの連続性を断たれて、何かに執着して自己防衛を図った結果、狂気に浸った殺人鬼へと至っている。
 悲壮な印象を受けないので忘れがちだが、被害者には違いない。

 果たして世界はこれからどうなっていくのか。
 蟲毒じみた法則に従って弱肉強食が進んでいるが、いずれは情勢も落ち着くだろう。
 モンスターは次々と駆逐されて、もはや変容のためのリソースとして見られている状況だ。
 一部を除けばさほどの脅威ではなくなりつつある。

 新たな秩序に順応した人々は、やがて文明の再構築を始めると思う。
 ライフラインが生き残っているので、このまま生活を続けるのは難しくない。

 そうなった時、どのような人間でいるべきなのだろう。
 再び社会に馴染めるとは思えない。
 もう歯車のような毎日は懲り懲りだ。
 新たな秩序においても、できるだけ単独或いは少数で過ごしたいのが本音である。

 そうなってくると、ファミレスでの共同生活のような形が一番なのか。
 自分のペースでモンスターや殺人鬼を狩り、自分の時間を好きなように満喫する。
 多少に危険はあるものの、退屈を紛らわせるスパイスになる。

 話し相手には困らない。
 三人の殺人鬼は意外と気さくで友好的だ。
 癖は強いがそれさえ意識していれば問題ない。

 もし世界が以前に近い形に復興したとしても、孤立気味に生きていきたい。
 自分だけの理想の生活を築き上げればいい。
 寂れたアスファルトの道路を進みながら、静かに決心するのだった。
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