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第70話 殺人鬼の反撃

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 紙袋姫の頭部が急速に再生していく。
 肉と骨が植物のように伸びて、人間の頭部を形成しつつあった。
 まるで早送りのような速度だ。
 二つの眼球は微動だにしない。
 赤い唇が裂けながら笑みを浮かべていた。

 頭部の再生に従って両腕の蔦も躍動する。
 床を叩いて乾いた音を反響させる。
 いつの間にか炎も消えていた。

 さらには背中から四本の蔦が飛び出す。
 不規則に揺れながら長さを増してゆき、だんだんと室内全域を叩いて打ち鳴らした。
 紙袋姫は絶好調らしい。
 先ほどまで倒れていたのが嘘のようだった。
 その姿に危機感を覚える。

 これはさすがに不味い。
 紙袋姫の急所は頭部ではなかった。
 想像以上に変容が進んでおり、人体構造はもはやモンスターに近い。
 斬首は致命傷にならないようだ。

 弾切れになった拳銃を投げ捨てて、両手でワイヤーを構える。
 こうなれば徹底的に破壊するのみだ。
 四肢を切断して、動きを止めたところで燃やし尽くす。
 再生能力は高いが、炎が弱点であるのは判明していた。
 拘束されてもミミックの口で噛み切るだけだ。
 やれないことはないだろう。

 ストレングスも缶ジュースの調達を中断し、満面の笑みで紙袋姫を凝視していた。
 身体に刺さった斧と鉈を引き抜いて頭上で交差させている。
 彼女は血を垂らしながら殺気を高めていた。

 どうやらやる気らしい。
 この場においては何よりも心強かった。
 ストレングスと共闘すれば、蔦による手数の不利も解消される。
 彼女を盾に攻撃して確実に葬ることができる。

 僅かな観察時間の後、紙袋姫の頭部が完全に再生した。
 陶器のように白い肌。
 綺麗な目鼻立ちは日本人離れしており、間違いなく美人の部類に入る造形だろう。

 肩の辺りまで伸びた髪は、草のような色と質感である。
 緩やかに跳ねた先端が、意思を持っているかのように揺れ動いていた。
 頭頂部には小さな芽が生えている。
 トレードマークの紙袋が無くなったことで露わになった頭部は、植物系統の変容が大きく反映されていた。

 刹那、紙袋姫がこちらに突進してくる。
 ストレングスが反応して斬りかかるも、蔦の障壁を作って時間稼ぎされた。
 紙袋姫は速度を落とさずに接近を強行する。

 両腕が大きく開かれていた。
 勢いを付けて組み付くつもりか。
 殺人鬼の身体能力で押し倒されると厄介だ。

 対抗してワイヤーで防御の姿勢を取るも、片脚を引かれて転倒する。
 足首に草が巻き付いていた。
 迫る紙袋姫からコードのように伸びている。

 やられた。
 不意打ちを見抜けなかった。
 ワイヤーを構えようにも、紙袋姫は眼前にいる。
 こうなれば超至近距離での殺し合いしかない。

 覚悟を固めた直後、紙袋姫が首に腕を回してそっと抱き付いてくる。
 そして、甘く蕩けた眼差しで唇を重ねてきた。
 耳元で囁かれたのは、愛の告白だった。
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