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第68話 徹底破壊

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 炎に苦しむ紙袋姫に組み付いて、その細い首にワイヤーを巻き付ける。
 そして、交差された両端を引き絞った。
 無骨なワイヤーが紙袋姫の首に食い込み、ぎりぎりと軋みながら絞めていく。
 さらに背中を踏み付けて身動きが取れないようにした。

 紙袋姫が甲高い悲鳴を上げて抵抗する。
 燃える蔦がしなり、勢いよく背中に叩き付けられた。
 息が詰まって前のめりになるも、ワイヤーを握る手は離さない。
 ここで逃れられると面倒だ。
 だから絶対にやり切る。

 次第に蔦の動きが激しくなってきた。
 殴打では埒が明かないと察したのか、尖らせた先端で胴体を貫いてきた。
 体内を突き破った蔦が、鮮血に染まりながら顔を出す。

 強烈な痛みに顔を顰める。
 いくつもの内臓が破壊されただろう。
 呼吸が上手くできず、出血もかなり酷い。

 それでも両手の力は緩めなかった。
 離せば死ぬ。
 その前に殺す。
 背中を執拗に蹴ってワイヤーを押し込んでいく。

 やがてワイヤーが首の皮膚を破った。
 肉を裂いて血に濡れながら紙袋姫を苦しめる。
 これを好機と見て、血を吐いて渾身の力で絞め付けていった。

 すると、唐突に抵抗感がなくなる。
 ワイヤーの輪が一気に小さくなって直径がゼロに至った。
 断ち切られた紙袋姫の生首が宙を舞う。
 生首は放物線を描いて、回転してレジにぶつかって床に落下した。
 紙袋から覗く片目は、怒りと驚愕に染まってこちらを凝視している。

 まだ生きているのか。
 やはり殺人鬼はしぶとい。
 しっかりと、とどめを刺さなければ。
 死ぬ前に殺すのだ。

 ここで負けると、平凡な暮らしを失ってしまうのだから。
 日常を手放すつもりはない。
 邪魔する者は、誰であろうと殺す。
 そのために手段を選ぶつもりはなかった。

 胴体を貫く蔦を燃やし、傷口に生み出したミミックの口で噛み切る。
 そうして死体を引き剥がすと、尻ポケットに入れていたネイルハンマーを掴み取った。
 生首に近付いてゆっくりと掲げ、力一杯に打ち下ろす。

 鈍い音が鳴って頭部が変形した。
 陥没した箇所から紙袋へと血が滲み出す。
 くぐもった声が聞こえるが、何を言っているかは分からない。
 きっと碌なことではないだろう。
 呪詛でも命乞いでも聞く意味はなかった。

 生首を何度も何度も叩いて破壊していく。
 一秒につき一回。
 機械的なペースでネイルハンマーを叩き付ける。

 紙袋姫の生首が小さくなっていく。
 血と骨と肉が混ざった何かがこぼれ出した。
 それも気にせずネイルハンマーを振り下ろす。

 殺人鬼の再生力は未知数だ。
 ここから逆転でもされたら敵わない。
 それが当然であるかのように、原形を失ってもひたすら殴り続けた。

 正しいことだ。
 死なないための行動である。
 だから殺してもいい。
 たとえどれだけ残虐だとしても。
 壊して、砕いて、潰して、捩じって、殺す。
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