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第67話 殺人鬼の弱点

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 走りながら拳銃を連射する。
 幸いにも全弾が紙袋姫に命中した。

 起き上がろうとした紙袋姫は転倒する。
 震えながら吐血し、すぐに立ち上がれない。
 ストレングスほどのタフネスではないようだ。
 手足や胴体にできた銃創もすぐには再生しない。
 回復力はそこまで突出していないのだろう。

 ただし、そのまま死ぬ気配もなかった。
 弾丸の一発が頭にかぶる紙袋を貫通したのだが、彼女はまだ生きていた。
 血が滲ませながらも、破れた紙袋の隙間からこちらを睨んでいる。

 やはり殺人鬼だ。
 銃撃くらいでは死んでくれない。
 再生しないにしても、殺すにはもっと致命的なダメージを与えねばならないのだろう。

 それはなんとなく分かっていた。
 だから感情に変化はない。
 今度は首を斬り落とすために接近していく。

 紙袋姫がよろめきながら膝立ちになり、袖を振って蔦を振るってきた。
 素早く伸びた蔦が右腕に巻き付いてくる。
 そのまま握り潰されそうな予感がしたので、腕の表面に生成したミミックの口で噛み切った。
 自分の意思とは別に、禍々しい口は蔦を咀嚼して拘束を破壊する。

 そこから片手を炎で燃やして蔦を巻き込んだ。
 炎が蔦を蝕み、根元の紙袋姫へと迫る。
 刹那、絶叫と共に燃える蔦が横殴りに飛んできた。
 避けられず脇腹に直撃を受ける。

 身体が吹っ飛んでダーツ台に激突した。
 息が詰まって咳き込むも、痛がっている暇もない。
 倒れたまま背中のバッグを素早く漁り、火炎瓶を取り出した。
 指先に灯した炎で着火すると、下投げで投げ付ける。

 紙袋姫は火炎瓶を空中で叩き落とした。
 瓶が砕け散り、中身に引火して炎が一気に広がる。

 蔦の炎上が悪化して、ついには紙袋姫がまたもや悲鳴を上げた。
 頭を抱えて唸り、滅茶苦茶に蔦を振り回す。
 かなりヒステリックな姿で、髪を掻き毟りながら暴れ狂っている。
 よほど燃やされるのが気に入らないらしい。
 危険そうに見えるが、蔦の動きに気を付ければ無防備な姿だった。

 蔦の範囲外に這い進みつつ、その間にワイヤーの束を掴み出す。
 輪を緩めながら両手で保持すると、身を低くしながら疾走を始めた。
 狙うのはもちろん紙袋姫だ。
 冷静さを失っている今がチャンスだろう。

 紙袋姫は燃える蔦を震わせている。
 こちらのことなど眼中にないようだった。
 銃撃とは明確に反応が異なるのは、炎が弱点だからではないか。
 きっと植物系統のモンスターの変容を進めたことで、弱点が際立ってしまったのだ。
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