上 下
52 / 107

第52話 ファミレス

しおりを挟む
 出発の準備ができたのでテレビを消す。
 ビッグマウスがニュース番組を独占して人を殺しまくっているが、こちらの生活には関係ない。
 確かスタジオは都市部にあるはずなので、画面上の惨事に過ぎなかった。

 ビッグマウスが遠征してくるのなら考えものであるものの、彼は番組の継続にこだわっている。
 スタジオから大きく離れることはないのではないか。
 きっと実際に遭遇することはないと思う。

 それに、殺人鬼は何もビッグマウスだけではない。
 変容の進んだ一部の人間は、世界各地で狂気に憑かれて暴走していた。
 ネットでは特に危険な者がピックアップされ、その習性や被害規模が画像と共に掲載されている。

 真偽は不明だが、各インフラの維持にも殺人鬼が関わっているらしい。
 ビッグマウスのように占領しているそうだ。
 これほど狂った世界で誰が設備を管理しているのかと思っていたが、ようやく仕組みが納得できた。

 文明が辛うじて生きているのは、謎の執着心を持つ殺人鬼のおかげらしい。
 まともな人間が防衛するライフラインもあるかもしれないが、長くは耐えられないのではないか。
 激化する殺し合いは、ある程度の狂気がなければ淘汰されていくだろう。
 妙なこだわりを持って人々の生活を支える殺人鬼は必要なのかもしれない。

 空腹感が強まってきたのでマンションを発つ。
 自転車に乗って、前カゴには猟銃と工具箱を入れた。
 工具箱にはドライバーやネイルハンマーといった武器を仕込んである。
 モンスターを見かけたら躊躇なく攻撃するつもりだった。

 目的地は近所のファミレスである。
 そこで朝食を作りたいと思う。
 学生時代、系列店でバイトをしていた経験があるので、何かしらの食材が残っていれば料理くらいはできるはずだ。

 無論、モンスターや他の生存者及び殺人鬼が占拠している可能性も考慮している。
 相手が敵対的なら撃ち殺せばいい。
 それくらいはまさに朝飯前だ。

 見知った道を自転車で進むこと五分。
 ファミレスの看板が見えたので減速する。

 通りに面したその店舗はロールカーテンで中の様子が窺えない。
 駐車場には数台の放置車両があった。
 目を凝らすと血が付着しているのが見える。
 店の前にも誰かが倒れていた。
 血だまりが広がっているのでたぶん死体だろう。

 その時、店の入り口が開いた。
 現れたのはコック帽を被る長身の女性だ。
 身長は二メートル近くあるだろう。
 遠目にも分かるほどに筋骨隆々である。

 その女性は何かを引きずりながら外に出る。
 無造作に投げ捨てられたのは男の死体だった。
 皺だらけのコート姿で、片手にはナイフを握っている。

 死体は後頭部が大きく裂けて脳が露出していた。
 何か大きな刃物を叩き込んだような傷だ。
 傷口が綺麗なので、一撃で殺したのだと思われる。
 かなりの腕力と技量が要求される殺し方だった。

 コック帽の女性は両手を払って鼻を鳴らすと、死体を蹴り転がす。
 そのまま店内へと戻って行った。
 一部始終を眺め終えたところで考える。

 あの女性は間違いなく殺人鬼だ。
 ファミレスを拠点に活動しているのだろうか。
 屈強な肉体は相当な数の変容を遂げているようだ。
 まともに戦えば、力押しで叩き潰される予感がした。

 しかし、身体は自然とファミレスに近付いていた。
 恐怖はない。
 朝食を食べに来たのだから、引き返す選択肢はなかった。
 たとえ殺人鬼だろうと邪魔するのは許さない。
 駐車場に自転車を停めて猟銃を担ぐと、何気ない足取りで入店する。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

深刻な女神パワー不足によりチートスキルを貰えず転移した俺だが、そのおかげで敵からマークされなかった

ぐうのすけ
ファンタジー
日本の社会人として暮らす|大倉潤《おおくらじゅん》は女神に英雄【ジュン】として18才に若返り異世界に召喚される。 ジュンがチートスキルを持たず、他の転移者はチートスキルを保持している為、転移してすぐにジュンはパーティーを追放された。 ジュンは最弱ジョブの投資家でロクなスキルが無いと絶望するが【経験値投資】スキルは規格外の力を持っていた。 この力でレベルを上げつつ助けたみんなに感謝され、更に超絶美少女が俺の眷属になっていく。 一方俺を追放した勇者パーティーは横暴な態度で味方に嫌われ、素行の悪さから幸運値が下がり、敵にマークされる事で衰退していく。 女神から英雄の役目は世界を救う事で、どんな手を使っても構わないし人格は問わないと聞くが、ジュンは気づく。 あのゆるふわ女神の世界管理に問題があるんじゃね? あの女神の完璧な美貌と笑顔に騙されていたが、あいつの性格はゆるふわJKだ! あいつの管理を変えないと世界が滅びる! ゲームのように普通の動きをしたら駄目だ! ジュンは世界を救う為【深刻な女神力不足】の改善を進める。 念のためR15にしてます。 カクヨムにも先行投稿中

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

パーティーから追放された中年狙撃手の物語

武田コウ
ファンタジー
突然パーティーから追放された中年冒険者。実は彼は20年前、次元のひずみに巻き込まれて異世界に転移した元日本軍の兵士だったのだ。   20年の月日でこの世界のことはある程度理解した。当然もう日本には帰れないだろうということも・・・。  やることのなくなった彼は一つの決意をする…

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

トカゲ(本当は神竜)を召喚した聖獣使い、竜の背中で開拓ライフ~無能と言われ追放されたので、空の上に建国します~

水都 蓮(みなとれん)
ファンタジー
 本作品の書籍版の四巻と水月とーこ先生によるコミックスの一巻が6/19(水)に発売となります!!  それにともない、現在公開中のエピソードも非公開となります。  貧乏貴族家の長男レヴィンは《聖獣使い》である。  しかし、儀式でトカゲの卵を召喚したことから、レヴィンは国王の怒りを買い、執拗な暴力の末に国外に追放されてしまうのであった。  おまけに幼馴染みのアリアと公爵家長子アーガスの婚姻が発表されたことで、レヴィンは全てを失ってしまうのであった。  国を追われ森を彷徨うレヴィンであったが、そこで自分が授かったトカゲがただのトカゲでなく、伝説の神竜族の姫であることを知る。  エルフィと名付けられた神竜の子は、あっという間に成長し、レヴィンを巨大な竜の眠る遺跡へと導いた。  その竜は背中に都市を乗せた、空飛ぶ竜大陸とも言うべき存在であった。  エルフィは、レヴィンに都市を復興させて一緒に住もうと提案する。  幼馴染みも目的も故郷も失ったレヴィンはそれを了承し、竜の背中に移住することを決意した。  そんな未知の大陸での開拓を手伝うのは、レヴィンが契約した《聖獣》、そして、ブラック国家やギルドに使い潰されたり、追放されたりしたチート持ちであった。  レヴィンは彼らに衣食住を与えたり、スキルのデメリットを解決するための聖獣をパートナーに付けたりしながら、竜大陸への移住プランを提案していく。  やがて、レヴィンが空中に築いた国家は手が付けられないほどに繁栄し、周辺国家の注目を集めていく。  一方、仲間達は、レヴィンに人生を変えられたことから、何故か彼をママと崇められるようになるのであった。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

処理中です...