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第21話 先制攻撃

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 オーガとの距離が五メートルを切った。
 そこで立ち止まって猟銃を構える。

 オーガは無防備な背中を晒して死体を捕食していた。
 ここまで近くにいるのに気付いていないので、察知能力は低そうだ。
 或いは強者としての油断や慢心かもしれない。

 先制攻撃はどこを狙うべきか。
 無難に考えると後頭部だろう。
 散弾で脳を破壊できるのがベストだが、それは理想論である。

 ネットの映像では、頭を狙撃されたオーガが暴走していた。
 攻撃性が増して危険な状態となり、脳を散らしながら抵抗していたのだ。
 つまり急所の破壊でも即死させられない。
 ある程度の反撃は考慮しておいた方がいいだろう。

 どうせ一発で殺せないのならば、その後の優勢に繋げられるようにしたい。
 すなわちオーガの行動を阻害するのだ。
 ここは確実性を優先し、オーガを殺して生き延びることだけを念頭に置く。

 そうなると取るべき選択は自然と絞られてくる。
 数秒の思考で方針をまとめると、実行に移すことにした。

 猟銃の照準をずらす。
 後頭部ではなく、棍棒を握る片手を狙った。
 そこから二連射する。

 散弾を浴びたオーガの片手から血が迸った。
 衝撃で指が何本か千切れ飛ぶ。

 屈強な肉体を持つオーガも、ピンポイントへの攻撃には弱い。
 棍棒を振り回すタイミングでは狙えないので、先制攻撃で潰す箇所として選んだのであった。
 これで攻撃のバリエーションを削ることができる。

 片手を潰されたオーガは絶叫して棍棒を取り落とす。
 それを見た瞬間、猟銃を捨てながら棍棒を蹴り飛ばした。
 棍棒は勢いよく転がっていき、一軒家の生け垣に突き刺さって沈黙する。
 取りに行くには数秒を要するだろう。

 素の身体能力で同じことをすれば爪先を痛めるだけだが、数々の命を奪ってきたことで変容が進んでいる。
 オーガほどではないにしろ、常人を凌駕する膂力を獲得していた。

 ここまでは作戦通りだった。
 即座に拳銃を抜き取り、怒りの形相で振り返るオーガの顔面に向けて乱射する。

 一発目。外した。
 二発目。額に命中した。
 三発目。首を掠めた。
 四発目。右頬を貫いた。
 五発目。片目を破裂させた。
 六発目。また外した。

 弾切れの瞬間、地面を転がるように飛び退く。
 後頭部のすれすれを防風が過ぎ去る感覚があった。

 オーガが片腕を振り回したのだ。
 僅かにでも判断が遅ければ、強烈な一撃を貰っていたに違いない。

 素早く立ち上がって拳銃を捨てると、代わりにナイフと警棒を持つ。
 銃器に比べればやや頼りないが、変容した膂力を活かせる武器だ。
 きっとオーガの硬い皮膚も貫けるはずだ。

 顔面から血を流す隻眼のオーガがこちらを睨む。
 負傷した片手を垂らして、のっそりと立ち上がった。
 そして、殺意を放出しながら襲いかかってきた。
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