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第6話 死の予感

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 アスファルトを転がり、顎を打ってうつ伏せになる。
 血の味がするのは、口の中を切ったからだろう。

 しかし、それどころではない。
 鉄パイプで突かれた腹は、引き絞られるような痛みに襲われていた。
 衝撃が内臓にまで響いている。
 呼吸をするのも苦しく、耐え切れずに嘔吐した。

 震える手足を動かして立ち上がろうとする。
 その間にオークがゆっくりと歩み寄ってきた。

 互いの距離はおよそ三メートル。
 オークは恐ろしい鉄パイプを手に持っている。
 よく見ると先端が複雑に歪んでいた。
 何度も殴打に使ったせいで変形したのだろう。

 あれで僕殺する気なのだ。
 かなりの怪力の上、何の躊躇もない。
 簡単に実行できるだろう。

 手元の猟銃を見やる。
 今は弾切れで、再び撃つには装填し直さなくてはならない。
 弾はポケットにあるが、それを込める余裕はなさそうだった。
 きっとオークに殴られて終わりだ。

 逃げるのも困難だった。
 あの突進力で近付かれればすぐに捕まってしまう。

 いくつかの選択を吟味した末、口から血を垂らしながら立つ。
 猟銃を片手に保持しつつ、ポケットから包丁を抜き取った。

 泣きそうなほどに痛くて苦しい。
 死が目の前まで迫っている。
 それでも不思議と恐怖はなかった。

 この狂った世界で生き抜く覚悟ができたのか。
 それとも急転する現実に頭が追い付いていないのかもしれない。
 どちらにしてもやるべきことは一つだ。

 オークを殺す。
 今から命の奪い合いをして勝利を制する。
 それしか生き延びる道は無かった。

 まず歯を食い縛り、腹の痛みを意識の外に追い出す。
 そして、包丁を胸の高さに持ち上げて構えた。
 切り付けるだけでは大した傷にならない。
 やはり突き刺すのが一番だ。

 オークは余裕そうに佇んでいるが、実際は散弾が右肩に命中している。
 肉が抉れて出血していた。
 いつの間にか鉄パイプを左手に持ち替えていることから、決して軽い傷ではない。
 少なくとも満足に動かせないのは確実だ。
 つまり右腕の可動域の狭さを利用して仕掛けた方がいい。

 冷静になると様々な情報が見えてくる。
 そして気持ちも据わってきた。

 苦痛を表情に出さずに前進する。
 平気な様子で接近していくと、オークに戸惑いが見えた。
 予想外のリアクションを受けて迷いが生まれたのだ。
 オークは突進をせずに鉄パイプを構えて防御の姿勢を取っている。

 きっと猟銃による散弾を警戒しているのだ。
 こちらが弾切れで撃てないことを分かっていない。
 迂闊な行動でまた負傷することを恐れている。

 それでいい。
 力任せに突っ込まれると負けるのはこちらなのだ。
 心理戦で有利な形へと運んでいく。

 絶体絶命の状況の中、ほんの僅かな活路のたぐり寄せが始まった。
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