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5.うじ茶のように渋く甘くすっきりと

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「僕、死んだ割には、軽症だと思うのですが?」

 両足骨折が軽症な訳はないのだが、死の淵にいた事を思うと、ずいぶんと軽い気がしていたのだ。

「あぁ、それは、私の方で少々情報操作を行った。心肺停止のままでは、そもそも研修が行えないのでな。蘇生後、半身不随というのも、そなたに文句を言われそうなので、まぁ、私なりの配慮だ」

 事もなげにすごい事を口にする小野様を見ながら、僕もやはりなと、事の次第を当たり前のように受け入れている辺り、僕はもう立派な小野様付特別補佐になっているのだろうか。

「見るに、そなたは現世での活動再開を無事に果たせたようなので、此度の視察はこれで終いとするが、良いか?」
「えぇ、それは構いませんけど。次はいつ頃……」
「それは、解らぬ。私は、そう暇ではないのだ」
「それもそうですね。大丈夫です。僕はしっかりとこちらで生きていきますよ」

 右手を握り親指だけを立てると、小野様に向かって決めポーズをして見せる。

「では古森さん、研修がんばってくださいね~。次、お会いした時には、絶対に海のお話をしましょうね~」

 小鬼はそう言うとベッドからピョンと飛び降り、小野様の足元へと移動する。そばへ来た小鬼がスーツの裾をギュッと握った事を確認した小野様は、もう一度僕と視線を合わせる。

「では、古森。しっかりやるのだぞ」

 そう言うと、小野様は両手を顔の前へ上げる。そして、パンっと音高く打ち鳴らした。その音の大きさに、僕は思わずギュッと目を瞑ってしまう。再び目蓋を開けたときには、二人の姿はもうどこにも見当たらなかった。

 呆気に取られ、先ほどまで二人がいた場所をぼんやりと見つめる。そこには、冥界区役所宿泊所にはなかった窓から差し込む暖かな光と、懐かしい金木犀の香りだけが残されている。

 不意に与えられた二度目の人生。三十年という期間は、やり直すには充分だ。まずは、もうそろそろ戻ってくるであろう、家族との関係修復に全力で取り組もう。

 そんな事を考えていると、ココンと軽くドアがノックされ、続けて大きな声が病室に響く。

「古森さーん。古森衛さーん。検温お願いしまーす」
「はーい」

 僕は、伸びのある大きな声で返事をした。



 信じられない奇跡によって与えられた新たな時間を僕はもう無駄にはしない。次に小野様と小鬼に会った時に胸を張れるように。

 日々を大切に。人々を大切に。

 僕に与えられた三十年を、大切に誠実に生きていくことを心に強く誓う。






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