仮面少女が笑うとき

田古みゆう

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仮面少女が笑うとき(6)

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 彼女の言葉は懇願に近いものがあった。僕はますます混乱してしまった。

「え、演じる?」
「はい。兄の前で、私の兄を演じてください。私たち二人の様子を見れば、もしかしたら兄の記憶が戻るかもしれないでしょう?」
「……」
「そうすれば、兄は私を認識するようになるはずです」

 僕はようやく理解した。彼女はお兄さんの記憶を取り戻そうとしている。そのために、僕にお兄さん役を演じさせようとしているのだ。

「分かった」

 僕は彼女の頼みを受け入れることにした。彼女の必死さが伝わってきたからだ。僕が了承の言葉を口にすると、彼女は安堵の表情を浮かべた。

「良かった」
「ただ、一つだけ条件がある」
「はい、なんでしょうか」
「僕が君のお兄さんを演じるのは、一度きりだ。二度目はない」
「構いません」
「もし、君が君のお兄さんを取り戻せなかったら、その時は諦めてもらう」
「……はい」

 彼女はしっかりと僕の目を見て返事をしてくれた。その瞳は微かに潤んでいた。

「……じゃあ、早速行きましょうか」
「えっ、行くって何処へ?」
「もちろん兄のところです」
「いや……その前に色々と準備しないといけないんじゃないのかな?」

 いきなり演技しろと言われても困ってしまう。

「必要ありません。あなたはいつも通り、自然体でいてくれればいいです」
「そ、そうなの?」
「はい。それでは、私について来てもらえますか?」
「ああ」

 こうして僕は彼女に連れられて、彼女の家へと向かうことになったのである。

 彼女の家は僕の家から電車で一時間ほどかかる場所にあった。閑静な住宅街の中にひっそりと佇む一軒家で、庭付きの立派なものだった。

 彼女が門を開けると、玄関まで石畳の道が真っ直ぐに続いていた。彼女は慣れた足取りで、道を進んでいく。僕もその後ろに続いた。

「……ここが君の家か」
「はい、そうです」

 彼女は振り返らずに答えた。その声音から、彼女が緊張していることが窺えた。彼女は玄関の前に立つと、大きく深呼吸をした。そして意を決したように扉を開いた。

「ただいま戻りました」

 彼女は小さな声で帰宅の挨拶をした。けれど、家の中は無言のままであった。

 彼女は靴を脱ぐと、ゆっくりと廊下を歩いていく。僕はその後を追った。彼女はリビングへと続くドアを開けた。そこにはソファーに座っている男女の姿があった。

「父さん、母さん、友達を連れてきました」

 彼女は僕を紹介するかのように言った。

「……」

 二人は驚いたように彼女を見た。
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