仮面少女が笑うとき

 果たして、演じるとはどういうことなのか。


「……わかった。やろう。君の言うとおりにする」
 僕がそう答えると、彼女は心底ほっとしたように詰めていた息を吐き出した。そして、僕の手を両手で包み込むようにして握る。
「ありがとうございます」
「いいんだ。でも……」
「でも?」
「いや、なんでもない」
 首を傾げる彼女に、僕は微笑みかけた。
「大丈夫だ。きっとうまくいくさ」
 彼女は一瞬きょとんとした空気を放ってから、小さく吐き出すように笑った。
「ふふっ。はい」
 笑ったように感じた。彼女の顔は無表情だった。まるで仮面を貼りつけたような無表情。けれど確かにそのとき、彼女は笑っていた。


※表紙画像及び挿絵は、フリー素材を加工使用しています。
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