5 / 8
2.女子高生 p.4
しおりを挟む
ご婦人を無事、式場入口まで送り届け、私は、新たな乗客を求めて走り出す。しかし、坂を下り始めてしばらくすると、車を道の端に停めた。
視線の先には、小さな人影。この辺りでは、あまり見かけない制服を身に纏った少女が、大きめの紙袋を手に、少し足を引き摺るようにして、坂を上ってくる。その姿には、見覚えがあった。
どうするべきか少しの間逡巡したのち、私は、タクシーの料金メーターをオフにした。それから、助手席前方に設置されているグローブボックスを開けると、いざという時のために収められていた簡易救急セットを手に、車を降り、少女に向かって小走りに駆け寄った。
突然近寄ってくる見知らぬ人に、少女は、警戒心を露わに、その場で立ちすくんでいるが、致し方ない。この場合、どのように声をかけても、相手に警戒心を持たれないようにするのは、無理なのだから。いかに、素早くその警戒心を解いてあげられるかが重要だろう。
「突然ごめんね。あの、足を怪我してるんじゃない?」
「……いえ……少し、擦りむいているだけです」
「さっき、駅で転んだ時だよね? それ以外は、痛いところないかい?」
「……」
私の言葉に、少女は、少し体を引き気味にして、訝しそうな視線を向けた。
「ああ。ごめんね。私は、決して怪しい者じゃないんだ。さっき、キミが、駅でシルバーカーに引っかかって転んでしまった時に、助け起こした者だよ」
「ああ……」
私の顔は覚えていなくとも、先程の状況は思い出せたのか、少女の顔から警戒の色が少し消えたような気がした。
「あの場からすぐに走り去ってしまったから、怪我は大丈夫だったかと心配していたんだ」
「あの時は、すみませんでした。急いでいたので……あの、荷物は大丈夫ですか?」
少女は、軽く頭を下げながら、謝罪の意を口にする。
「ああ。大丈夫だったよ」
「良かった。謝らずに来てしまったこと、気になっていたんです」
私の答えにホッとしたのか、少女は、小さく微笑んだ。
「それじゃ。急いでいるので」
私に向かって、軽く会釈をし、その場を立ち去ろうとする少女を、私は思わず呼び止めると、手にしていた救急セットをガサゴソと漁り、絆創膏を取り出した。
「ちょっと待って。その足じゃ、歩くの大変だろ? せめて、絆創膏を……」
絆創膏を1枚、少女に手渡しつつ、私は、何気なく尋ねる。
「その足で、一体どこまで行くんだい?」
「……この坂を上った所にある、結婚式場までです」
「えっ?」
視線の先には、小さな人影。この辺りでは、あまり見かけない制服を身に纏った少女が、大きめの紙袋を手に、少し足を引き摺るようにして、坂を上ってくる。その姿には、見覚えがあった。
どうするべきか少しの間逡巡したのち、私は、タクシーの料金メーターをオフにした。それから、助手席前方に設置されているグローブボックスを開けると、いざという時のために収められていた簡易救急セットを手に、車を降り、少女に向かって小走りに駆け寄った。
突然近寄ってくる見知らぬ人に、少女は、警戒心を露わに、その場で立ちすくんでいるが、致し方ない。この場合、どのように声をかけても、相手に警戒心を持たれないようにするのは、無理なのだから。いかに、素早くその警戒心を解いてあげられるかが重要だろう。
「突然ごめんね。あの、足を怪我してるんじゃない?」
「……いえ……少し、擦りむいているだけです」
「さっき、駅で転んだ時だよね? それ以外は、痛いところないかい?」
「……」
私の言葉に、少女は、少し体を引き気味にして、訝しそうな視線を向けた。
「ああ。ごめんね。私は、決して怪しい者じゃないんだ。さっき、キミが、駅でシルバーカーに引っかかって転んでしまった時に、助け起こした者だよ」
「ああ……」
私の顔は覚えていなくとも、先程の状況は思い出せたのか、少女の顔から警戒の色が少し消えたような気がした。
「あの場からすぐに走り去ってしまったから、怪我は大丈夫だったかと心配していたんだ」
「あの時は、すみませんでした。急いでいたので……あの、荷物は大丈夫ですか?」
少女は、軽く頭を下げながら、謝罪の意を口にする。
「ああ。大丈夫だったよ」
「良かった。謝らずに来てしまったこと、気になっていたんです」
私の答えにホッとしたのか、少女は、小さく微笑んだ。
「それじゃ。急いでいるので」
私に向かって、軽く会釈をし、その場を立ち去ろうとする少女を、私は思わず呼び止めると、手にしていた救急セットをガサゴソと漁り、絆創膏を取り出した。
「ちょっと待って。その足じゃ、歩くの大変だろ? せめて、絆創膏を……」
絆創膏を1枚、少女に手渡しつつ、私は、何気なく尋ねる。
「その足で、一体どこまで行くんだい?」
「……この坂を上った所にある、結婚式場までです」
「えっ?」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
【完結】「別れようって言っただけなのに。」そう言われましてももう遅いですよ。
まりぃべる
恋愛
「俺たちもう終わりだ。別れよう。」
そう言われたので、その通りにしたまでですが何か?
自分の言葉には、責任を持たなければいけませんわよ。
☆★
感想を下さった方ありがとうございますm(__)m
とても、嬉しいです。
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
私をもう愛していないなら。
水垣するめ
恋愛
その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。
空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。
私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。
街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。
見知った女性と一緒に。
私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。
「え?」
思わず私は声をあげた。
なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。
二人に接点は無いはずだ。
会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。
それが、何故?
ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。
結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。
私の胸の内に不安が湧いてくる。
(駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)
その瞬間。
二人は手を繋いで。
キスをした。
「──」
言葉にならない声が漏れた。
胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。
──アイクは浮気していた。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる