4 / 8
2.女子高生 p.3
しおりを挟む
走っている人の姿を目にして、不意に先ほどの女子高生のことが気になった。彼女はあんなに慌てて、どこへ向かったのだろうか。私は、流れる車窓の景色とともに、彼女の行動に思いを馳せる。
制服を着ていたけれど、そう言えば、鞄を持っていなかったな。最近の子は、何が入っているのだろうと、不思議に思うほどに大きな荷物を持っている子が多いけれど、あの子は荷物を持っていなかったはずだから、学校へ行くわけではないのだろうか。
学校ではなく、手ぶらで、制服を着ているとなると、考えられるのは、冠婚葬祭事への出席だろうか。学生の正装は、制服なのだから、もしかしたら、そうかもしれないな。最近は休日でも、制服姿の学生を見かけるので、一概にそうとは言い切れないが、私のような年代の者で考え付く理由は、そういった事くらいだ。
確か今日は大安だったから、後部座席のご婦人のように、彼女も親族の結婚式があるのかもしれない。それなのに、寝坊をしてしまい、きっと、一人置いてきぼりをくったのだな。花嫁の家族なら、ご両親は朝から忙しいだろうから、寝坊助の子供にまでは構っていられなかったのだろう。
両親は、寝坊助のあの子を起こすと、花嫁とともに、先に家を出てしまう。一人残されたあの子は、慌てて出かける用意をして、家を出ると、駅へ向かって走り出した。途中で、母からの着信を受け、買い物を頼まれたあの子は、時間がないのにと、さらに慌てて、駅へと駆ける。必死に走り、何とか駅へと辿り着いたが、少し気を抜いてしまったばかりに、彼女は足を縺れさせ、置いてあったシルバーカーに躓き、盛大に転んでしまう。
幸い、膝を擦りむいただけで、大事には至らなかったが、慌てている彼女は、自身のことで精一杯。周りを見る余裕などない。再び走り出し、慌てて、改札を抜け、ホームに停まる電車へと飛び乗った。
そんな風に、見ず知らずの女子高生の些細な出来事を、好き勝手に思い描きながら、私は、車を目的地へと走らせる。小高い丘の上に建てられた結婚式場へは、もう間もなく到着だ。
私は、後部座席へ声をかける。
「お客様。もう間もなく到着いたします」
私の声で、目を覚ましたご婦人は、窓から景色を眺め、感心したように声を弾ませた。
「あら、随分と眺めのいい所ね」
「そうですね。周りよりも少し高い場所になりますからね」
「タクシーに乗って良かったわ。とてもじゃないけど、徒歩では来られそうにないもの」
制服を着ていたけれど、そう言えば、鞄を持っていなかったな。最近の子は、何が入っているのだろうと、不思議に思うほどに大きな荷物を持っている子が多いけれど、あの子は荷物を持っていなかったはずだから、学校へ行くわけではないのだろうか。
学校ではなく、手ぶらで、制服を着ているとなると、考えられるのは、冠婚葬祭事への出席だろうか。学生の正装は、制服なのだから、もしかしたら、そうかもしれないな。最近は休日でも、制服姿の学生を見かけるので、一概にそうとは言い切れないが、私のような年代の者で考え付く理由は、そういった事くらいだ。
確か今日は大安だったから、後部座席のご婦人のように、彼女も親族の結婚式があるのかもしれない。それなのに、寝坊をしてしまい、きっと、一人置いてきぼりをくったのだな。花嫁の家族なら、ご両親は朝から忙しいだろうから、寝坊助の子供にまでは構っていられなかったのだろう。
両親は、寝坊助のあの子を起こすと、花嫁とともに、先に家を出てしまう。一人残されたあの子は、慌てて出かける用意をして、家を出ると、駅へ向かって走り出した。途中で、母からの着信を受け、買い物を頼まれたあの子は、時間がないのにと、さらに慌てて、駅へと駆ける。必死に走り、何とか駅へと辿り着いたが、少し気を抜いてしまったばかりに、彼女は足を縺れさせ、置いてあったシルバーカーに躓き、盛大に転んでしまう。
幸い、膝を擦りむいただけで、大事には至らなかったが、慌てている彼女は、自身のことで精一杯。周りを見る余裕などない。再び走り出し、慌てて、改札を抜け、ホームに停まる電車へと飛び乗った。
そんな風に、見ず知らずの女子高生の些細な出来事を、好き勝手に思い描きながら、私は、車を目的地へと走らせる。小高い丘の上に建てられた結婚式場へは、もう間もなく到着だ。
私は、後部座席へ声をかける。
「お客様。もう間もなく到着いたします」
私の声で、目を覚ましたご婦人は、窓から景色を眺め、感心したように声を弾ませた。
「あら、随分と眺めのいい所ね」
「そうですね。周りよりも少し高い場所になりますからね」
「タクシーに乗って良かったわ。とてもじゃないけど、徒歩では来られそうにないもの」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
【完結】「別れようって言っただけなのに。」そう言われましてももう遅いですよ。
まりぃべる
恋愛
「俺たちもう終わりだ。別れよう。」
そう言われたので、その通りにしたまでですが何か?
自分の言葉には、責任を持たなければいけませんわよ。
☆★
感想を下さった方ありがとうございますm(__)m
とても、嬉しいです。
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
私をもう愛していないなら。
水垣するめ
恋愛
その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。
空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。
私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。
街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。
見知った女性と一緒に。
私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。
「え?」
思わず私は声をあげた。
なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。
二人に接点は無いはずだ。
会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。
それが、何故?
ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。
結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。
私の胸の内に不安が湧いてくる。
(駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)
その瞬間。
二人は手を繋いで。
キスをした。
「──」
言葉にならない声が漏れた。
胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。
──アイクは浮気していた。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる