350 / 396
新人魔女に新たな依頼(6)
しおりを挟む
「この店で宣伝をしながら、注文が入ったときにだけ作ることにしたんだ。まだ新しいものだからね。たくさん作っても皆さんに受け入れてもらえるかわからないからさ」
ラウルの言葉にリッカはホッと息を吐いた。どうやら氷精花の研究には多少の猶予がありそうだ。しかし、あの薬用スイーツの美味しさをリッカは既に知っている。街の人々に周知され、重宝され始めるのは時間の問題だろう。それまでに何とか栽培研究を形にしなければ。
リッカがそんなことを考えていると、店の裏口から「ラウル君、いるー?」と女性の声が響いてきた。ラウルはその声に「はいはい」と言いながら、リッカを残して厨房から出ていった。
しばらくして、ラウルはミーナを連れて戻ってきた。
「まぁ、リッカちゃん。こんにちは。さっき、お客さんに聞いたのよ。ラウル君のところに可愛いお手伝いさんが来たって。まさか、リッカちゃんのこと?」
挨拶もそこそこに勢いよくそう聞いてくるミーナにリッカは笑顔を向ける。
「ミーナさん、こんにちは。その情報は当たってますけど、残念ながらわたしのことではありません。この子たちです」
リッカはそう言いながら、台の上にいるセバンたちに視線をやる。ミーナもそれに倣うようにそちらへと視線を向けた。団扇を持って一生懸命にカスタードを冷ましている二体のセバンを見てミーナは「まぁ」と手を口に当てる。
「え? なにこの子たち」
ミーナは二体のセバンを見て目を見開く。そんな反応にリッカは胸を張ってセバンたちを紹介する。
「この子たちは『セバン』と言いまして、土人形の従者です。今日から、ラウルさんのお店をお手伝いすることになりました」
「え? 土人形の従者って……この子たち、ゴーレムなの?」
ミーナが驚いたようにセバンを凝視する。そんな視線に動じることもなく二体はふわりふわりとカスタードを冷ましている。
「せっかくですから、お二人は店の方でお話されては? 僕は午後からの仕込みがまだ残っているので、ちょっと失礼しますが」
ラウルにそう勧められてリッカとミーナは厨房を出た。二人が店のテーブル席に着くと、程なくして一体のセバンがお茶を運んできた。ラウルの指示だろうか。その姿を見てミーナが顔を綻ばせる。
「まぁ、可愛らしい。これは確かに街の噂になるわね」
ミーナはセバンからお茶を受け取った。セバンは小さいので、卓上にお茶を置くことができない。必然的に来客自らが受け取ることになる。
ラウルの言葉にリッカはホッと息を吐いた。どうやら氷精花の研究には多少の猶予がありそうだ。しかし、あの薬用スイーツの美味しさをリッカは既に知っている。街の人々に周知され、重宝され始めるのは時間の問題だろう。それまでに何とか栽培研究を形にしなければ。
リッカがそんなことを考えていると、店の裏口から「ラウル君、いるー?」と女性の声が響いてきた。ラウルはその声に「はいはい」と言いながら、リッカを残して厨房から出ていった。
しばらくして、ラウルはミーナを連れて戻ってきた。
「まぁ、リッカちゃん。こんにちは。さっき、お客さんに聞いたのよ。ラウル君のところに可愛いお手伝いさんが来たって。まさか、リッカちゃんのこと?」
挨拶もそこそこに勢いよくそう聞いてくるミーナにリッカは笑顔を向ける。
「ミーナさん、こんにちは。その情報は当たってますけど、残念ながらわたしのことではありません。この子たちです」
リッカはそう言いながら、台の上にいるセバンたちに視線をやる。ミーナもそれに倣うようにそちらへと視線を向けた。団扇を持って一生懸命にカスタードを冷ましている二体のセバンを見てミーナは「まぁ」と手を口に当てる。
「え? なにこの子たち」
ミーナは二体のセバンを見て目を見開く。そんな反応にリッカは胸を張ってセバンたちを紹介する。
「この子たちは『セバン』と言いまして、土人形の従者です。今日から、ラウルさんのお店をお手伝いすることになりました」
「え? 土人形の従者って……この子たち、ゴーレムなの?」
ミーナが驚いたようにセバンを凝視する。そんな視線に動じることもなく二体はふわりふわりとカスタードを冷ましている。
「せっかくですから、お二人は店の方でお話されては? 僕は午後からの仕込みがまだ残っているので、ちょっと失礼しますが」
ラウルにそう勧められてリッカとミーナは厨房を出た。二人が店のテーブル席に着くと、程なくして一体のセバンがお茶を運んできた。ラウルの指示だろうか。その姿を見てミーナが顔を綻ばせる。
「まぁ、可愛らしい。これは確かに街の噂になるわね」
ミーナはセバンからお茶を受け取った。セバンは小さいので、卓上にお茶を置くことができない。必然的に来客自らが受け取ることになる。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
戦いから帰ってきた騎士なら、愛人を持ってもいいとでも?
新野乃花(大舟)
恋愛
健気に、一途に、戦いに向かった騎士であるトリガーの事を待ち続けていたフローラル。彼女はトリガーの婚約者として、この上ないほどの思いを抱きながらその帰りを願っていた。そしてそんなある日の事、戦いを終えたトリガーはフローラルのもとに帰還する。その時、その隣に親密そうな関係の一人の女性を伴って…。
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる