上 下
251 / 415

新人魔女と薬用スイーツ(3)

しおりを挟む
 リッカは興奮したように、ラウルの店でスイーツを見た時のことを語り出した。ミーナはそんなリッカの話に相槌を打ちながらも視線はテーブルの上のプルンとしたスイーツに釘付けだった。

「それじゃあ、これはスライムに似せてはいるけれど、スライムではないということ?」

 ミーナがそう尋ねると、エルナが口を開いた。

「そのようです。原材料は氷精花だそうです。こちらの薄皮は、その氷精花の茎から採取した繊維から出来ているそうですよ」
「氷精花?」

 さすがは色々なアイテムを取り扱っている雑貨店の店主。氷精花ももちろん知っていた。

「確か、治癒力を高める効果がある花よね。止血剤や鎮静剤なんかの原材料として使われている……」

 リッカが「そう、これです」と言って、いつも肩から下げている鞄から小さなガラス瓶を取り出した。綿帽子のようなふわりとした小さな白い花の周りを、水晶でできているかのような透明に近いブルーの花弁が包み込んでいる花が入っている。

「あら? なかなか原型のまま持ち歩くのは難しい素材だったはずだけど、わざわざ買ってきたの?」
「いえ。これは、先日わたしが採取したものなんですよ」
「先日? 採取? それはいつ頃の話かしら? だって、氷精花はすぐに溶けてしまうでしょ。それを鞄に入れて持ち歩くだなんて……ま、まぁいいわ。その件についても気になるところだけれども、まずはこのスライムについて話を聞きましょう」

 ミーナの表情に一瞬商談者の片鱗が現れたが、今はそれよりも目の前の不可思議なスイーツへの好奇心の方が勝ったようだった。

 エルナは、スイーツ店の店主ラウルがなぜ氷精花をベースにこのスイーツを作ったのかを説明し始めた。

「実は少し前からラウルさんは薬用スイーツが作れないかと考えていたようなんです」
「薬用スイーツ?」
「ええ。ラウルさんのお店に来るお客様の中に、お子様の発熱にお困りの方がみえたそうなのです。その御宅のお子様は体があまり丈夫ではないようで、しばしば発熱するのだとか。それで、お薬を飲ませようとすると、酷く嫌がられてしまうので困っているというお話をお客様からお聞きになって、それからラウルさんは、薬の代わりになるスイーツが作れないかと考えていたそうです」

 エルナの説明にミーナはなるほどと頷く。大人になるにつれ薬を躊躇なく服用できるようになったが、確かにミーナ自身、子どもの頃は薬が苦くて我慢して飲むのが嫌だったことを思い出す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隠された第四皇女

山田ランチ
ファンタジー
 ギルベアト帝国。  帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。  皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。 ヒュー娼館の人々 ウィノラ(娼館で育った第四皇女) アデリータ(女将、ウィノラの育ての親) マイノ(アデリータの弟で護衛長) ディアンヌ、ロラ(娼婦) デルマ、イリーゼ(高級娼婦) 皇宮の人々 ライナー・フックス(公爵家嫡男) バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人) ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝) ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長) リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属) オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟) エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟) セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃) ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡) 幻の皇女(第四皇女、死産?) アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補) ロタリオ(ライナーの従者) ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長) レナード・ハーン(子爵令息) リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女) ローザ(リナの侍女、魔女) ※フェッチ   力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。  ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

完)まあ!これが噂の婚約破棄ですのね!

オリハルコン陸
ファンタジー
王子が公衆の面前で婚約破棄をしました。しかし、その場に居合わせた他国の皇女に主導権を奪われてしまいました。 さあ、どうなる?

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

処理中です...