上 下
159 / 396

新人魔女と師匠の共同研究(7)

しおりを挟む
 しかし、答えが分かるはずもない。リッカは少し考え込んでから首を振ると、瓶に栓をして鞄の中に入れた。

「わたしたちだけで考えていても分からないわ。属性判定とか毒判定とか、色々とやりたかったけど、仕方ない。一度リゼさんに報告に行きましょう」

 どうやら自身だけでは、素材解明は難しいと判断したリッカは、道具類を鞄へ片付けて、リゼの元へ向かった。リゼのいる実験室へと足を踏み入れる。

「リゼさん」

 リッカが声をかけるが、リゼは集中しているのか返事がない。

「リゼさん?」

 リッカがもう一度声をかけると、ようやくリゼが気づいたようで視線を向けてきたが、その目はどこかぼんやりとしていた。手に虹の雫を持っている。

「どうしたんですか?」

 リッカは心配そうにリゼに問いかけた。リゼは口をパクパクと動かし、何か言おうとしているようだったが、上手く言葉が出てこないようだ。リッカに問いかけられても、ジッとこちらを見つめるだけで何も答えられない。

 そんな様子のリゼを見て、リッカはもしかしてと思い当る。

「フェン、お願い!」

 リッカの鋭い指示に瞬時に反応した使い魔は素早くジャンプをすると、ぼんやりとするリゼの手から花を易々と奪い取り、ポチャンと花を管理していた水の中へ戻した。

 そのうちにリッカは、リゼの背中を押して研究室を出る。少しでも虹の雫から離れた方が良いとの判断からだ。

「もしかして……魅了されました?」

 リッカにそう問いかけられても、リゼは首を横に振るばかりである。しかし、リッカの目には、虹の雫に向かってフラフラと研究室へ戻ろうとしているリゼの姿が映っているのだ。

「とにかく一度ここを離れましょう」

 そう声をかけても動こうとしないリゼを引っ張り、リッカはリゼの執務机まで連れてきた。それからもう一度問いかける。

「リゼさん? 花に魅了されましたよね?」

 すると、ようやく正気に戻ったのか、リゼは大きく息を吐き、頷いた。

「ああ……」

 弱々しい声ではあったが、肯定の返事が返ってきて、リッカはホッと安堵の息を漏らす。

「どうして花を手にしていたのですか?」

 リッカの問いに、リゼは先程の出来事を説明する。 どうやらリゼは虹の雫の蜜を採取しようとしていたらしい。リゼもリッカ同様に虹の雫を水の中で管理しているのだが、蜜の採取をしようとして水から花を出したところで魅了されてしまったようだ。運良くリッカが来て良かったと、珍しくリゼはリッカに心から感謝した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

処理中です...