124 / 396
新人魔女と妊婦と不思議なアップルパイ(4)
しおりを挟む
思わずリッカが聞き返すと、男性はニコニコとした表情を崩さずに言った。
「うん。今日は開店記念で街の皆さんにアップルパイを配ってるんだ」
男性があまりにもにこやかに微笑むので、リッカはアップルパイと男性を交互に見比べた。
「開店記念?」
「そう。あそこの通りに新しくできた『スイート・ミッション』って、店。良かったら、今度来てよ」
男性が指差した方を見る。どうやら広場を抜けた先の商店街に店があるらしい。
「そうなんですね。じゃあ、今度伺います」
リッカは差し出されたアップルパイの箱を受け取ると、ペコリと頭を下げた。男性は嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「待ってるよ! 食べてみて美味かったら、店の宣伝もよろしくっ!」
男性の笑顔に釣られるようにリッカも笑みを浮かべると、甘いリンゴの匂いがする箱を胸に抱えてその場を離れた。
街へ来たのは正解だったとリッカは思う。あれほど煮詰まっていた気分が、賑やかな雰囲気と甘いお菓子のおかげで幾分マシになった。リッカは改めて手に持った箱を眺めた。
(少し小ぶりのアップルパイだけど、手土産にちょうどいいかも)
まだ温かい箱の中からは、甘い香りが漂ってくる。一口齧ればサクリとした食感のパイ生地に、甘酸っぱいリンゴとバターの香りが口いっぱいに広がるだろう。自然と口元に笑みが浮かぶのを感じながら、リッカはジャックスの妻ミーナがやっている店へ足を向けた。
広場を抜け、人通りの多い商店街へ入る。この辺りは、日常的に使う魔道具や薬を売っている屋台が多く立ち並んでおり、買い物客で賑わっていた。道行く人とぶつからないように注意しながらミーナの店へ着くと、リッカは店の扉を開いた。
チリンと、扉につけられていた小さな鈴が軽やかな音を立てる。リッカは開いた隙間から店の中を覗き込んだ。店の中は少し薄暗いが、中の様子が見えないほどではない。
(ミーナさん、いるかな?)
キョロキョロと見回すと、店の奥で何か作業をしていたらしい人物が顔を出した。
「おっ! 嬢ちゃんか。よく来たな」
就労斡旋所『プレースメントセンター』の所長ジャックス・ランバートだ。店の主であるミーナはと言えば、店の奥にいるのか姿が見えない。リッカはペコリと頭を下げる。
「ジャックスさん。こんにちは。今日は就労斡旋所の方はお休みですか?」
リッカがそう尋ねると、ジャックスは苦笑した。
「……まぁな。ミーナのやつが具合が悪いってんで、休みをもらってるんだ」
「うん。今日は開店記念で街の皆さんにアップルパイを配ってるんだ」
男性があまりにもにこやかに微笑むので、リッカはアップルパイと男性を交互に見比べた。
「開店記念?」
「そう。あそこの通りに新しくできた『スイート・ミッション』って、店。良かったら、今度来てよ」
男性が指差した方を見る。どうやら広場を抜けた先の商店街に店があるらしい。
「そうなんですね。じゃあ、今度伺います」
リッカは差し出されたアップルパイの箱を受け取ると、ペコリと頭を下げた。男性は嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「待ってるよ! 食べてみて美味かったら、店の宣伝もよろしくっ!」
男性の笑顔に釣られるようにリッカも笑みを浮かべると、甘いリンゴの匂いがする箱を胸に抱えてその場を離れた。
街へ来たのは正解だったとリッカは思う。あれほど煮詰まっていた気分が、賑やかな雰囲気と甘いお菓子のおかげで幾分マシになった。リッカは改めて手に持った箱を眺めた。
(少し小ぶりのアップルパイだけど、手土産にちょうどいいかも)
まだ温かい箱の中からは、甘い香りが漂ってくる。一口齧ればサクリとした食感のパイ生地に、甘酸っぱいリンゴとバターの香りが口いっぱいに広がるだろう。自然と口元に笑みが浮かぶのを感じながら、リッカはジャックスの妻ミーナがやっている店へ足を向けた。
広場を抜け、人通りの多い商店街へ入る。この辺りは、日常的に使う魔道具や薬を売っている屋台が多く立ち並んでおり、買い物客で賑わっていた。道行く人とぶつからないように注意しながらミーナの店へ着くと、リッカは店の扉を開いた。
チリンと、扉につけられていた小さな鈴が軽やかな音を立てる。リッカは開いた隙間から店の中を覗き込んだ。店の中は少し薄暗いが、中の様子が見えないほどではない。
(ミーナさん、いるかな?)
キョロキョロと見回すと、店の奥で何か作業をしていたらしい人物が顔を出した。
「おっ! 嬢ちゃんか。よく来たな」
就労斡旋所『プレースメントセンター』の所長ジャックス・ランバートだ。店の主であるミーナはと言えば、店の奥にいるのか姿が見えない。リッカはペコリと頭を下げる。
「ジャックスさん。こんにちは。今日は就労斡旋所の方はお休みですか?」
リッカがそう尋ねると、ジャックスは苦笑した。
「……まぁな。ミーナのやつが具合が悪いってんで、休みをもらってるんだ」
2
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる