上 下
102 / 396

新人魔女と突然の婚約者(6)

しおりを挟む
 エルナはただ静かに成り行きを見守っていた。

「あの、少しお時間を頂けないでしょうか? 突然すぎて、その……」

 リッカの言葉にリゼは静かに頷いた。

「もちろんだ。君の気持ちが何より大事だからな。しかし、私が伝えたことは心に留めておいてくれ」

 リッカはコクリと頷く。

「はい。分かりました」

 リッカは、考えがまとまらないままではあったが、ひとまず席を立つことにした。そして、エルナに向かって頭を下げた。

「エルナさん、色々とありがとうございました」

 リッカは心配そうな表情で見つめるエルナに丁寧に礼をして食堂を後にした。そんなリッカの後姿を、リゼとエルナはそれぞれ複雑な表情で見つめていた。

 食堂を出たリッカは、大きなため息をつく。

「はぁ……どうしよう……」

 いくら考えても、答えが出せない。そんな自分が情けなくて涙が出そうになる。リッカの中では、先ほどのエルナの言葉がずっと反芻していた。

『本当に私など些細なことなのですから』

 エルナの言葉が胸に刺さったまま、リッカは悶々と悩み続ける。

(わたしがもっと大人で色々と経験していたら、何か良い解決策が思い浮かんだかもしれないのに……)

 リッカは自分の年齢を恨めしく思う。悔しさで唇を噛み締めた。そして、また一つ大きくため息をつく。

「何や、辛気臭い顔して」

 その時突然足下から声がした。リッカは驚いて肩を振るわせる。

「ぐ、グリムさん!? いつからそこに?」

 そんなリッカに、グリムは呆れたように肩をすくめた。

「さっきや」

 よほど考え込んでいたらしい。全くグリムの気配を感じなかったリッカは、恥ずかしくなって頰を赤らめた。

「どないしたんや?」

 グリムの問いかけに、リッカはおずおずと口を開いた。

「あの……実は……」

 リゼとの婚姻のこと。そして、リゼとエルナの気持ちを確認してしまったことをグリムにかいつまんで話す。話を聞いたグリムは、納得したように頷いた。

「なるほどな。で、あんたはリゼラルブの事はイヤなんか?」
「え? いえ、そういうことじゃなくて……」

 リッカは戸惑いの表情で首を横に振る。グリムはそんなリッカにニヤッと笑った。

「ほんなら、結婚したらええやないか」
「えっ!?」

 思いがけない言葉にリッカは目を見開く。

「で、でも……リゼさんとエルナさんはお互いに好き同士ですし……」

 リッカの迷いに、グリムは「ふん」と鼻を鳴らした。

「そんなもん、当人たちが良いって言ってるんやから、放っておいたらいいんや」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

処理中です...