上 下
6 / 396

新人魔女は、のんびり森で暮らしたい!(6)

しおりを挟む
「わぁ! すごくきれい!」
「おおっ。立派だな」

 ジャックスもリッカの隣に立ってヒヤシンを見上げた。大男のジャックスでさえ見上げなければいけないほど、その花は大きかった。リッカはジャックス以上に顔を上に向け、真剣な眼差しでヒヤシンの花を観察していた。

 しばらく眺めた後、リッカはジャックスの方を見て言った。

「ジャックスさん、少し離れていてください」
「お? わかった」

 ジャックスは言われた通り距離を取る。ジャックスが離れたのを確認したリッカは、小さく息を吐いた。

 そして―――

 小さな手のひらを標的である巨大な花の根元へと向けると、呟くような声で魔法を唱えた。

「〈雷電ライディン〉」

 すると、掌に青白い光が灯った。その光は徐々に強くなっていく。そして、次の瞬間、轟音と共に激しい雷撃が放たれた。

 強烈な閃光に目が眩む。

 しばらくしてから、ジャックスはゆっくりと瞼を開いた。するとそこには、先程までの光景はなかった。地面は大きくえぐれ、土埃が立ち上っている。そして、その中心には、黒焦げになったヒヤシンの姿があった。

「……」

 ジャックスはその光景に絶句した。

 リッカは土埃で汚れたスカートの裾を、ぱんぱんっと叩いて払う。それからジャックスの方を見ると、申し訳なさそうに言った。

「あ、あの……。もしかして、ちょっとやり過ぎちゃいました?」
「いや……」

 ジャックスは、目の前で起きたことが信じられなかった。ジャックスは自分の頬をつねってみる。痛かった。夢ではないようだ。

(これで新人魔女だと……。とんでもないな)

 ジャックスは呆然としたままリッカを見た後、苦笑した。

「しっかし、驚いたな。まさかあんな強力な攻撃ができるなんて」
「あはは。ありがとうございます」
「さっきの魔法、詠唱破棄だったよな?」

 ジャックスは感心したように言った。詠唱破棄とは、術名を短く唱えることで、魔法の発動時間を短縮する技術だ。熟練の魔法使いでも難しいと言われている。ジャックスが知る限りでは、詠唱破棄が出来る魔法使いはリゼだけだった。しかし、リッカはそれを難なくやって見せた。

 リッカは照れ臭そうに頭を掻いて答える。

「はい。一応」
「一応って……嬢ちゃん、思ってたよりもすごい奴だな」
「いえ。まだまだです」

 リッカは謙遜して笑う。

(本当にこの子は……規格外だな。才能もだが……何より、努力家でもあるんだろうな。だからこその自信か……)

 ジャックスはリッカの評価を改めることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

戦いから帰ってきた騎士なら、愛人を持ってもいいとでも?

新野乃花(大舟)
恋愛
健気に、一途に、戦いに向かった騎士であるトリガーの事を待ち続けていたフローラル。彼女はトリガーの婚約者として、この上ないほどの思いを抱きながらその帰りを願っていた。そしてそんなある日の事、戦いを終えたトリガーはフローラルのもとに帰還する。その時、その隣に親密そうな関係の一人の女性を伴って…。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

処理中です...