ほんのとびら

田古みゆう

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ほんのとびらと、物知りふくろう

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 顔を上げたリスを、もん吉は目をパチクリとさせながら、見つめていました。 

 

「あの~、リスさん……」 

 

「子ザルくん、子ザルくん。私のことは、リスさんではなく、『リーさん』とでも呼んでおくれ。みんなから、そう、呼ばれているのでね」 

 

「うん。わかったよ。リーさん。それで、『ほんのとびら』って?」 

 

「『ほんのとびら』というのはね、きみが必要としている本に出会って、触れて、これまで知らなかった、新しい世界へ、一歩踏み出す手伝いをするところなんだ。そして私は、きみと本の懸け橋になる『本の案内人』なのさ」 

 

 もん吉には、さっぱり訳が分かりません。それに、もん吉は、本を読んだことがありません。本を読むより、木登りをすることのほうが、もん吉には楽しかったからです。 

 

「僕には必要ないよ。だって、僕は、本なんて読まないもの」 

 

「そうなのかい? それは残念。今、この森では『ほんのとびら』が必要とされているような気がしたのだがねぇ。私の気のせいだったようだ」 

 

 そう言うと、リーさんはニコッと笑いました。



 それから、車の中から自分用の椅子を取り出すと、腰を下ろして静かに読書を始めました。もん吉には、その姿が少し寂しそうに見えました。



 もん吉は、本を読まないと言ってしまったことを少し後悔しながら、寂しそうなリーさんを、ぼんやりと眺めていました。



 もん吉の頭の中では、「『ほんのとびら』が必要とされているような気がした」と言う、リーさんの言葉が繰り返し流れます。
 

 昔は森の動物たちが困っていると、物知りなふくろうがどこからかやって来て、話を聞いてくれたそうです。そして次の日には、悩みを解決するのにぴったりな本が、ふくろうから届いたというのです。でもそのふくろうは、もうずっと前から、森へ来ていないようでした。 

 

 もん吉は、必要としている人と本を出会わせる『ほんのとびら』と、悩みを解決するために本を届けるふくろうの話が、なんだか似ている様な気がしました。



 もしかしたら、本の案内人をしているリーさんなら、ふくろうのことを何か知っているかもしれません。



 ふくろうのことが分かれば、いつも困り顔のおじいさんに、少し笑顔が戻るかもしれないと思ったもん吉は、リーさんに聞いてみました。 



 「あのさ。リーさんは、困ったときに来てくれる、ふくろうさんのことを、何か知ってる?」 
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