2 / 8
p.2
しおりを挟む
しかし、どうして子どもがいるのだろうか。平日の昼日中、本当なら学校へ行っている時間だろうに。真由は辺りを見回してみたが、親らしき姿は見当たらなかった。
本来なら子どもが公園にいることは、決して悪いことではない。むしろ、微笑ましいことだろう。
しかし、今の真由には、少々都合が悪かった。職場のすぐそばには、ここよりも遊具や憩いの場が整った、公園らしい公園があるのだが、真由がそこを利用せず、この公園を至福の場所と定めたのには理由があった。
それは、この公園には利用者、特に子どもがいないからである。
真由にとっては、至福の時間である一服でも、世間一般には煙たがられ、特に、子供のそばでタバコを吸おうものなら、その親から、どんな言いがかりをつけられるか分からない。
だからこそ、あまり人気のないこの寂れた場所を選んでいるというのに、今日は、何故だか、先客がいるのだ。
仕方なく、指定席から少し離れた台座に座り、黒尽くめの先客が風下にならない事を確認してから、ポーチから、タバコとライターを取り出した。
カチリとライターを鳴らして、思いっきりタバコを吸う。目を閉じて、うちに溜まったモヤモヤとした思いと一緒に、長く息を吐き出した。ちょうどその時、背後から突然の声がして、思わず咽せる。
「体に悪いからやめなよ」
咽せながら振り返れば、そこには、全身黒尽くめのあの子が立っていた。大きな鍔のせいで、やはり表情は分からない。
「えっと、私のことかな?」
真由は、周りを見回して見たが、自分たち以外に、近くに人影はない。しかし、面識のないこの子の言葉が、本当に自分に向けられたものだろうかと、真由は不思議に思いながら、そっと声をかけてみた。
「それ以外に、誰がいるっていうの」
子供は、呆れたように肩をすくめて見せる。どうやら、本当に自分に声をかけているようだと、真由は認識したが、突然の出来事に唖然としてしまい、しばらく言葉が出てこなかった。
手の中のタバコが風に煽られ、ジジジッと焼けて、短くなっていく。
「タバコ消しなよ」
子供の言葉で我に帰った真由は、ほとんど吸っていないのに、小さくなってしまったタバコを、携帯灰皿の中で揉み消し、吸い殻をその中に押し込んだ。
大きな帽子の陰になってその顔は分からないのに、何故だか、じっとこちらを見つめてくる視線をヒシヒシと感じて、居た堪れなくなった真由は、スッと立ち上がると、黙ってその場を後にした。
本来なら子どもが公園にいることは、決して悪いことではない。むしろ、微笑ましいことだろう。
しかし、今の真由には、少々都合が悪かった。職場のすぐそばには、ここよりも遊具や憩いの場が整った、公園らしい公園があるのだが、真由がそこを利用せず、この公園を至福の場所と定めたのには理由があった。
それは、この公園には利用者、特に子どもがいないからである。
真由にとっては、至福の時間である一服でも、世間一般には煙たがられ、特に、子供のそばでタバコを吸おうものなら、その親から、どんな言いがかりをつけられるか分からない。
だからこそ、あまり人気のないこの寂れた場所を選んでいるというのに、今日は、何故だか、先客がいるのだ。
仕方なく、指定席から少し離れた台座に座り、黒尽くめの先客が風下にならない事を確認してから、ポーチから、タバコとライターを取り出した。
カチリとライターを鳴らして、思いっきりタバコを吸う。目を閉じて、うちに溜まったモヤモヤとした思いと一緒に、長く息を吐き出した。ちょうどその時、背後から突然の声がして、思わず咽せる。
「体に悪いからやめなよ」
咽せながら振り返れば、そこには、全身黒尽くめのあの子が立っていた。大きな鍔のせいで、やはり表情は分からない。
「えっと、私のことかな?」
真由は、周りを見回して見たが、自分たち以外に、近くに人影はない。しかし、面識のないこの子の言葉が、本当に自分に向けられたものだろうかと、真由は不思議に思いながら、そっと声をかけてみた。
「それ以外に、誰がいるっていうの」
子供は、呆れたように肩をすくめて見せる。どうやら、本当に自分に声をかけているようだと、真由は認識したが、突然の出来事に唖然としてしまい、しばらく言葉が出てこなかった。
手の中のタバコが風に煽られ、ジジジッと焼けて、短くなっていく。
「タバコ消しなよ」
子供の言葉で我に帰った真由は、ほとんど吸っていないのに、小さくなってしまったタバコを、携帯灰皿の中で揉み消し、吸い殻をその中に押し込んだ。
大きな帽子の陰になってその顔は分からないのに、何故だか、じっとこちらを見つめてくる視線をヒシヒシと感じて、居た堪れなくなった真由は、スッと立ち上がると、黙ってその場を後にした。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
レンタルフット始めます
田古みゆう
ライト文芸
俺の口からクククッと小さく溢れ出た笑い声は、間もなくして、ガハハハッと大きく下品な笑い声となって、室内に響き渡った。
「よく見ろ! 俺を馬鹿にした者どもめ。俺は、ここまで来たぞ! お前らが馬鹿にした俺の発明で、俺は、ここまで上り詰めたんだ。今日から俺は、勝ち組なんだ!」
グフフ、ガハハと気の向くままに笑っていると、ピロリンと間の抜けた音がし、レタリーの声が天井から聞こえてきた。
「おはようございます! 祐司。昨晩はよく眠れましたか?」
流暢に話す機械的な声に、俺は相手もいないのに、ニヤリと笑みを見せ、頷いた。
「ああ。レタリー。おはよう。よく眠れたよ。こんなに良く寝たのは、随分と久しぶりだ」
「そうですね。祐司は、発明と店舗経営がお忙しいですから。しかし、人間には、質の良い睡眠と、栄養バランスの取れた食事、それから、適度な運動が必要ですよ」
口うるさい嫁か母親のような物言いをするAI秘書に、苦笑いを浮かべながら、俺は、今日から勝ち組ライフを堪能する。
……はずが……?
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
【完結】愛していないと王子が言った
miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。
「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」
ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。
※合わない場合はそっ閉じお願いします。
※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる