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閑話 大公アルバート・エヴァン 1

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 システィーナ国の大公として、毎日を忙しく過ごしていた私には、溺愛する一人娘がいる。
 アンリという名前の3歳の娘だ。

 政略結婚で結ばれた、アンリの母親である妻は、アンリを出産してすぐに亡くなってしまった。生まれてすぐに決まった結婚相手であり、恋だとか愛だとか、そんな気持ちは全くなかったが、長い間一緒に過ごした、家族としての情は持っていた。
 そんな妻が亡くなったことは、ショックであったが、妻が残してくれた娘は、大切に育てていこうと決めた。

 妻が亡くなり、喪が明けると、私の後妻の座を狙って、女狐達が近付いてくるようになる。

 王国の貿易を牛耳る、国内有数の資産家である大公家は、例え後妻という立場でも魅力的に映るらしい。跡継ぎは可愛いアンリがいるし、無理に後妻を迎える気にはなれず、無理にでも近付いて来ようとする女狐達は、目障りでしかなかった。
 しかも私に取り入りたいが為に、アンリに近づく者も沢山いるようだ。まだ、こんな小さな娘を利用しようとする汚い女達。気付くと、既婚者であるにも関わらず、軽い女嫌いになっていた。
 

 貿易の仕事で国外に出ることの多い私は、そんなアンリが心配で、仕事の滞在先に一緒に連れて行くことが多くなった。寂しい思いもさせないで済むし、母親がいないのだから、私が側に付いていたい気持ちもあったのだ。

 そんな時だった。船で他国に移動している最中に、急にアンリの具合が悪くなる。
 船内に医師は常駐しているのだが、はっきりとした原因が分からず、近くの港に急遽停泊して、違う医師に診せることにした。
 しかし、その時には、すでにアンリは意識を失っており、顔も蒼白になってしまっていた。更に、港にいた医師にも原因が分からず、治療が出来ないと言われてしまう。
 慌てて治癒魔法が使える治療師か、ハイポーションを探しに行く護衛達。
 その時、たまたま通りかかった令嬢が治癒魔法が使えると申し出てくれたらしく、駆けつけてくれたのだが、それが私とソフィアとの初めての出会いであった。

 ソフィアの治癒魔法はかなり強力らしく、治癒魔法をかけてもらったアンリはすぐに回復する。
 一時は死をも覚悟していたので、回復したアンリを見て、私は涙が止まらなくなってしまっていた。
 そして、気付くとすでにソフィアの姿はなくなっていた。その場にいた医師によると、名前を聞こうとしたが、近くに住む者で、わざわざ名乗る程の者ではないと言って、帰ってしまったと言うのだ。

 あんな強力な治癒魔法をかけてもらったら、かなりの額を請求されてもおかしくはないのに。

 善意でここまでしてくれた令嬢に、是非とも感謝を伝えたいと思った私は、この国の国王陛下に文を出すことにした。あの雰囲気はどこかの貴族令嬢で、あんなにすごい治癒魔法の使い手なら、きっと国王陛下なら知っているだろうと考えたからだ。
 その予想は的中し、すぐに国王陛下から返事が来るのであった。


〝大公殿下のお探しの令嬢は、ソフィア・クラーク侯爵令嬢だと思われます。彼女は、信頼できる私の大切な友人の一人で、優秀な治癒魔法の使い手です。今は港町の別荘で生活しているようなので、ソフィア・クラーク侯爵令嬢で間違いないと思います。〟


 あの国の名門、クラーク侯爵家の令嬢か。アンリのことで精一杯だったから、あまり顔は覚えてないが、美しくて品のある感じだった。

 あの港町の別荘で生活しているのなら、大公家の別荘から近いかもしれない。近々、別荘に招待して、きちんと御礼をしよう。


 
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