上 下
93 / 133

初めての気持ち

しおりを挟む
 気付くと、大公様からも名前で呼ばれるようになっていた。

「ソフィア、今度の週末なんだが、遠乗りに出かけないか?」

 有難いが…。

「大公様。私は馬術は出来ませんので、どなたか別の方を誘って差し上げて下さいませ。」

「私はソフィアと行きたいから、君を誘っているのだ。私の馬に乗せるから大丈夫だ。当日迎えに行くから待っていてくれ。」

 最近、ハッキリ言うようになってきた大公様。友人として、慣れてきたってことかな。
 しかし。2人で一緒に馬に乗るの?しかも、すでに行くって決定なのね。

「ソフィア。お父様とデートなんでしょ。楽しんで来てね。」

 公女様、デートなんて誰に入れ知恵されたの?



 週末。

 私の気持ちとは関係なく、とてもいい天気だった。
 
 馬に乗るので、動きやすい乗馬服をメイド達は用意してくれていた。髪は邪魔にならないように、ハーフアップにしてスッキリとまとめてくれる。
 さすが、クラーク侯爵家のメイド達。

「お嬢様。帰りは少しくらい遅くなっても、大丈夫ですわ。」

「大公様と2人きりで楽しんで下さいませ。」

 この子達は!

「私はいいから、貴女達こそ、いい人ができたらすぐに知らせなさいね。」

 

 時間ピッタリに大公様は迎えに来てくれた。黒くて大きな、軍馬みたいな立派な馬に乗って来た大公様は、普通にカッコよかった。
 護衛もいる。何となくホッとする私。

「ソフィア、行こうか!」

 大公様に馬に乗せられる私。……恥ずかしいな。
 20分くらい走ってやって来たのは、森と湖のある静かな場所だった。いつも海ばかり見ていたから、偶には静かな森も新鮮で良いのかもね。

 護衛は気を遣って、少し離れた場所にいるようだ。

 湖の畔にシートを敷き、お弁当を食べて、のんびりとおしゃべりをする。

「ソフィア。何だか雲行きが怪しいから、そろそろ帰ろうか。」

「そうですわね。」

 確かに、少し雲で暗くなってきた気がする。
 馬を走らせている途中、パラパラと雨が降り出した。遠くからはゴロゴロと雷の音もする。

「ソフィア!うちのホテルが近いから、雨宿りしよう!」


「はい。」

 
 あの高級リゾートホテルに雨宿りにきた私達。すぐに、スイートルームに案内され、温かいお茶を出してもらう。

「ソフィア。濡れた髪の君も美しいな……。」

 そんなことを言われても、何と返事してよいのか分からない。そこまでの恋愛経験はないからね。

「お恥ずかしいですわ。」

 何となく気まずい私は、大公様の目を見ることが出来なかった。

「失礼致します。お着替えとタオルをお持ちしました。」

「…ああ。後は私がやるから、みんな下がってくれ。」

 えっ?どう言うこと。メイドさん達があれ?って顔している。

「下がってくれと言っている。」

「「失礼しました!」」

 もしかして、この広い部屋に2人きり?

「ソフィア、私が髪を拭いてやろう。」

 そ、それは、ダメなんじゃ。

「大公様にそこまでして頂くのは、恐れ多いですわ。」

「気にするな。私はソフィアには何でもしてやりたいと思ってしまうのだ。」

「自分でやりますので、大丈夫ですわ。」

 家族でも恋人でもない人に、そこまでやってもらうのは危険だ。

「私がやりたいのだ。…こんな気持ちは初めてだな。アンリの母である妻とは、物心つく前から決まっていた政略結婚だから、特別に何かを思うことはなかった。結婚なんてそんなものだと思ったし、付き合いは長かったから情はそれなりにあったが…。」

 大公様の目が……。
 やばい!私の心の非常ベルが鳴り出した。

「でも、ソフィアのことは何でも知りたいし、側に置いておきたい。誰にも取られたくないと思ってしまう。アンリばかり見てないで、私のことも見て欲しいとまで思ってしまうのだ。」

 大公様が私の所に…。どうしよう!

「私はソフィアを愛している。」

 その言葉を言われた直後、私は大公様の腕の中にいた。
 
「大公様、困ります…。」

「ソフィア、許せ。もう止められない…。」

 強引に抱き抱えられた私は、そのままベッドルームに連れて行かれた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?

真理亜
恋愛
「アリン! 貴様! サーシャを階段から突き落としたと言うのは本当か!?」王太子である婚約者のカインからそう詰問された公爵令嬢のアリンは「えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?」とサラッと答えた。その答えにカインは呆然とするが、やがてカインの取り巻き連中の婚約者達も揃ってサーシャを糾弾し始めたことにより、サーシャの本性が暴かれるのだった。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

たとえ番でないとしても

豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」 「違います!」 私は叫ばずにはいられませんでした。 「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」 ──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。 ※1/4、短編→長編に変更しました。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

【完結】もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です

堀 和三盆
恋愛
「それじゃあ、ちょっと番に会いに行ってくるから。ええと帰りは……7日後、かな…」  申し訳なさそうに眉を下げながら。  でも、どこかいそいそと浮足立った様子でそう言ってくる夫に対し、 「行ってらっしゃい、気を付けて。番さんによろしくね!」  別にどうってことがないような顔をして。そんな夫を元気に送り出すアナリーズ。  獣人であるアナリーズの夫――ジョイが魂の伴侶とも言える番に出会ってしまった以上、この先もアナリーズと夫婦関係を続けるためには、彼がある程度の時間を番の女性と共に過ごす必要があるのだ。 『別に性的な接触は必要ないし、獣人としての本能を抑えるために、番と二人で一定時間楽しく過ごすだけ』 『だから浮気とは違うし、この先も夫婦としてやっていくためにはどうしても必要なこと』  ――そんな説明を受けてからもうずいぶんと経つ。  だから夫のジョイは一カ月に一度、仕事ついでに番の女性と会うために出かけるのだ……妻であるアナリーズをこの家に残して。  夫であるジョイを愛しているから。  必ず自分の元へと帰ってきて欲しいから。  アナリーズはそれを受け入れて、今日も番の元へと向かう夫を送り出す。  顔には飛び切りの笑顔を張り付けて。  夫の背中を見送る度に、自分の内側がズタズタに引き裂かれていく痛みには気付かぬふりをして――――――。 

処理中です...