記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

閑話 マーティン侯爵 14

　ワインを飲んで苦しみ、倒れるソフィア嬢を見て、正気を失うかと思った。

「…ソフィア嬢！おい！その給仕と、キャンベル公爵令嬢を捕らえろ！医師を呼んでくれ！」

　近くにいた側近達がすぐに2人を取り押さえて連行する。

「ソフィー！！ソフィー、しっかりしろ。すぐに治してもらうからな。」

「…ソフィー！なんて事だ。すぐに別室に運びましょう。」

　顔色を悪くしたエドワーズ公爵と、クラーク卿が駆けつける。公爵は、大切そうにソフィア嬢を抱き抱えて連れて行った。


　
　キャンベル公爵令嬢は、本当は自分が毒入りのワインを飲んで、ソフィア嬢に罪を被せるつもりだったようだ。
　しかし、その毒入りワインをソフィア嬢が飲み干してしまったことで、計画は失敗。ソフィア嬢に命令されたと証言させるように買収していた、給仕は計画が狂ったことで、すべて正直に証言した。

　キャンベル公爵家は、あっさり娘を捨てた。恐らく、この計画にはキャンベル公爵達も関わっていると思われるが、ハッキリと証拠が出てこない。毒の手配などを、キャンベル公爵令嬢付きの従者にさせていたようで、令嬢が1人で計画してやったことになっていた。
　しかし毒殺されそうになったのは、エドワーズ公爵の婚約者のクラーク侯爵令嬢だ。国王派と中立派の筆頭である家門が被害に遭ったので、裁判ではそれぞれの派閥の貴族達が黙っていなかった。罪に問われたのはキャンベル公爵令嬢1人だが、監督責任として、キャンベル公爵家は取り潰しになったのだ。
　正直、降爵くらいかと思っていたのだが、取り潰しとは…。エドワーズ公爵家とクラーク侯爵家の家門の強さと、陛下の意向が反映されたようだ。

　裁判は終わったが、肝心のソフィア嬢は目覚めなかった。
　エドワーズ公爵が毎日付きっきりで看病しているようだ。
　本当に愛されているのだな…。

　目覚めないソフィア嬢の為に、神殿の治療院から治療師達が派遣されて治癒魔法をかけているようだが、毒が強いらしく、目覚める兆候が見られなかった。
　医師達はいつ目覚めるのか分からないと、匙を投げた。もしかしたら、このままずっと目覚めないかもしれないと。
　エドワーズ公爵も憔悴しているようだった。

　そして、いつ目覚めるか分からないソフィア嬢とエドワーズ公爵の婚約は解消されたようだった。
　最後まで、エドワーズ公爵は解消はしないと言っていたようだが、公爵という身分の方を、この先いつになるのか分からない状態で、待たせることは出来ないと、クラーク侯爵家からの強い申し出だったらしい。


「イーサンが落ち込んで、引きこもって、ひたすら執務をこなしているようだ。」

「誰だって落ち込むと思います。私だって辛いのです。」

「あの女の家が潰れたのは良かったが。クラーク嬢には、本当に悪かったな。」

「…陛下。あの女だけでなく、家族も許せないのです。もうすぐ、刑が執行されますよね？」

「ふっ！暗部の人間が暇そうにしているぞ。休暇をやるから、一緒に遊んできたらどうだ？」

「ありがとうございます。」