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連行される私

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 何でここに公爵様が?

 しかもこんな時間に。ムカつく弟のアーサーさんが教えた?
 軽くパニック状態の私は、言葉が出てこなかった。

「…………。」

「ダイアナ。驚かせて申し訳ない。…ずっと会いたかった。愚弟が君に失礼な態度をとって、傷つけたことを謝罪したいと思う。少し話がしたいのだが、いいか?」

 これって、断れないやつ。

「はい。」

 何となく顔から血の気が引く。こんな身分の高い公爵様が、平民の娘を迎えにナイトマーケットに来たとか、笑えないから!

「ありがとう。じゃあ、2人になれる所に行こう。」

 公爵様は優しく微笑むと、私の腰を抱き歩き始める。気付くと周りには、公爵様の護衛騎士らしき人が数名いて、私達を囲んで歩いていた。
 コレ、連行されているみたいじゃん。誰か知り合いに見られてないよね?

 人通りの少ない脇道に入って行くと、公爵家の物と思われる立派な馬車が停めてある。馬車の中で話すのかな?

「ダイアナ、とりあえず乗ってくれ。」

「はい。」

 乗り込むと、すぐ走り出す馬車。あれっ?ちょっとー!

「公爵様、馬車の中で話すのでは?」

「近くに別邸があるんだ。明日は休みだろう?帰りは送るから、別邸でゆっくり話がしたいのだが、いいか?」

 嫌と言える訳ないよね…。しかも、明日は休みだとか、しっかり調べられているみたいだし。
 はぁー。金持ち公爵家は、こんな賑やかな街にも別邸をお持ちなのね。

「…分かりました。では少しだけお邪魔します。」

 今気づいたけど、隣にピッタリと座った公爵様は、また私の腰を抱いている。沢山食べた後だから、あまりお腹周りは触れないで欲しいのですけどー。

「公爵様、少し距離が近いような気がするのですが。」

「馬車が揺れたら危ないだろう?だから、我慢してくれ。」

 公爵様の笑顔が怖いような気がする。

「…はい。」

 10分くらい馬車に揺られると、大きくてお洒落な雰囲気の邸に到着する。別邸の家令とメイド数人に出迎えられ、そのまま大切な話があるからと、すぐに部屋に案内される私。すると、家令が夜食とワインを持って来て、すぐに下がっていった。
 メイドも従者もいない部屋に2人っきり…。気不味いし、恋人同士でもない未婚の男女が、2人だけで部屋にいるのってダメだったような。

 ふと、公爵様が私をじっと私を見ていることに気付く。あまり見つめないでー!イケメンに見られるのは、キツいの!
 あれっ?公爵様は仕事が忙しいのかな?何だか少しやつれたような…。

 公爵様は、スッと椅子から立ち上がると、座る私の前に跪き、両手で私の手を握る。なんでー?

「ダイアナ、愚弟が申し訳なかった。そして、君を大切に守るつもりでいたのに、ちゃんと守れなかった私を許して欲しい。君が邸から出て行った後、どこへ行ったのか、無事でいるのかも分からず、私は生きた心地がしなかった。私にはダイアナだけなんだ。…愛している。私と婚約してくれないか?邸にも戻って来て欲しい。」

 えっと…。私、謝罪と告白を同時にされている?しかも、邸に戻れって命令?
 確か、自分より身分が上の人に婚約を申し込まれたら、よっぽどの事情がないかぎり断れないんだよね?でも、私は今は平民で公爵様とは、あまりにも身分が違い過ぎる。これ、ヤバいんじゃない?

 前世なら、イケメンで金持ちの公爵様みたいな人に告白されたら、何も考えずにオッケーしてただろうね。性格も真面目で優しい人だし。
 しかし、ここは身分制度のある国だ。平民が奥さんなんて、公爵家が後ろ指を指されるよ。社交界で身分を馬鹿にされるのも嫌だし、私は平凡で自由な生活が好きなのだから。

「……ダイアナ?」

「…公爵様。弟様のことは、もう終わったことですので、謝罪は必要ありませんわ。こちらこそ黙って出て行き、ご心配をおかけ致しまして、大変申し訳ありませんでした。…私は平凡な平民です。身分違いの恋をするのは、私には耐えられませんし、公爵様の負担になるでしょう。ですから、私の事はどうぞお忘れ下さい。素敵な公爵様には、もっとふさわしい御令嬢がいると思いますわ。」

 これでいいよね?今の私は貴族と深く関わってはいけないし、今の生活が好きなの!

「ダイアナが心配しているのは、私との身分差か?」

 あれっ?公爵様の反応が…

「身分もですし、私は今の生活が自分には合っているのです。」

「治療師の仕事が好きなのだな?」

「……はい。」

「分かった。その問題なら気にしなくて大丈夫だ!」

 あれー?



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