記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

嫉妬？

　私は前世と今世で、生まれて初めて同性から嫉妬されるという経験をした。

　それはある日の昼休みのこと。
　アマリアさんや、同じ治療師仲間の姉さんやおばちゃん達と世間話をしていた時のことだった。

「ねぇ、ちょっと！貴女が治療師をしているダイアナさん？話がしたいから、少し来てくれる？」

　この可愛らしい子は、確か治療院の受付嬢をしている子だっけ？どこの世界でも受付嬢は可愛いって決まってるのねー。
　しかし、いつもニコニコして可愛くって、人懐っこいイメージのコだったのに、何だか違くない？もしかして、これが本性か？ソフィアさんは美少女だから、敵認定されたか？

「ここでは出来ない話ですか？私は人見知りなので、友人ではない方とは、2人で話すのは難しいのです。要件はここで話して貰えますか？」

　人見知りではないけど、この二重人格みたいな受付嬢とは、2人きりになると、碌なことがなさそうだと本能が言っている。

「はあ？少し話すくらい平気でしょ？ちょっと来なさいよ！」

　口調が怖くなってきた。しょうがないから、少しだけ行くか！…あれっ？アマリアさん達が意味深に微笑んでいる。何か企んでる？

　受付嬢と人気の無い所に行く。

「ねぇ！いい加減、オリバーさんに付き纏うのやめてくれる？彼、迷惑みたいよ！私はずっとオリバーさんと仲良しなんだから。分かったわね？」

　ふーん。嘘っぽいけど、こういう女は面倒だからなぁ。

「分かりました。」

「えっ？」

　私があっさりと返事したことにビックリしたようだ。

「分かりました。気を付けます。では、お話はそれだけですか？」

「何なのよ！もしかして私の事を馬鹿にしてる？ちょっと可愛いからって、調子に乗らないで！」

　えっ？逆ギレかい！
　ニヤっと不気味に笑った受付嬢は、突然、自分の手で自分の頬をバシッと思いっきり殴る。あらら、頬が赤く腫れているわ。私が驚いていると…

「きゃあ！酷いわ。ダイアナさんが私に暴力を振るうなんて…。」

　大きな声を上げる受付嬢。あー、そういう人なのね。
　人気の無い場所だから、誰かがすぐに駆けつけてくるわけでもなさそうなのに、わざわざ演技しなくてもねぇ。
　しかも治療師相手にそんなことしなくても。

　私はこの女を敵認定する事にした。

　周りを何となく見渡すと、誰もいない…と思う。ふん！この女、まじムカつく！

　私は思いっきり、受付嬢の顔をビンタした。バシッ・バシッ・バシッ。力を込めて、両手で交互に両頬を殴る。反撃されるとは思ってなかったのか、無表情で殴りつける私に驚いたのか、受付嬢は声が出ないようだった。
　思いっきり殴ったので、可愛い顔がひどい事になっていた。ふん！女の子を殴るなんてしたくなかったけど、自分で頬を殴るほど殴られたかったみたいだから、いいよね。

「あらあら、可愛い顔が残念な事になったわね。」

「ひっ！」

　でも、怒りは収まらない。最後に思いっきりバシーンと殴りつける。受付嬢はよろけて、倒れそうになったので、ガシッと肩を掴んであげる私。そして耳元で低い声で囁く。

「オリバーさんが好きならどうぞ！…次にこんなくだらないことで呼びつけたら、もっと可愛がってあげるから覚悟してね。」

　顔が腫れて、口から出血してしまっているようだ。さすがにこのままにしてはおけないので、得意の治癒魔法で受付嬢の頬と口を一瞬で治す。魔力が強い私は治癒魔法も強いらしい。
　受付嬢は驚いているようで目を見開いたまま、声が出ないようだった。

　私も社会の荒波に揉まれて、すっかり悪女の仲間入りね。
　いや。悪意には悪意を返しただけ！この女、私の嫌いなタイプだし。

　驚いて動けなくなっている受付嬢を置いて、アマリアさん達の所に戻ろうとすると……。なんと、アマリアさん達は隠れて見ていた。げっ！私の悪女姿が見られたか。
　しかし、みんな私を見て笑っていた。

「ダイアナ！面白かったわ！あの女は、ああやって気に入らない子に嫌がらせをして、異性の前では可愛い振りをするから、同性からすごく嫌われていたのよ。ふふっ。」

「申し訳ありません。私、ああいう女は許せないので、つい悪女になってしまいました。」

「良くやったわ！」

　このことがきっかけで、みんなと更に仲良くなれた気がする。見かけによらず、サバサバして気が強い私は、アマリアさん達から見て面白いらしい。

　しかし、アマリアさん達は、更に凄い人達だった。