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転職

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 私は今、教会に来ている。

 馬車で駅まで送ってもらったら、あのアンナさんを紹介してくれた教会の近くの駅だったのだ。ラッキー!困ったら訪ねて来てって、あのシスターが言ってたよね。遠慮なくお世話になろう。
 図々しく生きることに決めた私。

 シスターは、突然私が来たので驚いていたが、優しく迎えてくれた。
 事情を話して公爵家を出てきたことを話すと、一瞬、殺気が漂ったように怖かった気がしたが、見なかったことにしよう。そして、治癒魔法が使えるならと、神殿所属の治療院を勧めてくれた。神殿所属なら、貴族でも下手なことは出来ないらしいし、治療師なら給与が高いから、生活するのにいいだろうと。
 そして、このままここにいると、公爵様が探しに来るかもしれないからと、紹介状を書いてくれた後、裏口からすぐに馬車に乗せて出発させてくれた。本当はアンナさん家に顔を出したいけど、今日は危険かもしれないから、また今度にしよう。

 馬車で隣町の教会に行き、一泊した後、隣町から列車に乗って神殿まで向かうことになる。一応、フード着きマントを着用した方がいいよね。

 隣町の教会のシスターも親切にしてくれ、神殿の最寄り駅や、駅から神殿までの道を丁寧に教えてくれたので、スムーズに行く事が出来た。
 シスター達には落ち着いたら、手紙や寄付金を送ろう。困った女性の駆け込み寺みたいな感じで、私みたいな家なき子に親切にしてくれるから、本当にありがたいよね。

 神殿の最寄り駅はとても賑わっていて、大きな街のようだった。巡礼者が沢山来るらしいから、店も宿も沢山あって、活気のある街のようだ。休みの日は、楽しく街歩き出来そう。スリに気をつけないとね!

 神殿では、シスターからの紹介状があったからか、すんなりと採用してくれることになる。やったー!
 しばらくは見習い治療師として、先輩に指導してもらいながら働くらしい。
 ここでの生活に慣れるまでは、寮に住まわせてもらうことになった。


 そして、今日から治療師として働く私。この治療師の制服が今の私にピッタリだった。神殿所属らしく、頭にはベールをかぶるのだが、ベールは顔も覆っている。前が見えるように顔の方は薄い布だが。私の特徴的な髪と瞳を隠してくれる、素晴らしいベールだと思う。全身白の、いかにも神殿って感じの制服だった。

 私を指導してくれるのは、アマリアさんというキツめ美人のお姉さんだった。綺麗なブロンドの髪に青い瞳で、パッと見て、この人も貴族出身に見える容姿だった。

「アマリアよ。よろしくね!貴女も訳あり令嬢かしら?慣れるまでは大変だろうけど、そこまで悪い人はいないから、何とかなると思うわ。」

 この人も訳あり令嬢なのか?割とハッキリした性格なのかな?

「ダイアナと申します。訳あり元令嬢です。よろしくお願いします。」

「…正直でよろしいわ!じゃあ、仕事場に行くわよ。」

 アマリアさんはそう言うと、手に持っていたベールをぐいっと頭にかぶせて歩き出す。男前な姉さんらしい。

「はい。ご指導よろしくお願いします!」

 治療はそれぞれ個室で行うらしく、ドアの所には神殿所属の聖騎士が警備で立っていてくれる。患者さんから治療に文句をつけられたり、貴族が脅してきたりだとか、問題があるとすぐに駆けつけてくれるらしい。だから、割と安心して働けると言っていた。
 個室に案内されて来た患者さんに、症状を聞いて治癒魔法をかけていく。アマリアさんは、さすが新人教育を任されるだけあって、早くて正確にこなしていた。しかも治癒魔法は高額なだけあって、患者さんは裕福そうな方ばかり。チップを置いていく、羽振りのいい人も珍しくなかった。

「チップは自分で頂いていいことになっているの。治癒魔法使いは貴重だから、待遇がいいのよ。ただ、お金の管理に気を付けなさい。治療師は小金を持っているのはみんな知っているからね。銀行に預けた方がいいわね。寮の部屋の鍵は、忘れずに閉めるのよ!」

 銀行あるのか!列車といい、銀行といい、少し昔のヨーロッパみたいなところがある世界ね。

 割と面倒見のよいお姉さんが先輩で良かったわ。



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