記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

閑話 マーティン侯爵 4

　ソフィア嬢はクラーク侯爵家に戻ってなかった。恐らく、まだうちの侯爵家のタウンハウスにいるだろうと思い、急いでタウンハウスに向かう私。そして、白い結婚が認められたからと、ソフィア嬢を迎えに来た、義兄のクラーク卿と母の侯爵夫人。

　急ぎで向かった為、特に先触れは出さずに向かったが……。

「旦那様？お帰りになられたのですか？」

　執事がなぜか驚いている。今まで全く帰らなかった私が、急に帰って来たから驚いているのだろうと思ったが。

「ああ。すまないが、今すぐソフィア嬢に会いたいのだが、すぐに呼んでくれるか？」

　しかし、なぜが顔色を悪くする執事。

「…それが、…その。実は奥様が行方不明になられまして、今、使用人で手分けをして探している所なのです。」

　何を言ってるんだ？

「何ですって？ソフィーが行方不明？どうしてそんな大切なことを、私達に知らせなかったのです？将軍閣下、貴方は使用人の躾も出来てないの？一体、ソフィーはこの邸で何があったのか、私達に分かるように説明してちょうだい！」

「義母上、少し落ち着きましょう。きっと、将軍閣下なら何か知っているでしょうから、ソフィーとの間に何があって、どうして行方不明になっているのか、彼にしっかり教えてもらいましょう。」

　娘が行方不明と聞いて、取り乱す侯爵夫人を宥めるクラーク卿。しかし、クラーク卿の言葉はとても棘がある。
　しかし、彼女ときちんと向き合って来なかった私は何も答えられることは無く……。

「将軍閣下。何も知らないなら、ハッキリとそう言って下さればいいのです。貴方はソフィーには全く興味が無かったから、今まで放置していたのでしょう？じゃなければ、ソフィーが白い結婚で婚姻無効なんてする訳ないですからね。何て酷い人だ。こっちは貴方を守る為に、大切なソフィーを渡したのに！」
「おい！ソフィーの専属のメイドとか、最近のソフィーの様子をよく見ていた使用人を呼んでくれ！」

　クラーク卿が、ここまで言うほどのことをしてしまったのだと今更気付く。

「…クラーク卿の言うようにしろ。メイド長も今すぐ呼んでこい。」

「承知しました。」

　すぐにメイド長と、ソフィア嬢専属の若いメイドが出てくる。

「「旦那様、お帰りなさいませ。」」

「最近のソフィア嬢の様子を聞きたい。知っている事があれば何でも教えてくれ！」

　メイド長は、感情が分かりにくい程の無表情だ。そして、若いメイドは不安そうな表情をしている。

「最近の奥様は、以前と若干変わられたような気がしました。前は外出することはありませんでしたが、最近はよく外出されていたようです。雰囲気も変わられましたし。…もしかしたら恋人ができて、駆け落ちでもしたのかもしれないですわ。婚姻当初から奥様を見てきましたが、旦那様には全く興味は無さそうでしたから。」

　駆け落ち？彼女はそんな人間ではないはずだ。しかし…、私が彼女を放っておいたと言われれば…

「はあー。この失礼な女が、まだメイド長をしていたのね…。うちのソフィーはそんな事はしないわ。メイド長、言動に注意しなさい。まあ、メイド長も執事もレベルが低いから、ソフィーがいなくなったことを、私達に知らせて来なかったのでしょうけど！本当に酷い邸でソフィーは暮らしていたのね。」

「…あの、発言よろしいでしょうか？」

　不安そうな若いメイドは何か知っているのか？しかし、メイド長は若いメイドに鋭い視線を向けている。

「ああ。構わない。」

「奥様の外出の付き添いをしていましたが、行き先は、病院と教会でした。最近はよく教会に行って祈りを捧げて、教会に寄付をしたりしていました。ですから恋人だとか、不貞は絶対に有り得ません。むしろ、何か思い悩んでいるようでした。それと…、奥様には申し訳ないのですが、奥様の日記を偶然見つけましたので、何か分かることが書いてあるかもしれないと思いまして、一応、お持ちしました。」

　不貞はないと聞いて安心するが、ソフィア嬢の日記があるのか！
　メイドが差し出した日記を手に取る。

　その日記に書かれていた内容は、余りにも酷いものであった。