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閑話 マーティン侯爵 1
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王宮の執務室で書類をチェックしている。
「将軍閣下。国王陛下がお呼びです。」
この忙しい時に陛下は何の用だ?
陛下とは言っても、まだ陛下が王子だった頃に、一緒に戦地で戦った戦友みたいなものだから、呼ばれても別に何ともないのだが。
急いで陛下の所に向かう。
「陛下、お呼びですか?」
…何だか、いつもと雰囲気が違う。
「将軍!聞きたいことがあるのだが。」
「何です?忙しいのですがね。」
「将軍の妻は、公式な場に一度も姿を見せないが、元気なのか?」
「彼女は体が弱いので、邸で療養してますが。」
「本当か?」
「…はい。」
陛下とは友人でもあるから分かる。怒ってるな、コレは!
「…さっき、神官が来てコレを置いて行った。どういうことだ?」
「はあ。それは何です?」
陛下が手渡して来た書類を見るとそこに書いてあったのは…
「白い結婚の証明と婚姻の無効って……。」
「戦場の死神と言われて恐れられていた将軍が、白い結婚って!くっ、くっ…。お前が捨てられたってことだ。今まで何をしていたんだ?将軍の妻は深窓の令嬢とか言われてて、実家で大切にされていたよな?クラーク侯爵が、お前を守る為にしょうがなく婚姻を進めたのだろう?」
目の前が真っ暗になった。どうして…?
「仕事は出来るし、部下にも慕われているのにな。なぜか奥方の事になるとダメな男だったことは知っていたが…。最後にちゃんと会って謝って来たらどうだ?クラーク侯爵を敵には回したくないだろう。」
「最後……?……陛下、今日は帰らせて頂きます。失礼。」
クラーク侯爵家のソフィア嬢とは、お茶会で何度か見かけた事がある。綺麗な蜂蜜色の髪にパッチリした緑の目。整った顔立ちの美少女で、優しく穏やかな性格で令息にとても人気のあった令嬢だった。そして私自身も、彼女を見て心を奪われた中の1人だった。数年間まともに顔を合わせてないが、きっと今は更に美しくなっていることだろう。
しかし、当時の私は声を掛けることすら出来ず、遠くから、ただ見つめることしか出来なかった。
そんな私の気持ちに気付いたであろう両親が、何度か彼女と私の婚約を打診したらしい。しかし彼女の両親は、体が弱い彼女には無理に婚約者は要らないという考えだったようで、断られたようである。
18歳の時に、両親が馬車事故で亡くなる。悲しむ暇もない程、急な爵位の引き継ぎで忙しい私。すると父の弟のベイカー子爵が、後見人になろうだとか、ベイカー子爵の娘との結婚話だとかを持ってくるようになる。
父と折り合いが悪く、いい噂の聞かないベイカー子爵には警戒していたが、両親を亡くした途端に、理由をつけてはうちの邸に入り浸るようになり、迷惑だった。恐らく、うちの侯爵家を乗っ取りたいのだろう。爵位を引き継いだばかりで、まだ余裕のない時に……。
そんな時に手を差し伸べてくれたのが、父の親友であったクラーク侯爵だった。
クラーク侯爵は、ソフィア嬢との婚姻という形で、私の後見人になることで、叔父のベイカー子爵から私と侯爵家を守ろうとしてくれたのだ。
ベイカー子爵は、さすがにクラーク侯爵を敵にはできなかったようで、婚姻の話が出たあたりから、全く関わって来なくなった。
しかし、その時に隣国が戦争を企てていると言う情報が入る。うちの侯爵家は騎士の家門なので、こんな時はすぐに戦の準備をしないといけない。
ソフィア嬢ともうすぐ婚姻なのに…。しかし、今は家門の繁栄の為にも、戦で功績を挙げなければ。ソフィア嬢に会えないのは非常に残念だが、国の有事なのだ。
結婚式の予定日よりも先に戦地に向かう事になった私は、ソフィア嬢に手紙を書いて行くことにした。
『寂しい思いをさせることを許して欲しい。こんな形での結婚だが、君と結婚できることを、私はとても嬉しく思っている。必ず生きて戻るから、待っていて欲しい。』
彼女に手紙を渡して欲しいと、メイド長に依頼して、私は戦地に旅立つのであった。
「将軍閣下。国王陛下がお呼びです。」
この忙しい時に陛下は何の用だ?
陛下とは言っても、まだ陛下が王子だった頃に、一緒に戦地で戦った戦友みたいなものだから、呼ばれても別に何ともないのだが。
急いで陛下の所に向かう。
「陛下、お呼びですか?」
…何だか、いつもと雰囲気が違う。
「将軍!聞きたいことがあるのだが。」
「何です?忙しいのですがね。」
「将軍の妻は、公式な場に一度も姿を見せないが、元気なのか?」
「彼女は体が弱いので、邸で療養してますが。」
「本当か?」
「…はい。」
陛下とは友人でもあるから分かる。怒ってるな、コレは!
「…さっき、神官が来てコレを置いて行った。どういうことだ?」
「はあ。それは何です?」
陛下が手渡して来た書類を見るとそこに書いてあったのは…
「白い結婚の証明と婚姻の無効って……。」
「戦場の死神と言われて恐れられていた将軍が、白い結婚って!くっ、くっ…。お前が捨てられたってことだ。今まで何をしていたんだ?将軍の妻は深窓の令嬢とか言われてて、実家で大切にされていたよな?クラーク侯爵が、お前を守る為にしょうがなく婚姻を進めたのだろう?」
目の前が真っ暗になった。どうして…?
「仕事は出来るし、部下にも慕われているのにな。なぜか奥方の事になるとダメな男だったことは知っていたが…。最後にちゃんと会って謝って来たらどうだ?クラーク侯爵を敵には回したくないだろう。」
「最後……?……陛下、今日は帰らせて頂きます。失礼。」
クラーク侯爵家のソフィア嬢とは、お茶会で何度か見かけた事がある。綺麗な蜂蜜色の髪にパッチリした緑の目。整った顔立ちの美少女で、優しく穏やかな性格で令息にとても人気のあった令嬢だった。そして私自身も、彼女を見て心を奪われた中の1人だった。数年間まともに顔を合わせてないが、きっと今は更に美しくなっていることだろう。
しかし、当時の私は声を掛けることすら出来ず、遠くから、ただ見つめることしか出来なかった。
そんな私の気持ちに気付いたであろう両親が、何度か彼女と私の婚約を打診したらしい。しかし彼女の両親は、体が弱い彼女には無理に婚約者は要らないという考えだったようで、断られたようである。
18歳の時に、両親が馬車事故で亡くなる。悲しむ暇もない程、急な爵位の引き継ぎで忙しい私。すると父の弟のベイカー子爵が、後見人になろうだとか、ベイカー子爵の娘との結婚話だとかを持ってくるようになる。
父と折り合いが悪く、いい噂の聞かないベイカー子爵には警戒していたが、両親を亡くした途端に、理由をつけてはうちの邸に入り浸るようになり、迷惑だった。恐らく、うちの侯爵家を乗っ取りたいのだろう。爵位を引き継いだばかりで、まだ余裕のない時に……。
そんな時に手を差し伸べてくれたのが、父の親友であったクラーク侯爵だった。
クラーク侯爵は、ソフィア嬢との婚姻という形で、私の後見人になることで、叔父のベイカー子爵から私と侯爵家を守ろうとしてくれたのだ。
ベイカー子爵は、さすがにクラーク侯爵を敵にはできなかったようで、婚姻の話が出たあたりから、全く関わって来なくなった。
しかし、その時に隣国が戦争を企てていると言う情報が入る。うちの侯爵家は騎士の家門なので、こんな時はすぐに戦の準備をしないといけない。
ソフィア嬢ともうすぐ婚姻なのに…。しかし、今は家門の繁栄の為にも、戦で功績を挙げなければ。ソフィア嬢に会えないのは非常に残念だが、国の有事なのだ。
結婚式の予定日よりも先に戦地に向かう事になった私は、ソフィア嬢に手紙を書いて行くことにした。
『寂しい思いをさせることを許して欲しい。こんな形での結婚だが、君と結婚できることを、私はとても嬉しく思っている。必ず生きて戻るから、待っていて欲しい。』
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