記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

旅立ち

　ベスとトムと別れて教会の中に来た私。

　シスターはすぐに私を別室に案内してくれた。中には白い服を来た神官らしき男性がいる。

「お嬢様、白い結婚を神官が判定しますね。」

「はい。よろしくお願い致します。」

　神官は水晶玉みたいなものを私の前に出す。

「手をかざしてみてください。」

　言われた通り手をかざす。すると、水晶玉は白い光を放つ。

「白い結婚だと認められました。離縁を認める書類を国王陛下に提出致します。こちらにサインをお願い致します。」

　神官に促され、サインをする私。

「ソフィア・マーティン様？もしかして、マーティン将軍の奥様ですか？」

　この神官様は、私の知らない旦那様を知っているらしい。

「私は会ったことはないのですが、そうだと思われます。」

「…会ったことがない？」

　驚く神官様。

「はい。忙しい方なのでしょう。私自身も訳あって記憶を無くしておりますので、顔も分かりませんわ。」

「記憶をなくされた？」

「はい。だから、離縁したいと思いましたの。」

「…そうですか。」

「神官様、お嬢様の魔法の適正も調べてください。お嬢様は記憶を失っておりますので、魔法に適正があるのか分からないそうですので。」

「はい。それではまた手をかざしてみてください。」

　水晶玉に手をかざすと、赤と水色と白と、強い光を放つ。
　神官様とシスターは目を見開く。

「これは…、火と水と風と、光の魔法に適正がありますね。しかも強い魔力です。」

「お嬢様、すごいですわ！４つも適正があって、光魔法まで使えるなんて。もしかしたら、記憶を失う前に魔法をよく使われていたのでは？」

「いえ。体が弱かったらしいですから、そんなことは無いかと。」

「きっと魔力が強くて、体に負担がかかっていたのだと思います。魔力の強い子供は、体調不良に悩む人が多いのですよ。そういう子供達の中には、魔力が覚醒するのが遅くて、魔力が弱いと判断されてしまう子もいるのです。もしかしたら、お嬢様もそうだったのかもしれませんね。これから訓練すればいいかと思います。光魔法は貴重ですからね。治癒の力を使いこなせば、かなり稼ぐことが出来るかと思いますから、頑張ってみて下さい。」

「ありがとうございます。頑張りますね。」

　そして、シスターは私を別の個室に案内してくれた。そこには、平民が着るかわいいワンピースや靴が用意されていた。着替えが何組かと、日用品やタオルなどが入ったカバンまで。

「急いで出発した方がいいわ。貴女の容姿は目立つから、これを上から被ってね。」

　シスターはフード付きのマントまで用意してくれたらしい。

「裏口に馬車を待たせているから、それに乗って駅まで行ってね。これは切符よ。行き方はメモをつけておいたからね。しばらくはあまり表に出ない方がいいわ。列車の時間が迫っているから、もう行きましょう！」

「シスター、何から何までありがとうございました。落ち着いたら、手紙を書きますね。」

「偽名を使いなさいね。もしかしたら、侯爵様が貴女を探すかもしれないから、気をつけてね。幸せになりなさい。」

「はい。本当にありがとうございます。お元気で！」

　シスターに、別れを告げて馬車に乗り込む私。

　やったー！ありがとうシスター。私はこれで自由だわ。
　
　私はよくわからない異世界で、とりあえず離縁と家出に成功したようだ。