122 / 125
閑話 ギルバート
しおりを挟む
なぜか怒りを滲ませたような表情でやってきた王子殿下。
「ベイン子爵令息。私がエレノアとギルバートの代わりに話を聞いてやると言っている。
早くさっきの話の続きをしてくれるか?愛人の子だから何だって…?」
王族は読唇術が出来るのか?それとも聴覚が鋭いのだろうか?近くにはいなかったはずなのに、何で会話の内容を知っているのだろう?
「お、王子殿下が気にかけるような話ではございません!」
王子殿下の登場で慌てる次兄とその友人達。子爵家から見たら王族は雲の上の存在だから、当然と言えば当然の反応か…。
「私達王族だって、過去に遡れば愛人の血だって入っているぞ。王妃に子ができず、愛妾の子が国王になったことだってある。お前は私達王族も否定するのだな。」
「め…、滅相もございません!」
「それにギルバートは、宰相子息と首席争いをするくらい優秀だそ。ベイン子爵令息は学年で何位だ?
私とエレノアのAクラスにはいなかったから、上位ではなかったよな?」
次兄の顔色がみるみる悪くなり、顔面蒼白になってしまった。
「そんな馬鹿げた話をするために、エレノアとギルバートに絡むな。
分かったら、さっさと退け!」
「…ひっ!も、申し訳ありませんでした。」
次兄とその友人達は、二度と私達に絡んで来ることはなかった…。
「王子殿下…。大変見苦しい所をお見せしてしまい、お恥ずかしい限りでございます。
私の兄が申し訳ありませんでした。」
「気にするな!エレノアの義弟も私の仲間みたいなものだからな。
ギルバート、お前は何も恥じることはしていないのだから堂々とするんだ。
エレノアはこんな感じだが、義弟のギルバートがしっかりしているから、ベネット伯爵もさぞや喜んでいるだろうな。」
義姉は殿下を悪魔と呼んでいたが、こんな心温まる言葉を掛けてくれるお方だったのか…。
それに殿下は私を〝ギルバート〟って呼び捨てで呼んでくれていて驚いたけど、全然嫌な気はしなかった。
だが、義姉はそうは感じていなかったようだった。
「王子殿下。レディに向かって〝こんな感じ〟とは何なのでしょうね?私はギルの良き義姉のつもりでいましたのでとても心外です。
でも…、うちの可愛い義弟を助けて下さったことには感謝しておりますわ。ベネット家を継ぐ義弟を、今後もよろしくお願い致します。
…ギル、そろそろ行くわよ。」
「王子殿下。本当にありがとうございました。
失礼致します。」
「ああ。またな。」
その後、王子殿下と義姉のやり取りを見る機会が沢山あり気付いたのだが、王子殿下は義姉に片想いをしているようだった。
いつも明るくて気さくな殿下が、義姉絡みになるとキレるし容赦しないのだ。
義姉に近付く令息を片っ端から追い払い、義姉に悪意を持って絡む令嬢には、陰で警告をしている姿を何度か見たことがある。殿下は義姉の最強のボディーガードのようであった。
しかし残念なことに、殿下の気持ちは義姉には全く伝わっていなかった。
殿下は根はとてもお優しい方なのに、義姉に対しては上手く愛情を伝えられない不器用な方のようだ。
殿下や義姉の周りの友人達もそれを知っているようで、複雑そうな表情で殿下を見ている姿が印象的だった。
私がベネット家に来て2年を過ぎた頃には、義両親や義姉とも本音で話が出来るくらいに馴染んでいたと思う。
ある日、義両親に呼び出された私は、驚く話を聞かされることになった。
「ギルに伝えたいことがある。
ノアなのだが、好きな人が出来たからその人と婚約したいと言って来た。」
「えっ?その方は王子殿下ではないですよね?」
「…全く違う人物だ。」
義両親の表情を見て、義姉の好きな人があまり喜べない人物なのだと理解した。
「相手は誰なのです?」
「ロジャース伯爵だ。」
「ロジャース伯爵?
……借金で没落しそうだというロジャース伯爵ですか?」
「そうだ。少し前の夜会で、ボルチャコフ侯爵子息に付き纏われて、困っている時に助けてくれたらしい。
運命的な出会いだったと言っていた…。」
「う…、運命ですか?」
17歳にもなって、ロマンス小説に影響されすぎだ!
「ロジャース伯爵様はね、すごい美形の伯爵様なのよ。一夜の恋のお相手にしたいって話す夫人もいるのよね…。
大人な雰囲気で、優しくてカッコいいロジャース伯爵様は、私の王子様だとノアが言っていたわよ。」
ハァー。本物の王子様が身近な所にいるのに…。
「一夜の恋のお相手にと夫人方が望まれるくらいの方なら、すでに決まった相手がいるのではないのですか?」
「ロジャース伯爵の身辺調査をしてみたら、親しくしている女性はいないようだし、質素倹約な生活をしているようだった。
両親に恵まれず、今ある借金も亡くなった両親のものらしいから、苦労はしているようだ。」
両親に恵まれなかった伯爵か…。
「ノアは言い出したら聞かないから困ったわ。」
その後、義姉は難色を示す両親を説得し、あっという間にロジャース伯爵の婚約者の座を射止めていた。
婚約が決まって嬉しそうにする義姉を、沈んだような表情で見ている殿下があまりにも不憫に見えた。
「ベイン子爵令息。私がエレノアとギルバートの代わりに話を聞いてやると言っている。
早くさっきの話の続きをしてくれるか?愛人の子だから何だって…?」
王族は読唇術が出来るのか?それとも聴覚が鋭いのだろうか?近くにはいなかったはずなのに、何で会話の内容を知っているのだろう?
「お、王子殿下が気にかけるような話ではございません!」
王子殿下の登場で慌てる次兄とその友人達。子爵家から見たら王族は雲の上の存在だから、当然と言えば当然の反応か…。
「私達王族だって、過去に遡れば愛人の血だって入っているぞ。王妃に子ができず、愛妾の子が国王になったことだってある。お前は私達王族も否定するのだな。」
「め…、滅相もございません!」
「それにギルバートは、宰相子息と首席争いをするくらい優秀だそ。ベイン子爵令息は学年で何位だ?
私とエレノアのAクラスにはいなかったから、上位ではなかったよな?」
次兄の顔色がみるみる悪くなり、顔面蒼白になってしまった。
「そんな馬鹿げた話をするために、エレノアとギルバートに絡むな。
分かったら、さっさと退け!」
「…ひっ!も、申し訳ありませんでした。」
次兄とその友人達は、二度と私達に絡んで来ることはなかった…。
「王子殿下…。大変見苦しい所をお見せしてしまい、お恥ずかしい限りでございます。
私の兄が申し訳ありませんでした。」
「気にするな!エレノアの義弟も私の仲間みたいなものだからな。
ギルバート、お前は何も恥じることはしていないのだから堂々とするんだ。
エレノアはこんな感じだが、義弟のギルバートがしっかりしているから、ベネット伯爵もさぞや喜んでいるだろうな。」
義姉は殿下を悪魔と呼んでいたが、こんな心温まる言葉を掛けてくれるお方だったのか…。
それに殿下は私を〝ギルバート〟って呼び捨てで呼んでくれていて驚いたけど、全然嫌な気はしなかった。
だが、義姉はそうは感じていなかったようだった。
「王子殿下。レディに向かって〝こんな感じ〟とは何なのでしょうね?私はギルの良き義姉のつもりでいましたのでとても心外です。
でも…、うちの可愛い義弟を助けて下さったことには感謝しておりますわ。ベネット家を継ぐ義弟を、今後もよろしくお願い致します。
…ギル、そろそろ行くわよ。」
「王子殿下。本当にありがとうございました。
失礼致します。」
「ああ。またな。」
その後、王子殿下と義姉のやり取りを見る機会が沢山あり気付いたのだが、王子殿下は義姉に片想いをしているようだった。
いつも明るくて気さくな殿下が、義姉絡みになるとキレるし容赦しないのだ。
義姉に近付く令息を片っ端から追い払い、義姉に悪意を持って絡む令嬢には、陰で警告をしている姿を何度か見たことがある。殿下は義姉の最強のボディーガードのようであった。
しかし残念なことに、殿下の気持ちは義姉には全く伝わっていなかった。
殿下は根はとてもお優しい方なのに、義姉に対しては上手く愛情を伝えられない不器用な方のようだ。
殿下や義姉の周りの友人達もそれを知っているようで、複雑そうな表情で殿下を見ている姿が印象的だった。
私がベネット家に来て2年を過ぎた頃には、義両親や義姉とも本音で話が出来るくらいに馴染んでいたと思う。
ある日、義両親に呼び出された私は、驚く話を聞かされることになった。
「ギルに伝えたいことがある。
ノアなのだが、好きな人が出来たからその人と婚約したいと言って来た。」
「えっ?その方は王子殿下ではないですよね?」
「…全く違う人物だ。」
義両親の表情を見て、義姉の好きな人があまり喜べない人物なのだと理解した。
「相手は誰なのです?」
「ロジャース伯爵だ。」
「ロジャース伯爵?
……借金で没落しそうだというロジャース伯爵ですか?」
「そうだ。少し前の夜会で、ボルチャコフ侯爵子息に付き纏われて、困っている時に助けてくれたらしい。
運命的な出会いだったと言っていた…。」
「う…、運命ですか?」
17歳にもなって、ロマンス小説に影響されすぎだ!
「ロジャース伯爵様はね、すごい美形の伯爵様なのよ。一夜の恋のお相手にしたいって話す夫人もいるのよね…。
大人な雰囲気で、優しくてカッコいいロジャース伯爵様は、私の王子様だとノアが言っていたわよ。」
ハァー。本物の王子様が身近な所にいるのに…。
「一夜の恋のお相手にと夫人方が望まれるくらいの方なら、すでに決まった相手がいるのではないのですか?」
「ロジャース伯爵の身辺調査をしてみたら、親しくしている女性はいないようだし、質素倹約な生活をしているようだった。
両親に恵まれず、今ある借金も亡くなった両親のものらしいから、苦労はしているようだ。」
両親に恵まれなかった伯爵か…。
「ノアは言い出したら聞かないから困ったわ。」
その後、義姉は難色を示す両親を説得し、あっという間にロジャース伯爵の婚約者の座を射止めていた。
婚約が決まって嬉しそうにする義姉を、沈んだような表情で見ている殿下があまりにも不憫に見えた。
42
お気に入りに追加
6,564
あなたにおすすめの小説
(完結)私が貴方から卒業する時
青空一夏
恋愛
私はペシオ公爵家のソレンヌ。ランディ・ヴァレリアン第2王子は私の婚約者だ。彼に幼い頃慰めてもらった思い出がある私はずっと恋をしていたわ。
だから、ランディ様に相応しくなれるよう努力してきたの。でもね、彼は・・・・・・
※なんちゃって西洋風異世界。現代的な表現や機器、お料理などでてくる可能性あり。史実には全く基づいておりません。
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
愛される日は来ないので
豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。
──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
あなたの事は記憶に御座いません
cyaru
恋愛
この婚約に意味ってあるんだろうか。
ロペ公爵家のグラシアナはいつも考えていた。
婚約者の王太子クリスティアンは幼馴染のオルタ侯爵家の令嬢イメルダを側に侍らせどちらが婚約者なのかよく判らない状況。
そんなある日、グラシアナはイメルダのちょっとした悪戯で負傷してしまう。
グラシアナは「このチャンス!貰った!」と・・・記憶喪失を装い逃げ切りを図る事にした。
のだが…王太子クリスティアンの様子がおかしい。
目覚め、記憶がないグラシアナに「こうなったのも全て私の責任だ。君の生涯、どんな時も私が隣で君を支え、いかなる声にも盾になると誓う」なんて言い出す。
そりゃ、元をただせば貴方がちゃんとしないからですけどね??
記憶喪失を貫き、距離を取って逃げ切りを図ろうとするのだが何故かクリスティアンが今までに見せた事のない態度で纏わりついてくるのだった・・・。
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★ニャンの日present♡ 5月18日投稿開始、完結は5月22日22時22分
★今回久しぶりの5日間という長丁場の為、ご理解お願いします(なんの?)
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる