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久しぶり

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 ロジャース伯爵様が私の邸にやって来た。

 久しぶりにお会いしたロジャース伯爵様は、あの頃と変わらず、見た目だけはいい男だった。

「ベネット伯爵令嬢。今日は久しぶりに会えて嬉しく思う。
 元気だったか?」

「ロジャース伯爵様、ご無沙汰しておりました。
 私は元気にしておりましたわ。
 ロジャース伯爵様は、お変わりありませんか?」

「私は何も変わりない。
 ベネット伯爵令嬢も元気そうで何よりだ。」

 こうやって挨拶して、当たり障りのない会話をするだけなら、この伯爵様は素敵に見えるのよね。
 頭がお花畑のエレノアも、心を病んでしまったアブスも、見た目がカッコ良くて、落ち着いた大人の雰囲気のあるこんな伯爵様を好きになったのだと思う。
 結婚してこの男のダメダメっぷりを知って、すぐにそのイメージは崩れ去ったけどね。


「ベネット伯爵令嬢。苺の事業では大変世話になったな。
 収入が増えたと領民は喜んでいたし、伯爵家の税収も上がって、借金返済にかなり役に立っている。
 全て君のおかげだ。ありがとう。」

 伯爵様が珍しく笑顔だった。借金で苦しんでいたから、収入が増えたのは嬉しかったようね。

「いえ。私こそ、ロジャース伯爵領の皆様のおかげで儲けさせて頂きました。ありがとうございました。
 またよろしくお願い致します。」

「ああ。よろしく。」

「ところで、メイド長やトーマス達はお元気でしょうか?」

「みんな元気にしている。ベネット伯爵令嬢が会いに来てくれたら喜ぶと思うから、時間がある時でいいから、顔を見せに来てやってくれないか?」

 手紙にも書いてあったけど、本当なのかしら?
 まあ、金貨を沢山ばら撒いてきた自覚はあるけどね。

「そうですね…。時間がとれそうな時があれば、ぜひ。」

「良かった!みんな君を慕っていたからな。
 ベネット伯爵令嬢…。」

「はい?」

 穏やかな表情から、急に真顔になる伯爵様。

「白い結婚が認められた後、周りから何か酷いことを言われたり、辛い思いをしたりしなかっただろうか?」

 ふーん。私のことをただの金蔓としか思ってなくても、それなりに心配はしてくれていたってことかしらね。
 まあ、今世の私の人生で言われたベストオブ酷い言葉は、今、私の目の前に座っている男が言った〝私は君を愛するつもりはない。結婚はしたが~〟だからね。
 それより酷いことを言いそうな人物は、今社交を禁止されているあの女くらいだし、私自身はしばらく社交は控えていたし…。

「いえ。大丈夫でしたわ。
 ロジャース伯爵様は大丈夫でしたか?」

「そうか。君が私のせいでまた何か嫌なことを言われているのではと心配していたのだが、安心したよ。
 私の方は…、まあ…、友人やその夫人達に怒られたくらいだな。」

 また友人達に馬鹿正直に話をして、あの友人達に怒られたんだ…。
 アブスの時も思ったけど、伯爵様の友人達って、結構言うよねー!

「怒られたのですね?」

「ああ。初夜の日にそんな事を言ったら、嫌われるのは当然だと。事情があるにしても、言い方を考えろと言われたし、そんなことも知らずに、友人達が君に跡取りを期待するようなことを何度も言ってしまって、悪かったと話していた。」

 分かってくれればいいのよ!
 あの時、何気ないその言葉に傷付いたんだから。

「友人の夫人達には、それは絶対に言ってはいけない言葉だったと言われたし、そんなことを言われたら、一生忘れないだろうとまで言われた。
 それだけでも傷付くのに、私の親族やあの悪女にまで嫌がらせのようなことをされて、君が可哀想だと言って涙を流す夫人までいたよ。
 妻にプレゼントすらしたことのない夫なんて、この世にいるのかと話す夫人もいたな。」

 ふふ!伯爵様の友人達からは私は同情してもらえたのね。
 良かったー!嫌われてお得意様じゃなくなったり、社交の場で夫人達から虐められたらどうしようかと、少し不安だったのよね。
 伯爵様の友人や夫人達が私の店を利用してくれた時は、必ず大サービスするようにと従業員達には話しておこう!

「伯爵様の友人方は、とても素晴らしい方々だと思いますから、これからもお付き合いを大切になさって下さいね。」

 友人を褒められて嬉しかったのか、伯爵様がフッと笑う。

「ああ。私もそう思っている。
 ところで……、ベネット伯爵令嬢はナイトレイ公爵閣下と婚約するのか?」

「…は?」

 この伯爵様にそのことを聞かれるとは思わなかったわ。

 

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