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令嬢に戻った私

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 見た目小娘、中身はアラフォーおばちゃんのエレノアです。

 先日、無事に白い結婚を認められた私は、めでたく独身の令嬢に戻ることが出来た。

 あの顔だけ男のロジャース伯爵様とは円満に別れることが出来たし、引っ越して来たマイホームは最高だし、新しい生活には今のところは満足しているのだ。

 しかし私達の白い結婚は、今社交界では一番の話題になっているらしく、色々な噂話が飛び交っているようなので、今は社交はお休みして、引きこもって仕事をする日々を送っている。


 そんな私は今、アポ無しでやって来た来客の対応をする為に応接室に向かっているところだ。

 この邸に引っ越して来たことを知るのは、私の学生時代の友人達と、仕事で密接な関わりのある人だけなはずなのに…。
 アポ無しでいきなり来るなんて、姑かよと言いたいわ。
 しかしそのお方は、来るなとか帰れとか、間違えても口には出来ない高貴な身分の方。


 ハァー、何しに来たんだよ?


「大変お待たせ致しました。
 エレノア・ベネット、王子殿下にご挨拶申し上げます。」

「エレノア、久しぶりだな。お前が引っ越したと聞いて、引っ越し祝いを持って来たんだ。」


 イケメンが爽やかな笑顔で私に話しかけてきたけどさ…。
 今、この王子殿下は引っ越し祝いって言った?
 結婚に失敗した私を冷やかしに来たか、この野郎!


「…で、殿下!」


 私の表情を秒で理解したであろう、殿下の護衛騎士や従者達がすぐに気まずそうな表情をするのが分かった。


「ベネット伯爵令嬢、少し殿下と話をさせて下さい。」

「…はい。」


 殿下のすぐ横にいた従者は、引き攣った笑顔で、殿下を部屋の隅の方に引っ張って行き、耳元で何かを話している。
 殿下の側近達が常識的な人達のようで、おばちゃんは安心したわよ。


 ……気まずそうな顔をして戻って来たわね。


「エレノア、気分を悪くしたらすまないな。
 そ、その…、エレノアが邸をセンス良くリフォームしたと話題になっていたから、ぜひ見てみたいと思ってな…。
 手ぶらでは申し訳ないと思って、エレノアが好きそうな物を沢山持って来たんだ。良かったら受け取ってくれないか?
 エレノアが好きな焼き立てのアップルパイも持って来たから、温かいうちに食べて欲しい。」


 焼き立てのアップルパイと聞いてテンションが上がる私。
 殿下から渡されたアップルパイの箱が温かい…


「殿下、ありがとうございます。嬉しいですわ!
 早速頂きましょうか。」


 メイドに渡して、すぐにカットして持ってきてもらうことにした。
 このアップルパイは美味しいからね。さっきの殿下の失言は許してやろう。


「殿下、とっても美味しいですわ。
 焼き立てを食べることが出来るなんて、最高です。」

「そ、そうか…。エレノアが喜んでくれて良かった。
 アップルパイならまた届けに来てやる。」


 また来る気でいるのね…。

 でも王宮のアップルパイは王妃殿下の茶会か、王宮の夜会に行った時にしか食べれない貴重なスイーツなのよね。しかも焼き立ての物は、こんな風に王子殿下が個人的にくれた時じゃないとありつけないの。
 私、美味しいものに弱いのよー!


「殿下、ありがとうございます。」

「いいんだ。アップルパイくらいでエレノアがこんなに喜んでくれるなら、いくらでも届けてやる。
 ところでエレノア…、来月、私の兄上が国王に即位するのは知っているよな?」

「勿論ですわ。」

「戴冠式の次の日に、王宮でパーティーがあるのも知っているか?」

「はい。」


 行きたくはないけれど、王族主催のパーティーは強制参加だからね。


「そのパーティーなのだが…、私の…、そのだな…、私の…パートナーとして出席してくれないか?」

「……はい?」


 あの王子殿下が気まずそうな…、恥ずかしくもあるような、どこか必死そうな様子だった。





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