上 下
91 / 125

最後の夜会 2

しおりを挟む
 国王陛下の誕生祭で伯爵様とダンスを踊る鬼嫁。

 このダンスは伯爵様との最後のダンス。
 この男の妻を辞めたら、もう絶対に一緒にダンスなんて踊らないんだから!

 これが2年前だったら、大好きなアラン様とダンスが踊れて幸せだわ、カッコいい、大好き…!なーんて考えながら、伯爵様に微笑みながら踊っていたんだろうなぁ。

 あんなに好きだったはずなのにね…。

 伯爵家にお金がなくても、私がお金を持っているし、大好きなアラン様のために私が金儲けを頑張ればいいと思って結婚したのに…。その想いは結婚初夜に全て壊されて、お花畑のエレノアも、伯爵様への愛も全て死んだけど…。
 それでも前世のおばちゃん根性でここまで頑張ってきた私って偉くない?誰も褒めてくれないから、自分で褒めちゃうからね。


 私は頑張った!


「エレノア…?気分が悪いのか?目が潤んでいるような気がする。大丈夫か?」


 はっ!結婚詐欺に遭いながらも、泣きたい気持ちを我慢して、ひたすら頑張ってきた自分があまりにも哀れで、涙が溢れそうになっていたわ。
 こんな場でいけないわ。気を付けないと。


「失礼しました。最近少し忙しかったので、疲れているのかもしれません。
 ダンスは1曲だけでもよろしいでしょうか?」


 前のように、周りに仲良し夫婦であることをアピールするためだけに、ダンスを2~3曲踊らされたりしたら大変だからね。


「無理をしなくていい。気にするな。
 ダンスは次の夜会でまた踊れるから大丈夫だ。」


 いや、アンタとはもうダンスはしないからね。
 これが最後のダンスって決めているんだから。


「申し訳ありません…。」



 ダンスが終わった後、飲み物でも飲もうかという話になり、飲食コーナーへ2人で移動する。


「エレノア!元気でいたか?」


 何を飲もうかと悩んでいた私に声を掛けて来たのは、学生時代からの知り合いであるにも関わらず、最近になってやっと友人だと認めてあげた王子殿下だった。

 さっき国王陛下に挨拶に行った時は、珍しく絡んで来なかったんだよね。
 横から口を挟んできて、今までのように子供みたいな絡みをされるのかと思っていたのだけど、あまりにも静かにしていたから、どっか具合でも悪いのかと思っていたわ。
 もしかして、本当に心を入れ替えて大人になったってこと?


「王子殿下、ご機嫌よう。
 この前はありがとうございました。とても美味しかったですわ。」

「エレノアが喜んでくれたならまた用意する。
 ロジャース伯爵も元気そうで何よりだな。」

「王子殿下、ご機嫌麗しゅうございます。
 先日は私の妻が大変お世話になりました。」


 何が〝私の妻〟だ?


「気にするな。
 ところで、エレノアは飲み物を探しているようだな。」


 相変わらずよく見てるわ。
 恐るべし王族…。


「ええ。少し喉を潤そうかと思いまして。」

「少し待ってくれるか?
 おい、エレノアの好きなスパークリングワインを今すぐ持って来てくれ!」

「畏まりました。」


 私がスパークリングワインが好きなことまで知ってるのね。
 恐るべし王族…。

 殿下から命令された従者がサッと運んで来てくれる。


「ほら、エレノアはこれが好きだっただろう?
 冷たくて美味いから早く飲め。」

「王子殿下、ありがとうございます。」


 前にも感じたけど、王子殿下は性格が丸くなったのかな?前よりも口調が優しくなったような気がする…。
 ま、いいか!
 遠慮なくスパークリングワインを頂く鬼嫁。
 はー、美味しいわ!


「王子殿下、とても美味しいですわ。
 伯爵様も頂いてみてはどうでしょうか?」

「エレノア、私は大丈夫だ。」


 は?愛想悪くない?
 一応こんなんでも王族だし、国王陛下の息子なんだから、愛想良くしてあげてよ!


「エレノア。今日のスイーツのおすすめは、お前の好きなロールケーキらしい。
 甘さ控えめのクリームと季節のフルーツ数種類を、しっとりと焼き上げたスポンジで巻いたロールケーキは、特に美味しく仕上がっていると料理人達が言っていた。
 食べたいならすぐに持って来させるがどうする?」


 王子殿下はどうしちゃったの?
 王宮スイーツを完璧にプレゼンしているじゃないのよ!


「王子殿下。頂いてもよろしいでしょうか?」

「ああ。今すぐ持って来させよう。」


 殿下の従者はすぐにロールケーキを持って来てくれた。


「エレノア、沢山食べろ!」

「ありがとうございます!」


 あー、美味しい。このクリームは甘さを抑えているから重くないし、フルーツの味を邪魔してないんだよね。スポンジはしっとりしながらも、フワッとしていて最高!


「王子殿下、とっても美味しいですわ。
 私はこのロールケーキも大好きなのです。」

「そ、そうか。エレノアが喜んでくれて私も嬉しい。
 あ…、食べ終わったら、私と踊って頂けないか?」


 最近この王子殿下にはお世話になっているから、断れないわね。


「はい。喜んで。」


 しかし、あの男が黙っていなかった…。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余命2か月なので、好きに生きさせていただきます

青の雀
恋愛
公爵令嬢ジャクリーヌは、幼い時に母を亡くし、父の再婚相手とその連れ子の娘から、さんざんイジメられていた。婚約者だった第1王子様との仲も引き裂かれ、連れ子の娘が後釜に落ち着いたのだ。 ここの所、体調が悪く、学園の入学に際し、健康診断を受けに行くと、母と同じ病気だと言われ、しかも余命2か月! 驚いてショックのあまり、その場にぶっ倒れてしまったのだが、どういうわけか前世の記憶を取り戻してしまったのだ。 前世、社畜OLだった美咲は、会社の健康診断に引っかかり、そのまま緊急入院させられることになったのだが、その時に下された診断が余命2日というもの。 どうやって死んだのかわからないが、おそらく2日間も持たなかったのだろう。 あの時の無念を思い、今世こそは、好き放題、やりたい放題して2か月という命を全うしてやる!と心に決める。 前世は、余命2日と言われ、絶望してしまったが、何もやりたいこともできずに、その余裕すら与えられないまま死ぬ羽目になり、未練が残ったまま死んだから、また転生して、今度は2か月も余命があるのなら、今までできなかったことを思い切りしてから、この世を去れば、2度と弱いカラダとして生まれ変わることがないと思う。 アナザーライト公爵家は、元来、魔力量、マナ量ともに多い家柄で、開国以来、王家に仕え、公爵の地位まで上り詰めてきた家柄なのだ。でもジャクリーヌの母とは、一人娘しか生まれず、どうしても男の子が欲しかった父は、再婚してしまうが、再婚相手には、すでに男女の双子を持つ年上のナタリー夫人が選ばれた。 ジャクリーヌが12歳の時であった。ナタリー夫人の連れ子マイケルに魔法の手ほどきをするが、これがまったくの役立たずで、基礎魔法の素養もない。 こうなれば、ジャクリーヌに婿を取り、アナザーライト家を存続させなければ、ご先祖様に顔向けができない。 ジャクリーヌが学園に入った年、どういうわけか父アナザーライト公爵が急死してしまう。家督を継ぐには、直系の人間でなければ、継げない。兄のマイケルは、ジャクリーヌと結婚しようと画策するが、いままで、召使のごとくこき使われていたジャクリーヌがOKするはずもない。 余命2か月と知ってから、ジャクリーヌが家督を継ぎ、継母とその連れ子を追い出すことから始める。 好き勝手にふるまっているうちに、運命が変わっていく Rは保険です

スキル【海】ってなんですか?

陰陽@2作品コミカライズと書籍化準備中
ファンタジー
スキル【海】ってなんですか?〜使えないユニークスキルを貰った筈が、海どころか他人のアイテムボックスにまでつながってたので、商人として成り上がるつもりが、勇者と聖女の鍵を握るスキルとして追われています〜 ※書籍化準備中。 ※情報の海が解禁してからがある意味本番です。  我が家は代々優秀な魔法使いを排出していた侯爵家。僕はそこの長男で、期待されて挑んだ鑑定。  だけど僕が貰ったスキルは、謎のユニークスキル──〈海〉だった。  期待ハズレとして、婚約も破棄され、弟が家を継ぐことになった。  家を継げる子ども以外は平民として放逐という、貴族の取り決めにより、僕は父さまの弟である、元冒険者の叔父さんの家で、平民として暮らすことになった。  ……まあ、そもそも貴族なんて向いてないと思っていたし、僕が好きだったのは、幼なじみで我が家のメイドの娘のミーニャだったから、むしろ有り難いかも。  それに〈海〉があれば、食べるのには困らないよね!僕のところは近くに海がない国だから、魚を売って暮らすのもいいな。  スキルで手に入れたものは、ちゃんと説明もしてくれるから、なんの魚だとか毒があるとか、そういうことも分かるしね!  だけどこのスキル、単純に海につながってたわけじゃなかった。  生命の海は思った通りの効果だったけど。  ──時空の海、って、なんだろう?  階段を降りると、光る扉と灰色の扉。  灰色の扉を開いたら、そこは最近亡くなったばかりの、僕のお祖父さまのアイテムボックスの中だった。  アイテムボックスは持ち主が死ぬと、中に入れたものが取り出せなくなると聞いていたけれど……。ここにつながってたなんて!?  灰色の扉はすべて死んだ人のアイテムボックスにつながっている。階段を降りれば降りるほど、大昔に死んだ人のアイテムボックスにつながる扉に通じる。  そうだ!この力を使って、僕は古物商を始めよう!だけど、えっと……、伝説の武器だとか、ドラゴンの素材って……。  おまけに精霊の宿るアイテムって……。  なんでこんなものまで入ってるの!?  失われし伝説の武器を手にした者が次世代の勇者って……。ムリムリムリ!  そっとしておこう……。  仲間と協力しながら、商人として成り上がってみせる!  そう思っていたんだけど……。  どうやら僕のスキルが、勇者と聖女が現れる鍵を握っているらしくて?  そんな時、スキルが新たに進化する。  ──情報の海って、なんなの!?  元婚約者も追いかけてきて、いったい僕、どうなっちゃうの?

不遇の伯爵令嬢は、第三王子に溺愛される

霜月零
恋愛
アイヴォン伯爵家の庶子ロザリーナは、聖女である義姉のルピナに日々虐げられていた。 ルピナによく似た容姿のロザリーナは、自身の美貌に絶対の自信を持つルピナにとって、存在そのものが目障りだったせい。 伯爵令嬢としての扱いではなく、使用人と同じように働かせられながら日々を過ごしていたロザリーナに、さらなる悲劇が襲い掛かる。 「お前がわたしの代わりに修道院へお行き!」 第二王子と婚約破棄されただけではなく、聖女としての称号すらも剥奪された悪女ルピナの身代わりに、王都の修道院へ入れられることになってしまったのだ。 傲慢な悪女ルピナとして周囲はロザリーナを扱い、幼馴染を虐げたと第三王子にまでも憎まれ辛く当たられるロザリーナ。 彼女に、幸せは果たして訪れるのか。 ――これは、理不尽に虐げられ、蔑まれ続けた伯爵令嬢が幸せを掴む物語。 ※表紙イラストはmiamia様

我が家に子犬がやって来た!

ハチ助
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※①9/1時点では80話ちょっとで完結予定。 (話数増える可能性あり) ※②アルファポリスさんでは7時半頃と12時半頃に一日二話ずつ更新予定。 (↑9/12~15間は諸事情で20時半に毎日一話ずつ更新) ★『小説家になろう』では大分前から連載しており、こちらは週2話ずつで現在も連載中★

吸血鬼公爵に嫁いだ私は血を吸われることもなく、もふもふ堪能しながら溺愛されまくってます

リオール
恋愛
吸血鬼公爵に嫁ぐこととなったフィーリアラはとても嬉しかった。 金を食い潰すだけの両親に妹。売り飛ばすような形で自分を嫁に出そうとする家族にウンザリ! おまけに婚約者と妹の裏切りも発覚。こんな連中はこっちから捨ててやる!と家を出たのはいいけれど。 逃げるつもりが逃げれなくて恐る恐る吸血鬼の元へと嫁ぐのだった。 結果、血なんて吸われることもなく、吸血鬼公爵にひたすら愛されて愛されて溺愛されてイチャイチャしちゃって。 いつの間にか実家にざまぁしてました。 そんなイチャラブざまぁコメディ?なお話しです。R15は保険です。 ===== 2020/12月某日 第二部を執筆中でしたが、続きが書けそうにないので、一旦非公開にして第一部で完結と致しました。 楽しみにしていただいてた方、申し訳ありません。 また何かの形で公開出来たらいいのですが…完全に未定です。 お読みいただきありがとうございました。

【完結】11私は愛されていなかったの?

華蓮
恋愛
アリシアはアルキロードの家に嫁ぐ予定だったけど、ある会話を聞いて、アルキロードを支える自信がなくなった。

「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です

リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。 でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う) はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか? それとも聖女として辛い道を選ぶのか? ※筆者注※ 基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。 (たまにシリアスが入ります) 勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗

乙女ゲームのヒロインの顔が、わたしから好きな人を奪い続けた幼なじみとそっくりでした。

ふまさ
恋愛
 彩香はずっと、容姿が優れている幼なじみの佳奈に、好きな人を奪われ続けてきた。親にすら愛されなかった彩香を、はじめて愛してくれた真二でさえ、佳奈に奪われてしまう。  ──こうなることがわかっていれば、はじめから好きになんてならなかったのに。  人間不信になった彩香は、それきり誰と恋することなく、人生を終える。  彩香だった前世をふっと思い出したのは、フェリシアが十二歳になったとき。  ここがかつてプレイした乙女ゲームの世界で、自身がヒロインを虐める悪役令嬢だと認識したフェリシア。五人の攻略対象者にとことん憎まれ、婚約者のクライブ王子にいずれ婚約破棄される運命だと悟ったフェリシアは、一人で生きていく力を身につけようとする。けれど、予想外にも優しくされ、愚かにも、クライブに徐々に惹かれていく。  ヒロインを虐めなければ、このままクライブと幸せになる未来があるのではないか。そんな馬鹿な期待を抱きはじめた中、迎えた王立学園の入学式の日。    特待生の証である、黒い制服を身に包んだヒロイン。振り返った黒髪の女性。  その顔は。 「……佳奈?」  呟いた声は、驚くほど掠れていた。  凍り付いたように固まる。足が地面に張り付き、動けなくなる。 「……な、んで」  驚愕の声はフェリシアではなく、なんとクライブのものだった。  クライブの緑の瞳が、真っ直ぐに、ヒロイン──佳奈に注がれる。 「……い、いや」  無意識に吐露し、クライブに手を伸ばす。クライブはその手をするりとかわし、佳奈に向かって走っていった。 (……また、佳奈に奪われる)  ヒロインに、なにもかも奪われる。その覚悟はしていた。でも、よりによって佳奈に──なんて。  フェリシアは伸ばした手を引っ込め、だらんと下げた。

処理中です...