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ボディチェックします

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 アブス子爵家には伯爵家に戻って来てもいい日と、当日は必ず両親が付き添って欲しいことを手紙に書いて連絡した。


 そして、アブスが伯爵家に来る日を迎える。

 ギルも仕事で忙しい中、わざわざ同席してくれることになった。あの生々しい不貞の画像を見せるのに、機械に慣れている自分が同席すると言ってくれたのだ。
 結局、今回もギルに頼りっぱなしだ。


 
 アブスより先に到着したギルは、画像を見せるための準備をするために、先に応接室に入って待っている。
 アブスが逆上して暴れたりする可能性もあるから護衛騎士を多く配置することにした。
 
 やり過ぎかもしれないけれど、ああいう人に限って、窮地に立たされたら何をするか分からないから怖いのだ。




「奥様、アブス子爵家が到着致しました。玄関ホールで待って頂いております。」

 執務をしながら待っていると、到着したとの報告を受ける。

「すぐに行くわよ!」

「はい!」


 

 玄関ホールに出て行くと、すでに伯爵様がそこで待っていた。
 アブス…。里帰りでうちのシェフのコッテリなご馳走を食べていなかったからなのか、少しスッキリしたような気がする。



「エレノア、悪いな。」

「いえ。では始めましょうか?」

「ああ。頼む。」

 私と伯爵様の会話を不思議そうに見ている子爵と夫人。
 普通なら応接室にすぐに案内すべきなのに、玄関ホールで待たされたことが不思議なのだと思う。

「アブス子爵・夫人、お待たせ致しました。応接室に案内する前に、御令嬢のボディチェックをさせて頂きたいのです。」

「なっ…!私がどうしてそんなことをしなければならないのですか?」

 アブスが早速吠えている。でも、ナイフとか毒とか隠し持ってるかもしれないから念のためにやっておきたいの。
 そのために実家から女性騎士まで連れて来ちゃったんだから。

「前にも言いましたわよね?あなた達は信用できないと。
 毒でも持ち込まれたら困りますから。」

 毒という言葉にアブスの表情がピクリと反応するのが分かった。

「ロジャース夫人!娘は実家に戻った時にきちんと反省させて来ましたわ。こんな仕打ちはあんまりです。」

 今日もアブス母は煩いババアだった。

 反省して不貞してきたわけね。なるほど…

「相変わらず、いい歳して無礼な方ね。
 嫌なら中には入れませんわ。どうします?このまま帰られますか?」

「い、いい歳して…ですって?」

「いい加減にしないか!静かにしろ!
 夫人がそう言っているんだ。ララは黙って言うことを聞くんだ!」

 やはり、この中でまともなのは子爵だけなのね。

「では第二夫人…、よろしいかしら?」

「ど、どうして私ばかり…。酷いですわ。」

 始まったわ…。いつもの被害妄想が。

「まだ自分の立場を弁えていないようだな。本当に反省してきたのか?
 エレノアの言うことが聞けないなら、今すぐ子爵家に戻れ!」

 すでにキレ気味の伯爵様の一言でアブスは黙ってしまった。
 好きな人にここまで嫌われているのに、めげずに戻ってくるなんて、すごい根性だわ…。
 私なら心が折れちゃうし、こんな顔だけの貧乏男なんてもういらない!ふん!ってなるな。
 アブスは伯爵様に執着している…?

 アブスに玄関ホールの壁際まで移動してもらい、ボディチェックされているところを男性陣から見えないように、メイド達にカーテンを持って立ってもらい、パーテーション代わりになってもらった。
 ボディチェックといっても服の上から触ってチェックするだけだけど、ナイフとか刃物系ならすぐにわかるかなぁと思って。

 結果的に刃物は持っていなかった。
 ふぅー。これで刺されたりはしないか。良かったー!


「問題ありませんでした。皆様、応接室にどうぞお入り下さい。」

「夫人!いくら夫人の方が身分が上だとしても、今のはアブス子爵家への侮辱行為ですわ!私達や娘に謝罪して下さいませ!」

 本当に煩いババアだわ。

「今日もギャンギャンと賑やかですこと。静かに出来ないのなら、外でお待ちになりますか?
 今の行為が侮辱になるのか、正当な防衛によるものなのかはこの後ハッキリしますわ。」

「な、何を言って?」

「子爵様。いくら注意しても夫人は変わりませんのねぇ?この後、夫人も同席させたいと思うなら、少し黙らせて頂けませんか?」

「…申し訳ない。
 おい!黙れ。それが出来ないなら、馬車で待て!」

「あなたまで…。私はララが不憫だと思っただけなのに。」

「煩いと言っている!外で待て。」

 子爵がギロっと夫人を睨みつけた!
 静かそうな子爵だけど、怒る時もあるのね。

「……し、静かにします。」

 ハァー。ババアが黙ったところで、やっと断罪が始められるわね。
 





 
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