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閑話 王子殿下
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エレノアと初めて出会ったのは、王妃である母が開いた茶会だった。
当時10歳の私の将来の側近候補を選ぶ為に、伯爵家以上の子息と令嬢を招待して行われた茶会で、美しいエレノアに私はすぐに目を奪われた。
主催者である母と私に、ゲストが一人ひとり挨拶に来るのだが、10歳ですでに社交慣れしていて、美しいカーテシーに、洗練された所作のエレノアはとにかく目立っていた。
「ベネット伯爵家、長女のエレノア・ベネットでございます。本日は王妃殿下の茶会にご招待頂き、大変光栄でございます。」
海のような美しいブルーの瞳に、ホワイトブロンドの絹糸のような髪を持つ愛らしい美少女。
側近選びの茶会であって、婚約者探しではないのに、私はエレノアに目を奪われてしまった。
他の令嬢は、王子という私の身分に惹かれるのか、しつこいほどに纏わりついてくるのに、エレノアは初めから私に興味を持ってないことが分かった。
その後も何度か茶会に招待して、顔を合わせる機会はあったのだが、主催者に挨拶に来る時以外は、全く私に近づかないし、目が合うこともなかったからだ。
友人の令嬢達や知り合いらしき令息達と、楽しそうに料理を食べている姿をよく見た。
私もあそこに混ざりたいと何度思ったことか…。
「マテオ。貴方、ベネット伯爵令嬢を気に入ったのね。お茶会でずっとベネット伯爵令嬢を目で追っていたもの…。
お母様も、ベネット伯爵令嬢は素敵だと思うし、あの子なら王族に嫁いでも何の問題もないと思うの。
でも…、第二王子はまだ婚約者を決めてはいけないことは分かっているわよね?」
「…分かっておりますから、ご心配なく。」
第二王子は、無駄な派閥ができたり政治的な混乱を避ける為に、兄の王太子が結婚し、王位を継ぐのに何の問題もなくなってからでないと、婚約者を決めてはいけないことになっている。
王太子である兄と比べると自由にさせてもらえて、兄弟の仲も良く何の不満もなかった私は、そのことに対しても何も言えなかった。
そんな私は15歳になり、王都の貴族学園に入学する。
学園は成績ごとにクラス分けされており、私のクラスは上位貴族ばかりのAクラス。そのクラスでは勿論、エレノアも一緒だった。
成績優秀なエレノアを強引に生徒会に入れて、3年間ずっと近くにいた。〝エレノア〟と呼び捨てにして、特別なのだと周りにアピールした。
我が国有数の大金持ちで、成績優秀で美しいエレノアを狙う子息は沢山いたのを知っていたからだ。
エレノアは少し嫌がっていたが、嫌がる顔も可愛いし、嫌がりながらも、私に媚を売らずにいつも本音で話をしてくれるエレノアとの時間は、いつも居心地が良かった。
そんな私がエレノアと呼び捨てで呼んでいたら、なぜか両親までエレノアと呼ぶようになっていた。
学園最後の年を迎える。
兄上は結婚して数年が経ち、跡継ぎにも恵まれた。数年以内には王位を継ぐ準備も整うだろうから、私が学園を卒業した後くらいには、私の婚約者を決められるだろうと両親や兄と話をしていた時だったと思う。
「マテオ、お前に知らせなければならないことがある。」
国王である父に急遽執務室に呼ばれると、そこには母上もいた。
「何かありましたか?」
「ベネット伯爵家とロジャース伯爵家から、婚約の許可願いが届いた。」
突然のことで、頭が回らなかった…。
「え…?ロジャース伯爵?」
「エレノアとロジャース伯爵との婚約を認めてほしいそうだ。
先程、ベネット伯爵を呼び出して話を聞いたのだが、エレノア本人が強く望んでいるらしい。」
ロジャース伯爵は、少し年上の見目麗しい伯爵だった。
でも、あの伯爵家は確か……
「ロジャース伯爵家は、借金で没落してもおかしくはない家門ですよね?
エレノアは年上の伯爵に騙されているのではないのですか?」
「エレノアはそれを知っているそうだ。金が無くても、私が稼げばいいとまで話しているらしい…。」
確かに、エレノアは学生という立場でありながら、すでに投資家としても活動していて、個人資産を沢山持っていると聞く。
そんなエレノアを狙って、最近では夜会で年上の令息達がエレノアに群がっているのは知っていた。
学園内で虫除けは出来ても、貴族の邸での夜会には、私の身分では頻繁に参加出来る立場ではなかったから、心配はしていたのだが…。
「そんな……。納得出来ません。」
「マテオ!残念だけど、ロジャース伯爵家とベネット伯爵家が婚約すること自体は、派閥から見ても爵位から見ても何の問題もないわ。
没落しそうで力のないロジャース伯爵家と、大金持ちだけど政治には全く関心のないベネット家の婚約は、王家から見ても何の脅威にもならないから、反対できる理由がないのよ。」
「………。」
「私にとっても残念でならない。だが、反対出来る理由がない以上は認めるしかないのだ。
マテオ、分かってくれ…。」
「………はい。」
10歳の時に一目惚れしてから、ずっと好きだったのに…。
私の初恋はこれで終わるのか……
当時10歳の私の将来の側近候補を選ぶ為に、伯爵家以上の子息と令嬢を招待して行われた茶会で、美しいエレノアに私はすぐに目を奪われた。
主催者である母と私に、ゲストが一人ひとり挨拶に来るのだが、10歳ですでに社交慣れしていて、美しいカーテシーに、洗練された所作のエレノアはとにかく目立っていた。
「ベネット伯爵家、長女のエレノア・ベネットでございます。本日は王妃殿下の茶会にご招待頂き、大変光栄でございます。」
海のような美しいブルーの瞳に、ホワイトブロンドの絹糸のような髪を持つ愛らしい美少女。
側近選びの茶会であって、婚約者探しではないのに、私はエレノアに目を奪われてしまった。
他の令嬢は、王子という私の身分に惹かれるのか、しつこいほどに纏わりついてくるのに、エレノアは初めから私に興味を持ってないことが分かった。
その後も何度か茶会に招待して、顔を合わせる機会はあったのだが、主催者に挨拶に来る時以外は、全く私に近づかないし、目が合うこともなかったからだ。
友人の令嬢達や知り合いらしき令息達と、楽しそうに料理を食べている姿をよく見た。
私もあそこに混ざりたいと何度思ったことか…。
「マテオ。貴方、ベネット伯爵令嬢を気に入ったのね。お茶会でずっとベネット伯爵令嬢を目で追っていたもの…。
お母様も、ベネット伯爵令嬢は素敵だと思うし、あの子なら王族に嫁いでも何の問題もないと思うの。
でも…、第二王子はまだ婚約者を決めてはいけないことは分かっているわよね?」
「…分かっておりますから、ご心配なく。」
第二王子は、無駄な派閥ができたり政治的な混乱を避ける為に、兄の王太子が結婚し、王位を継ぐのに何の問題もなくなってからでないと、婚約者を決めてはいけないことになっている。
王太子である兄と比べると自由にさせてもらえて、兄弟の仲も良く何の不満もなかった私は、そのことに対しても何も言えなかった。
そんな私は15歳になり、王都の貴族学園に入学する。
学園は成績ごとにクラス分けされており、私のクラスは上位貴族ばかりのAクラス。そのクラスでは勿論、エレノアも一緒だった。
成績優秀なエレノアを強引に生徒会に入れて、3年間ずっと近くにいた。〝エレノア〟と呼び捨てにして、特別なのだと周りにアピールした。
我が国有数の大金持ちで、成績優秀で美しいエレノアを狙う子息は沢山いたのを知っていたからだ。
エレノアは少し嫌がっていたが、嫌がる顔も可愛いし、嫌がりながらも、私に媚を売らずにいつも本音で話をしてくれるエレノアとの時間は、いつも居心地が良かった。
そんな私がエレノアと呼び捨てで呼んでいたら、なぜか両親までエレノアと呼ぶようになっていた。
学園最後の年を迎える。
兄上は結婚して数年が経ち、跡継ぎにも恵まれた。数年以内には王位を継ぐ準備も整うだろうから、私が学園を卒業した後くらいには、私の婚約者を決められるだろうと両親や兄と話をしていた時だったと思う。
「マテオ、お前に知らせなければならないことがある。」
国王である父に急遽執務室に呼ばれると、そこには母上もいた。
「何かありましたか?」
「ベネット伯爵家とロジャース伯爵家から、婚約の許可願いが届いた。」
突然のことで、頭が回らなかった…。
「え…?ロジャース伯爵?」
「エレノアとロジャース伯爵との婚約を認めてほしいそうだ。
先程、ベネット伯爵を呼び出して話を聞いたのだが、エレノア本人が強く望んでいるらしい。」
ロジャース伯爵は、少し年上の見目麗しい伯爵だった。
でも、あの伯爵家は確か……
「ロジャース伯爵家は、借金で没落してもおかしくはない家門ですよね?
エレノアは年上の伯爵に騙されているのではないのですか?」
「エレノアはそれを知っているそうだ。金が無くても、私が稼げばいいとまで話しているらしい…。」
確かに、エレノアは学生という立場でありながら、すでに投資家としても活動していて、個人資産を沢山持っていると聞く。
そんなエレノアを狙って、最近では夜会で年上の令息達がエレノアに群がっているのは知っていた。
学園内で虫除けは出来ても、貴族の邸での夜会には、私の身分では頻繁に参加出来る立場ではなかったから、心配はしていたのだが…。
「そんな……。納得出来ません。」
「マテオ!残念だけど、ロジャース伯爵家とベネット伯爵家が婚約すること自体は、派閥から見ても爵位から見ても何の問題もないわ。
没落しそうで力のないロジャース伯爵家と、大金持ちだけど政治には全く関心のないベネット家の婚約は、王家から見ても何の脅威にもならないから、反対できる理由がないのよ。」
「………。」
「私にとっても残念でならない。だが、反対出来る理由がない以上は認めるしかないのだ。
マテオ、分かってくれ…。」
「………はい。」
10歳の時に一目惚れしてから、ずっと好きだったのに…。
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