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閑話 アブス子爵令嬢
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朝帰りした私は、お母様に無断外泊を責められた。
しかし、お酒に酔ったロジャース伯爵様と一夜を供にしたことを報告すると、お母様の目の色が変わったのが分かった。
「お母様がロジャース伯爵様と夫人に話をつけてあげるわ。
ところで…、避妊はしてあるのかしら?」
「…していません。」
「そう…。良くやったわ!
子供を早く身籠もってしまったほうが第二夫人でも強い立場にいられるから、避妊薬は必要ないわね。」
「はい…。」
お母様は押しが強いから、優しいロジャース伯爵様や、私より年下で若い夫人を上手く言いくるめてくれるだろう。たとえ爵位が上であっても、あの2人なら何とかなりそうだわ。
それを期待してロジャース伯爵家に話し合いに向かったのに…
『あら?伯爵夫人である私が発言を許してないのに、こちらの方はなんて無礼なんでしょうか!』
『妻を持つ男性と閨を共にする非常識な令嬢の親も非常識なのかしら?まずは跪いて謝るくらいのことをしてもよろしいのではなくて?』
『あらあら、私は被害者だということをお忘れですか?アナタとアブス子爵家に慰謝料を請求して今すぐ離縁してもいいのです。』
『アブス子爵令嬢は、殿方が休んでいる部屋に忍び込むほどの尻軽だとは思っていませんでしたわよ。』
ロジャース伯爵夫人は、お母様のその上を行っていた。私より年下なのが信じられない…。
強烈で押しの強いお母様を黙らせてしまったのだ。
しかも、伯爵様に離縁したいとはっきりと伝えて、伯爵様は泣きそうになりながら、必死に跪いて謝っている。
「私には第二夫人は要らない」「エレノアだけ」「離縁はしない」と、そればかりを口にする伯爵様。
夫人の方が伯爵様を好きになって結婚したって聞いていたのに、これは何なの……
その姿は、伯爵様の方が夫人を深く愛していて、夫人に対して捨てないで欲しいと懇願しているように見えた。
私はここまでしたのに…。心はズタボロだわ…。
しかも夫人からは、不貞の慰謝料を請求したいとか、多額の持参金の話までされてしまい、私達家族は何も言えなくなってしまった。
純潔を奪われたことを盾にして、こちらが優位に話を進めるはずだったのに、ロジャース伯爵夫人は止められなかったのだ。
結局その日、話し合いは上手くまとまらなかった。
後日の話し合いの時だった。
夫人の義弟のベネット卿から、私が媚薬を使用したことを、証拠まで提示されてバラされてしまったのである。
あんなに沢山の支店や客がいるから、私が媚薬を買ったことなんて分かるはずはないと思っていたのに。
まさか同意書にそんな重要なことが書いてあったなんて…。店内にあんな最新のカメラがあることも知らなかった。
壮年用の強い媚薬の副作用ですって…?
私の手落ちだわ。あの時に、きちんと薬師の説明を聞かなかった私が悪い。
ベネット卿の話に私は何も反論出来なかった。
そんな私にロジャース伯爵様は、憎悪のこもった目を向ける。
「アブス子爵令嬢!君がそんな人間だったとは!
私に妻を裏切らせ、第二夫人になって、私の子供を産めば、全て手に入れられると思ったのか?
犯罪者である君の子供なんて認められないし、私の妻はエレノアだけだ!
君も、君が産むかもしれない子も、私は一生愛することはないだろう。
私は君が憎い!!」
私はただ貴方の愛が欲しかっただけなのに……
始まってもないのに、終わってしまった……
それでも私は……、貴方が諦められない。
貴方の側にいたいの……
話し合いを終えて、無言で子爵家の邸に帰って来た後、すぐに両親と弟と私で家族会議することになる。
「姉さん、いつ結婚するか決まったか?」
事情を知らない弟は、私が何の問題もなく結婚出来ると思い込んでいる。
「「………。」」
「えっ?もしかして、正妻が泣いて嫌がったとか?」
そんな弟を無視するように、真顔のお父様は私に酷なことを話す。
「…ララ、お前はどうするつもりだ?お前のせいで、この子爵家は終わりになるかもしれない。
……修道院に行け。こんな状態で結婚しても、お前は幸せになれない。」
「アナタ、修道院はあんまりですわ!もし妊娠していたらどうするのですか?」
「…お前が全て悪い。親の贔屓目で見ても、ララは特別美しくもなく、何か特技があるわけでもないし、優秀でもない。うちの子爵家だってわざわざ縁を結びたいなんて思われるような家門でもない。
それなのにお前は、金持ち貴族やウチよりも爵位が上の縁談にこだわって、少ない縁談にすら見向きもしなかったじゃないか。
あの時に子爵家でも男爵家でもいいから、身の丈に合った縁談を受けて結婚させていればこんなことにはならなかったのだ。
馬鹿者が!!」
普段は穏やかなお父様がお母様を怒鳴っていた。
「……うっ。うっ……っ。」
あのお母様が泣いている。
「父上、何があったのです?」
「クリフ…。次期当主であるお前にも話しておく。
ララは、媚薬を盛ってロジャース伯爵を陥れた。それをベネット家の次期当主にバレて、証拠を突きつけられたのだ。これは立派な犯罪だ…。
夫人は慰謝料を請求してきている。払えなければ、ララを告訴するそうだ。慰謝料は1億ユールだと言われてしまった。
ロジャース伯爵もベネット卿もララに激怒していた。ベネット家に睨まれたら、うちは何処とも取引が出来なくなってしまう…。」
「……姉さん、その話は本当か?」
「クリフ。………っ。ごめんなさい。」
涙が溢れてきた……
しかし、お酒に酔ったロジャース伯爵様と一夜を供にしたことを報告すると、お母様の目の色が変わったのが分かった。
「お母様がロジャース伯爵様と夫人に話をつけてあげるわ。
ところで…、避妊はしてあるのかしら?」
「…していません。」
「そう…。良くやったわ!
子供を早く身籠もってしまったほうが第二夫人でも強い立場にいられるから、避妊薬は必要ないわね。」
「はい…。」
お母様は押しが強いから、優しいロジャース伯爵様や、私より年下で若い夫人を上手く言いくるめてくれるだろう。たとえ爵位が上であっても、あの2人なら何とかなりそうだわ。
それを期待してロジャース伯爵家に話し合いに向かったのに…
『あら?伯爵夫人である私が発言を許してないのに、こちらの方はなんて無礼なんでしょうか!』
『妻を持つ男性と閨を共にする非常識な令嬢の親も非常識なのかしら?まずは跪いて謝るくらいのことをしてもよろしいのではなくて?』
『あらあら、私は被害者だということをお忘れですか?アナタとアブス子爵家に慰謝料を請求して今すぐ離縁してもいいのです。』
『アブス子爵令嬢は、殿方が休んでいる部屋に忍び込むほどの尻軽だとは思っていませんでしたわよ。』
ロジャース伯爵夫人は、お母様のその上を行っていた。私より年下なのが信じられない…。
強烈で押しの強いお母様を黙らせてしまったのだ。
しかも、伯爵様に離縁したいとはっきりと伝えて、伯爵様は泣きそうになりながら、必死に跪いて謝っている。
「私には第二夫人は要らない」「エレノアだけ」「離縁はしない」と、そればかりを口にする伯爵様。
夫人の方が伯爵様を好きになって結婚したって聞いていたのに、これは何なの……
その姿は、伯爵様の方が夫人を深く愛していて、夫人に対して捨てないで欲しいと懇願しているように見えた。
私はここまでしたのに…。心はズタボロだわ…。
しかも夫人からは、不貞の慰謝料を請求したいとか、多額の持参金の話までされてしまい、私達家族は何も言えなくなってしまった。
純潔を奪われたことを盾にして、こちらが優位に話を進めるはずだったのに、ロジャース伯爵夫人は止められなかったのだ。
結局その日、話し合いは上手くまとまらなかった。
後日の話し合いの時だった。
夫人の義弟のベネット卿から、私が媚薬を使用したことを、証拠まで提示されてバラされてしまったのである。
あんなに沢山の支店や客がいるから、私が媚薬を買ったことなんて分かるはずはないと思っていたのに。
まさか同意書にそんな重要なことが書いてあったなんて…。店内にあんな最新のカメラがあることも知らなかった。
壮年用の強い媚薬の副作用ですって…?
私の手落ちだわ。あの時に、きちんと薬師の説明を聞かなかった私が悪い。
ベネット卿の話に私は何も反論出来なかった。
そんな私にロジャース伯爵様は、憎悪のこもった目を向ける。
「アブス子爵令嬢!君がそんな人間だったとは!
私に妻を裏切らせ、第二夫人になって、私の子供を産めば、全て手に入れられると思ったのか?
犯罪者である君の子供なんて認められないし、私の妻はエレノアだけだ!
君も、君が産むかもしれない子も、私は一生愛することはないだろう。
私は君が憎い!!」
私はただ貴方の愛が欲しかっただけなのに……
始まってもないのに、終わってしまった……
それでも私は……、貴方が諦められない。
貴方の側にいたいの……
話し合いを終えて、無言で子爵家の邸に帰って来た後、すぐに両親と弟と私で家族会議することになる。
「姉さん、いつ結婚するか決まったか?」
事情を知らない弟は、私が何の問題もなく結婚出来ると思い込んでいる。
「「………。」」
「えっ?もしかして、正妻が泣いて嫌がったとか?」
そんな弟を無視するように、真顔のお父様は私に酷なことを話す。
「…ララ、お前はどうするつもりだ?お前のせいで、この子爵家は終わりになるかもしれない。
……修道院に行け。こんな状態で結婚しても、お前は幸せになれない。」
「アナタ、修道院はあんまりですわ!もし妊娠していたらどうするのですか?」
「…お前が全て悪い。親の贔屓目で見ても、ララは特別美しくもなく、何か特技があるわけでもないし、優秀でもない。うちの子爵家だってわざわざ縁を結びたいなんて思われるような家門でもない。
それなのにお前は、金持ち貴族やウチよりも爵位が上の縁談にこだわって、少ない縁談にすら見向きもしなかったじゃないか。
あの時に子爵家でも男爵家でもいいから、身の丈に合った縁談を受けて結婚させていればこんなことにはならなかったのだ。
馬鹿者が!!」
普段は穏やかなお父様がお母様を怒鳴っていた。
「……うっ。うっ……っ。」
あのお母様が泣いている。
「父上、何があったのです?」
「クリフ…。次期当主であるお前にも話しておく。
ララは、媚薬を盛ってロジャース伯爵を陥れた。それをベネット家の次期当主にバレて、証拠を突きつけられたのだ。これは立派な犯罪だ…。
夫人は慰謝料を請求してきている。払えなければ、ララを告訴するそうだ。慰謝料は1億ユールだと言われてしまった。
ロジャース伯爵もベネット卿もララに激怒していた。ベネット家に睨まれたら、うちは何処とも取引が出来なくなってしまう…。」
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