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閑話 ロジャース伯爵

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 エレノアと一緒の時間を過ごしたいと思うのだが、なかなかその機会は訪れなかった。

 そんなある日、友人のオルコット侯爵から夜会の招待状が届く。招待状には、妻のエレノアも是非と書いてあった。
 友人達は、事業で成功しているエレノアに興味があるようで、友人の奥方達もエレノアに会いたがっているらしい。

 私としては、友人達のことは関係なかった。
 今の私は、夜会でしかエレノアと一緒の時間を過ごすことが出来ないのだ。彼女と同じ時間が過ごせるならばと、エレノアを夜会に誘ってみようと思った。

 エレノアの所へ直接行き、夜会に一緒に行って欲しいと頼み込む。
 結果的には一緒に行ってくれることになったのだが、彼女は私の友人の夜会に参加することに対して、とても拒否的であった。
 お飾りの妻にそこまで求められるのは困るとか、ダンスは一曲だけにして欲しいだとか…。

 私のあの言葉によって、エレノアは自分をお飾りの妻だと考えるようになってしまった。そんなつもりで言ったのではないのだが、今の私が何を言っても信用出来ないといった反応をされる。

 夫婦なのに…、私は夫として全く信頼されていないのだと痛感する。
 あの言葉をこれほどに後悔することになるとは…。

 しかし、彼女と一緒に参加した夜会で、私は更に後悔することになる。

 夜会では私の妻として、友人達に完璧な挨拶をしてくれるエレノア…。そんな彼女を、友人達も歓迎してくれるのだが、

「アランも早く跡取りができるといいな。子供はかわいいぞ!」

 友人達はすでに子供がいる者が多く、私達にも早く跡取りが出来ることを望むようなことを口にする者が多いのだ。
 友人達はいい奴ばかりだから、悪気はないのは知っている。
 貴族なのだから、跡取りを望むのは当然なのだし、子供が好きだからそのようなことを話すのだろう。
 しかし、私達はきちんと初夜を済ませていないのだから、子供なんて望める状態ではないのだ。

 私が初夜を…、閨を拒否するようなことを言ってしまったのがすべて悪い。

 友人達のその言葉は、エレノアを傷付けているだろうし、今後エレノアは、私の友人達とは関わりたいとは思わないだろう。

 しかも友人達の夫人に至っては、今社交界で流行っていて予約を取ることすら難しい、エレノアの店に行きたいと言い出す始末…。
 予約が取れないのを知りながらそのようなことを口にするなんて…。直接の友人でもなく、初対面に近い関係なのに、それは厚かましいのではないだろうか。

 エレノアは、始めからこうなることを予想していたのかもしれない。
 せっかく一緒に来てくれたのに、こんな嫌な思いをさせてしまうなんて。私はそんなつもりはなかったのに。

 そんな私は、夜会に来ている時くらいは、エレノアの側にずっと付いていたいと考えていた。それなのに、よく分からない令嬢にダンスに誘われてしまう…。
 ダンス中、令嬢が何か話していたが、全く会話の内容は入ってこなかった。一曲踊り終えて、急いでエレノアや友人達のいた場所に戻ると、すでにエレノアの姿はなくなっている。

「夫人なら、王子殿下にダンスに誘われて行ってしまったぞ!」

「王子殿下が来ていたのか?」

「ああ。…そういえば、従兄弟が言っていたんだよな。」

「何をだ?」

「アランの夫人は綺麗で優秀だろ?しかも実家は金持ちだから、学園で夫人を狙っていた令息は沢山いたって。
 でも、いつも王子殿下が側にいて、他の令息は全く近づけなかったらしいぞ。
 アランと婚約した時、従兄弟は驚いていたんだよ。夫人は王子殿下と婚約するのかと思っていたって。」

「………。」

「…アラン?そんな顔するなよ。さっき、2人が話している姿を見たけど、夫人は全く殿下に興味は無さそうだったぞ。殿下にあんなに冷たい態度を取れる夫人はすごいな!殿下もそんな夫人を面白そうに見ていたし。
 夫人はアラン一筋なんだから、心配ないだろ。」

 一筋どころではなく、私は嫌われてしまっている…

「ほら、あそこで踊っているから、踊り終わったら、迎えに行けばいいだろ。」

 友人が教えてくれた方を見ると、嬉しそうにエレノアを見つめる王子殿下とダンスをするエレノアの姿が見えた。

 美しい2人はお似合いに見えた…。

 この感覚は何なのだろう?
 他の男とダンスをするエレノアを見るのが辛い。そういえば、前のパーティーで義弟とダンスをしている姿を見た時もこんな気分だったと思い出す。

 他の男と仲良くして欲しくないと感じてしまう、この不愉快な感情。

 もしかして、これは嫉妬……?


 
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